おバカ、島流し
「正式に謝罪しよう。……本人ではないから不満かもしれないが、この年寄りの謝罪で許してはくれんか?」
舞台を降りたジケにヘスイトスが頭を下げた。
本人は涙を流しながら逃走してしまって、どこにいるのかも分からない。
戦いの姿は情けなくとも、せめて決闘の事後ぐらいしっかりと終わらせればいいのに戻ってくる気配もない。
「……こっちもちょっとカッとなってのことだったので……謝罪を受け入れますよ」
ジケも気まずそうに答える。
ちょっとやりすぎたかなと思う。
倒そうと思えば倒せたのだけど、色々怒っちゃって意地の悪いやり方をした。
ただ後悔はしていない。
ヘスイトスにも文句を言われるぐらいの覚悟はしていた。
だがヘスイトスは素直に謝罪したのだ。
やはり人間性の出来が違う。
年長者のヘスイトスに頭を下げられては、ジケも怒った対応をするわけにいかない。
クリストフを完璧に負かしたので、ジケの溜飲も下がった。
「すいません、決闘なんか受けちゃって」
「いえいえ、幼き時より鼻をへし折るような近い年の相手がいなかった……本物の戦場で同じように調子に乗れば鼻が折れるところでは済まない。むしろ感謝いたしますよ」
この出来た曽祖父からどうやったらあんなヘタレが生まれるのか、ジケは少し不思議だった。
割と父親も悪いのかもしれないとうっすら感じる。
「お約束の件はこちらで責任を持ちましょう。明日にはクレインヘルス台地にクリストフを送ります」
「おじいさま! 本気ですか!」
「三年間はあそこで根性を鍛えてこい」
ケリステンが驚いたように叫び、ヘスイトスは冷たい視線を向ける。
ジケに向けていた優しい顔とは全く違い、ケリステンは顔をこわばらせる。
後に聞いた話によるとクレインヘルス台地とはドカナイと国境を接する場所の一つらしい。
ただメインの小競り合いが起こる場所ではなく、時々不意をつくように相手が越境してくるので一応兵を駐屯させているらしかった。
周りに町もなく、娯楽もない。
相手が攻撃してくる確率も低いが、暇だからと油断すると襲ってくるので気も抜けない。
なのでただひたすらに体を鍛えて修行する場となっていた。
陸の孤島、島流し、そんなふうにシュトレイブルの兵士たちは呼んでいる。
本来ならば半年の交代で兵士たちが送り込まれるが、クリストフは三年間もそんなところで幽閉されることとなった。
することなくてみんなで体を動かすので、鍛えるのにはいいのかもしれない。
「お前もいくか? ワシもメクシトロもまだ元気だ。一年ぐらいなら構わんぞ?」
「…………いえ、おじいさまの判断を尊重いたします」
家督はもうケリステンに譲られているが、まだまだヘスイトスは健在である。
ケリステンも頭が上がらない。
「……ご迷惑をおかけした補償もいたします。細かくは……」
「んー、ちょっと待ってください」
「何でしょう? 他に望みでも?」
別にジケにお金は必要ない。
迷惑料でこの話を終わらせるということも理解はできるが、ジケはもうちょっと他の形で返してもらえないものかと考えた。
「たびたびドカナイについて話が聞こえるんですが、実は俺たちドカナイに向かう予定だったんですよね」
「ドカナイに? …………正直やめておいた方がよろしいかと」
ヘスイトスは渋い顔をする。
ドカナイは多少文化的に異なっている雰囲気のある国である、というぐらいにしかジケは聞いていない。
多少調べたが、隣の国に手を出すようなヤバいところだとは知らなかった。
どうにもジケもあまり乗り込んでいくのは危険かもしれないと感じ始めていた。
最初はシュトレイブルに協力を要請するつもりはなかったのだけど、こうなったら大きな力を借りるのも一つだろうと思えてきたのだった。
「実は……」
ジケはヘスイトスにここまで来た目的を話し、お金はいらないから代わりに手伝いを要請した。
本来の目的は詐欺師である。
詐欺師を追いかけるためにこちらに来たのだけど、ミュコを守ることができたのでついてきてよかった。
クリストフは屈強な兵士たちが捕まえて、馬車に詰め込んでクレインヘルス台地に送られたそうであった。




