決闘を申し込む!2
「念の為……いくらか預かってくれ、フィオス」
好きなもの買えるようにみんなにもお金を持たせてある。
当然ジケもお金を持っているが、人通りが多くなるとどうしても手癖の悪い人は現れる。
懐からスッとお金を盗む技術には、驚かされるようなことだってあるのだ。
魔力感知で警戒していれば盗まれることはまずない。
それでも楽しむのに絶対安全なお金ぐらい一つ備えておく。
フィオスにもお小遣い的な感じで、お金の入った小袋を体の中に持っておいてもらう。
これなら誰にも盗まれない。
「それじゃあしゅぱー……」
「ちょっと待ったぁ!」
「ミュコ?」
この場にミュコはいなかった。
当然公演があるので練習とか色々忙しかった。
遊びに行くのもミュコ抜きで行くしかない。
と思っていたら劇場の方にいるはずのミュコが何故かここにいる。
「私も行く!」
息を切らせるミュコは走ってきたように見えた。
「間に合ってよかった!」
「……本当にいいのか?」
止めるようなつもりはないけれど、公演の前である。
「今しかチャンスないからね! むしろ今だけだから!」
ミュコの鼻息は荒い。
お祝い期間の最後までジケたちがいるわけじゃないということも理由だが、公演があるということもまた一つの理由だ。
今日は午後からお祭りが始まるので、午後の公演だけになる。
しかし次の日からは午前午後の二公演開催となってしまう。
そうなるともう一日疲れて動けない。
初日はシュトレイブルを始めとした貴族も訪れる遅めの時間に始まるので、幸いにしてまだ時間の余裕がある。
お祭りを楽しむなら今しかない。
ということで歌劇団の大人たちも行ってこいとミュコを送り出してくれていた。
「だから私も行くよ!」
「んじゃ、行こうか」
ミュコだけ仲間はずれなのは可哀想だ。
歌劇団の方に問題がないのならジケに言うことはない。
「やったね、ミュコちゃん!」
「やったよ、ピコちゃん!」
ミュコも加えて町に繰り出す。
「迷子になるなよ、ピコちゃん?」
「なんで私?」
「色んなものに目を奪われそうだから」
今いる中で注意力散漫になりがちなのはピコである。
やはり北の世界と違って物珍しいことがたくさんあるので、ピコの注意はあちこち逸れてしまいがち。
獣人であることもまた一つ心配な理由だ。
「んじゃー……手でも握っててよ!」
「俺の手はフィオスで埋まってるからな。エニとミュコとでも握ってなよ」
「分かった!」
「えっ?」
「はい、これでよし!」
流石に手を繋いであるのは恥ずかしいとジケが断ると、ピコはサッとエニとミュコの手を取った。
横に広がるのはちょっと邪魔かもしれないけれど、子供が手を繋いで歩いていて怒る大人もそんなにいない。
ピコと手を繋いでいればエニとミュコも逸れなくて安心である。
「あっ! あれ美味しそ……あっ!」
「早速……」
「あはは、しょうがないね」
屋台を見つけてふらりと寄っていきそうになったピコは、手を繋いだ二人に引き戻される。
手を繋いでおいてよかった。
「あれ買うか?」
「うん!」
せっかくならとピコが引き寄せられかけた出店のものを買う。
タレに漬け込んだ肉を串焼きにしたもので、みんなの分を一本ずつ注文する。
「……はっ! ジケ君!」
「なんだ?」
「ピコちゃんすごいことに気づいちゃった!」
「何に気づいたんだ?」
「手を握ったままだと食べられない!」
まあなんとも可愛らしい気づきだなとジケは思った。
「どっちの手を放す?」
「ピコちゃん……私の手を放しちゃうの?」
「えっ、ええっ!?」
エニがイタズラっぽく笑い、ミュコがそれに乗っかる。
食べるだけなら片方手を放せばいい。
しかしエニとミュコのどちらの手を放すのか、それが問題である。
どちらも大切な友達であり、どちらの手を放すのかピコは謎の決断を迫られた。
エニもミュコも困惑しているピコを見てニヤニヤとしている。
「うんめぇ」
リアーネは先に串焼きを頬張り、ジケは受け取ったみんなの分の串を指に挟んでピコの決断を待つ。
フィオスも先に串焼きを体の中でグルグル回して食べ始めている。
「どーするぅ?」
「ピコちゃん……」
エニはわざとらしく手を強く握り、ミュコはウルウルとした感じでピコを見つめる。
「……ピコちゃん的解決法!」
「あっ!」
「まあ、円満だな」
悩んだ末にピコは一つの完璧な解決法に辿り着いた。
ピコは両手を放して天に突き上げる。
片方だけ放すと角が立つのなら両方放してしまえばいいということなのである。
丸い解決法だった。
仮に片方だけ放したとしても、エニもミュコも文句は言わないとジケは思うけれども。
「なんだろ?」
人のざわめき方が変わった。
なんだろうと不思議に思っていたら、人が道を開け始めたのでジケたちも端に寄る。
「ケリステン様だ!」
「どうやら間に合ったようだな」
人が割れ、空いた道の真ん中を馬に乗った騎士たちが通り過ぎていく。
「なるほど。現在の御当主のお帰りか」
騎士たちはシュトレイブルの者である。
ドカナイとの小競り合いを解決して帰ってきた。
先頭にいる三十代後半の男性がシュトレイブルの当主であるケリステンという人だった。




