緊張逃避行5
「どうやら戦争の話は本当のようですね」
捕虜がいなくなって少しスピードアップして、町についたジケたちはシュトレイブルを訪ねた。
「事前に分かってよかったです。また返すべきご恩が増えてしまいましたね」
ヘスイトスはもう高齢のために完全に引退しているが、メクシトロはまだまだ現役で動いている。
こうした場合ケリステンが動くべきなのだが、まだ経験が浅いためにメクシトロが主導してシュトレイブルは警戒を強めていた。
町そのものはまだ戦争の気配を感じさせてはいない。
しかしシュトレイブルの家中では大きな緊張が高まっている。
「お連れしました」
「あっ、悪かったな。大変だったろ?」
「いえ、これぐらい大丈夫です」
ドカナイの連中に逆恨みされても困る。
ジケたちと一緒に行動しては裏切ったことがバレバレになってしまうので、アマーチとメソラも一応捕虜扱いしていた。
そのおかげなのか、アマーチたちが戦争のことを漏らしたとはバレていなかった。
もうここまで来ると偉い奴の息子の目は節穴どころの話ではない気もするが、なんにしても好都合ではあった。
ここからアマーチとメソラのことはジケたちが引き取って、連れていくつもりである。
「まだ戦争にはならない……とは思いますが、念のため兵士をつけましょう」
降って湧いた戦争話は、シュトレイブルにとっても初耳であった。
最近馴れ合いにも近い小競り合いが続いていたので、多少警戒は疎かになっていたことは否めない。
しかしドカナイの動きを常に警戒していたことに変わりはなく、戦争なんて動きがあれば気づけたはずだった。
なのにいまだに外から見て、ドカナイに大きな動きは見られない。
よほど上手く隠しているのだろうとメクシトロは強く警戒していた。
隠しているということは本気であるということとイコールだ。
いざ戦争が始まる時になれば、隠しきれない動きがある。
そうしたものは見られないからまだもう少し時間はあるはずだと考えている。
だが万が一の場合を考慮して、移動するジケたちに護衛の兵士たちをつけてくれることとなった。
「ねねね」
「なんですか?」
「ちなみにあいつらはどうなるの?」
あいつらとは捕虜となった連中のことである。
「なかなか難しいところですね。何人かはすでに話を聞かせていただいてます。人質としての価値がありそうな者もいましたので、そうした人はもう少し隠しておきましょうか」
戦争が始まらないなら平和的に返してもいいかもしれない。
けれども戦争が始まるなら偉い奴の息子は交渉のカードになる。
「ふぅーん」
「ご心配なさらずともフィオス商会のことは忘れるようにしておきますよ」
「そう……なの」
メクシトロはニッコリと笑う。
人の良さそうな笑顔に見えるが、人の記憶なんか消せるわけもないはずで何をするのかピコも怖くて聞けなかった。
「出発も早くなさりたいでしょうし、旅の補給の用意はすでにしてあります。戦争が始まってしまう前に、早くイルヒッコクを抜けてしまった方がいいでしょう」
「そうさせてもらいます」
ーーーーー
「馬に乗れてよかったね」
流石にアマーチとメソラまで乗ると馬車は人数オーバーになってしまう。
ただメソラが馬に乗れたので、アマーチを前に乗せて二人乗りでなんとか一緒に移動することができた。
あまり乗馬には慣れていないので移動スピードは上がらないがしょうがない。
「あと二日も国境を越えられると思います」
「最後まで悪いですね」
「いえ、これが俺の仕事なので」
つけてもらった兵士を率いるのはゲルシトンだった。
本当に最後の最後までしっかりと責任を取って、ジケたちの面倒を見させるようである。
「何小難しい顔してんだ?」
エニが複雑そうな顔をしていることにジケは気づいた。
「いや……怪しいなと思って」
「怪しい? 何が?」
「あまりにもスムーズだなって」
「どゆこと?」
「だってジケだよ?」
エニは呆れたような顔をしてジケのことを見る。
「なんだよ?」
急に呆れられても理由がわからない。
ジケはエニの顔を真似するようにして見返す。
「上手くいかない……わけじゃないけど上手くいくまで大体なんかあるのがジケでしょ」
「なんかってなんだよ……」
多少の心当たりがあるジケの勢いは弱い。
「だから、なんもなくスムーズに来ちゃってるなぁって思ったの」
「スムーズって……一応色々あったろ?」
シュトレイブルのアホに絡まれたり、ドカナイのアホに絡まれたりとトラブルはあった。
「まあ、そうっちゃそうだけど、まあジケの場合もう一悶着ありそう……な感じ?」
「トラブルを引き寄せる男、ジケ君……」
「トラブルの方がほっといてくれないんだよなぁ。ただ、縁起悪いからやめてくれ!」
今そんなことを言われると本当に何かが起こってしまいそう。
「トラブルなんて無い方がいいんだからさ」
「そりゃそうね」
「でもトラブル引き寄せるジケ君が悪いんだもんねー、ミュコちゃん」
「ねー」
「……止まってください!」
自分が悪いのだろうか。
ジケがそう思い始めていたら、ゲルシトンの声が聞こえて、馬車が止まった。




