舞台の上の決闘3
「はっ……なかなかやるものだな」
ヘスイトスは思わず感心してしまう。
それはクリストフに対してではなく、ジケに対してだった。
クリストフの動きが完全に読まれている。
まるで未来でも見ているよう。
さらにはジケの動きには無駄が少なく、舞台という場所も相まって踊っているかのようにすら見えていた。
「……正直彼のことを軽んじて考えておりました」
ケリステンも同じくジケの技量に舌を巻く。
頭の中で考えていたのは、クリストフが勝った後に事態をうまく収める方法だった。
クリストフが言うように代理を立てて決闘をすればいいのに、とすらケリステンは思っていたぐらいだ。
けれども予想外のジケの実力に驚くしかない。
「あんな子供……しかも商人にクリストフが負けると言うのですか?」
「相手のことを認められず悪様に言うのは感心せんな。相手を下げて言葉を吐き出して、クリストフがそれ負けたらどうする?」
仮に相手をクズだと言って、負けてしまえばクズに負けたということになる。
あんな子供、商人と下に見るような発言は、全くもって誰のためにもならない言い方であった。
「理解はできなくないがな……」
一見するとクリストフが激しく攻め立てている。
だが攻撃は一度も当たっておらず、クリストフの焦りや苛立ちが大きくなっていっていることをヘスイトスは感じていた。
焦りや苛立ちが表に出てきてしまった時が、すなわち勝負の動く時である。
「このおいぼれの謝罪で許してもらえるだろうかな……」
八十年の人生で戦いに費やしてきた時間は大きい。
ジケとクリストフの戦いは、もうすでに結果が見えていた。
戦い始めるまではヘスイトスもジケの実力を見抜けてはいなかった。
「あの歳で爪を隠す賢さも持っているか。歌劇団のお嬢さんとの関係は知らないが……捕まえられるなら捕まえておくべきだろうな」
ジケはモテると言われて謙遜していたが、その理由がはっきりと分かった。
ミュコを守る姿勢も男らしく、そして実際自分の腕っぷしで守ろうとしている。
これが惚れずにいられるか。
花を贈り、歌劇団を力で手に入れようとしているひ孫の姿にヘスイトスはため息しか出てこなかった。
「くっ、この! 逃げるしか能がないのか!」
プルン。
かわすたびにフィオスが揺れる。
それもまたクリストフの気に触る。
簡単に終わるだろうと思っていた。
なのに実際に戦ってみるとジケの毛の一本にすら剣が届かない。
ドカナイとの小競り合いの中で、人をだって殺したことがある。
自分の方が年が上だし経験も違うはずなのに、まるで祖父のメクシトロを相手にしているような感覚に襲われていた。
冷静沈着で真剣を恐れていない。
剣が当たらないと分かっているかのよう。
「……こんなもんか」
やはり代理を立てなくて正解だった。
別に弱くはないけれど、そんなに強くもない。
技量はそこそこだけど、苛立ちが剣筋に現れ始めていて精神的な未熟さが見てとれた。
ニノサンなんかを代理に立てたら、抵抗もできずにやられていたことだろう。
「……なんだと!」
ジケの呟きが聞こえて、クリストフの頭に血が昇る。
クリストフも剣を頑張ってきたのだろう。
ある程度戦場も経験しているのかもしれない。
だけど切実さが足りない。
生きるため。
守るため。
変えるため。
ジケは必死になってグルゼイの下で剣を学んだ。
命懸けの戦いだって何度も経験してきた。
クリストフが戦った戦場も甘く見れば命はかかっているだろうが、それなりに戦えば互いに手を引く緩いものである。
「やった! …………なにっ!?」
本気の戦場では予想外のことも起きうる。
たとえば、切ったと思ったスライムが剣を弾くほどに硬かったりするなんてことも、ごく稀にあるのだ。
ようやく剣が届いた。
しかも手に持ったスライムを切ってやった、と喜びかけたクリストフはすぐに驚くことになった。
金属化したフィオスに当たった剣は弾き返されてしまったのである。
「なんだそのスライム……」
「可愛いだろ? 俺の自慢のパートナーだよ!」
上側だけ金属化したフィオスにクリストフは困惑している。
「うっ、ゲフッ!」
「こんなこともできるんだよ!」
困惑から立ち直る暇を与えない。
ジケが剣を剣を振り、クリストフは頬に迫った剣をギリギリ防御する。
だが即座に続いた衝撃にクリストフの体がくの字に曲がった。
「なっ……」
視線を下げると何かがクリストフの腹部に突き刺さっていた。
ジケが左手に持った何かは、太い金属の棒のように見えた。
左手にはフィオスがいたはずなのに、いつの間にか金属の棒になっている。
痛みと訳の分からなさでクリストフはさらに混乱してしまう。
「ぶほっ!?」
もちろんジケが持っている金属の棒はフィオスが変形したものだった。
混乱するクリストフの横っ面をフィオス棒で殴りつける。
今のフィオスはやや金属っぽいけれど、完全に硬いわけじゃない弾力のあるぐらいの硬さになっていた。
要するに、殴られるとただ痛い。
気絶したり再起不能になるようなダメージはないのに、とにかく痛みはある。
叩かれるとペシンと派手に音が鳴り響くようなお仕置き棒になっていた。
「どりゃっ!」
「いてぇ!」
ジケがクリストフのお尻をフィオス棒で叩きつける。
乾いた音が鳴り響き、思わずクリストフの背中が伸びる。




