決闘を申し込む!1
「割と良いところみたいだな」
シュトレイブル統治二百年かつヘスイトス八十歳の誕生日まではまだ時間がある。
挨拶までしたのでフィオス歌劇団の公演初日にはジケも観に行く予定となっていて、イルヒッコクに滞在を続けていた。
用意されたお屋敷に不便なことはなく、細やかな気配りも見られた。
ミュコを含めた歌劇団のみんなは公演の準備を始めていて忙しそうにしているが、ジケの方も色々と動き回っている。
詐欺師について何か情報はないかと話を聞いて回っていたのだ。
「お隣さんが問題だけど……」
「逆にそのせいでみんな結束してるのかもね」
シュトレイブル統治二百年というが、確かに住民のシュトレイブルに対する評判は高い。
長く統治していれば不満もあるものだけど、そんな声も少ない。
特にヘスイトスの評価は高かった。
英雄なんてメクシトロは言っていたが、あながち間違いではない。
なぜなら隣の国であるドカナイと度々争いが発生していることが大きな理由である。
最近ちょいちょいと名前を聞くドカナイだが、あまり良い国ではないらしい。
イルヒッコクのシュトレイブル領は、山を挟んでドカナイと接している。
文化も大きく違うドカナイはシュトレイブルに攻め込んでくることがあるのだ。
基本的に小競り合いのようなものだが、一度本気で攻め込んできたこともある。
その時に活躍したのがヘスイトスだった。
領民の不満もゼロではない。
だがドカナイから守ってくれている、共通の敵がいるというところで結束も強くて、シュトレイブルを信頼しているのである。
「現当主も二人じゃなかったしね」
ジケはてっきりメクシトロがシュトレイブルの当主だと思っていた。
だが違った。
今はメクシトロの息子が当主としてやっている。
出迎えにいなかったが、それはまたドカナイとの小競り合いが発生してそちらに行っていたためのようである。
「シュトレイブルのことはよく分かったけど……詐欺の方はイマイチだな」
ジケは軽くため息をつく。
いきなり馬車を使って詐欺を働いている人を知りませんか、なんて聞けないので日常的な会話から入って情報を引き出してきた。
だからシュトレイブルのことはよく話に出てきて、多くのことが聞けた。
ただ聞きたかったのは、詐欺師のことだ。
どうにも、シュトレイブル周辺では顔を出していないようだった。
「まあ、安定してる地域ってのは騙しにくいもんだからな」
ドカナイとの争いはあるものの、シュトレイブルのおかげで周辺はだいぶ安定している。
詐欺師の手口は考える時間を与えずに馬車を売りつけてしまうもの。
相手が焦ることなく、どっしりと構えていると詐欺師としてはやりにくい。
情報も物流も生活も安定したところの人はそんな押し売りもやりにくいために、詐欺師が手を伸ばしていないのかもしれなかった。
「どこかでそんな話を聞いた……程度だもんな」
詐欺師っぽい話はチラッとあったものの、有力な情報ではなかった。
「まあもうちょい聞いてみて、何もなければドカナイの情報集めつつ、お祝いの祭りを楽しむか」
「うむ、楽しむのがいいとピコちゃんは思うよ! ね、フィオス!」
あまり詐欺師のことばかりで頭をいっぱいにしても楽しくない。
町の雰囲気は明るく、お祝いを前にそわそわとしている雰囲気がある。
お祝い期間は言ってしまえばお祭りであり、出店なんかも出るようだった。
どうせお祝いの期間も多少は滞在することになるなら、頭を切り替えてもよさそうだ。
「お祭り、お祭り〜」
ピコは手に持ったフィオスをシェイクするようにして踊っている。
フィオスはフィオスで揺られて楽しそう。
「もう少し祭りが近づいて人が増えれば聞ける話も変わってくるかもしれないしな」
「ピコちゃんも材料揃えてお団子作ろかな?」
「他の国に来て、そんなことするのはやめとけ。お小遣いあげるから買う方に専念しろ」
「んー、もうジケ君太っ腹!」
ーーーーー
なんやかんやと時間は流れ、お祝いの時がやってきた。
町の活気は最高潮になっている。
他の地域からも人が集まり、町行く人の数はグッと増えた。
相変わらず詐欺師についての情報はないのでお祭りを楽しむことにした。
「今日の昼からが……始まりだっけ?」
もうすでにお祭りの出店を始めているところやお祭り特別価格なんて銘打っているお店もある。
だが正確には昼からお祝いが始められる。
「お昼と夜は外で食べてこようか」
ここまでシュトレイブルが用意してくれた使用人が、料理を作ってくれていた。
せっかく色々なお店が出ていたりするので、外で食べるのもまたお祭りの楽しみ方だ。
「獣人のお祭りだと殴り合いがほとんどだけど、人のお祭りは賑やかでいいねぇ」
獣人たちのお祭りは強いやつを決めるものだった。
賑やかさはあるが、過激さもある。
対してこちらはお祝いであって血を見ることはない。
酒に酔ったとか人が多いが故のトラブルはあっても、基本は争いなんてないのである。
「ニノサンはどうする?」
「お二方がいるなら自分はここで待機しておきます」
「いいのか?」
「リアーネさんも楽しんでください」
護衛としてはリアーネとユディットがついてくる。
二人がいるなら自分はいいだろう、と賑やかなのが苦手なニノサンは屋敷で待機となった。




