楽器を直して2
「はぇー、ここがグリニジアミュジアクラッセか」
「思ってたよりも大きいね」
歴史ある音楽学校のグリニジアミュジアクラッセに到着した。
いわゆる学校であるが、アカデミーのようなものを想像していると少し違った。
伝統を感じるような古めかしい大きな建物がグリニジアミュジアクラッセである。
アカデミーのようにデカい建物がいくつもあって、寮や食堂、その他の施設があるようなものではない。
むしろアカデミーが特殊な規模の施設なのであり、学校といえば通って授業を受けるだけのようなところがほとんどなのである。
その点でいえばグリニジアミュジアクラッセは割と大きな学校だった。
「ミュコは通ったことあるのか?」
ニージャッドが楽器の修理をお願いしにいく間、ジケたちは学校の中を見て回ることにした。
グリニジアミュジアクラッセの門は広く開かれている。
音楽家になりたい本気の子供たちが通う一方で、趣味として音楽を習いたいという大人も入学できる。
そのために意外といろんな人がいた。
「んーん、私は通ったことない」
ミュコの専門はダンスである。
歌劇団としてやっていく以上楽器の一つも、と思ったことはあったのだけど、踊りに忙しくてなかなか楽器まで手をつけることはなかった。
周りのみんなが楽器を弾くので、実は全く触ったことない人以上には楽器を演奏できたりはする。
ただ人前でお金を取って披露できる腕前ではない。
残念ながらグリニジアミュジアクラッセにダンス科はないので、ミュコは通おうと思ったこともなかった。
「至るところから音楽が聞こえてくるな」
「ね、楽しいとこ」
「ついつい踊り出しちゃいそうだね」
「やめてくれよ、ピコちゃん?」
「音楽学校にピコちゃん音頭という新たな風を……」
授業で、あるいは個人や集団での練習でみんなが楽器を演奏している。
そのために学校の中には音楽が溢れている。
耳に楽しい学校だとジケとエニは感じていた。
ピコは怪しいことを考えているようだけど、流石に音楽学校でピコちゃん音頭を流行らせるのはやめてほしい。
「君たち、見ない顔だね」
「ん?」
教室を軽く覗きながら色々な楽器があり、色々な人がいて、色々な思いで楽器を演奏しているのだなと感心していた。
そろそろニージャッドの話し合いも終わっただろうかと思っていたら、学生だろう子がジケたちに声をかけてきた。
サラサラとした長めのおかっぱ頭の少年は、ジケたちと同じくらいの年頃に見える。
「こんな綺麗な子たちは初めてだ。入学希望かな?」
おかっぱはミュコの手を取ると軽く手の甲に口を当てる。
近年稀に見るキザなタイプ。
ミュコの次はエニにも同じようにしようとしたけれど、エニは嫌そうな顔をして手の甲にキスされる前に取られた手を引っ込める。
「……恥ずかしがり屋さんだ」
「あんなの顔が好みじゃないだけ」
「………………そうか」
普段から歌劇団として貴族と接しているミュコと普段から教会で貴族をあしらっているエニの性格の差が出ている。
自分にもやるのかなとジケは少しだけ手を前に出してみたが、流石に男にはやらないようだった。
そして獣人であるピコもスルーされている。
ピコは手を取られるつもりもないのか、後ろに隠しているので互いに利害は一致していた。
「僕はフォルオレ。未来の天才音楽家さ」
「随分と自信満々な自己紹介だね……」
「もちろん。それぐらいの自信がなきゃやっていけない世界だからね」
フォルオレが髪をかき上げる。
意外とこいつのことは嫌いじゃないかもしれないとジケは思った。
フォルオレは手に弦楽器のケースを持っている。
「きっざぁー」
「まあ頑張って。応援してるよ」
ピコは砂でも吐き出しそうな顔をしている。
そしてもはや仕事モードのような感じでエニはフォルオレをあしらう。
「ふっ、いつか君を招待したいものだ。一瞬で僕のファンになることだろう」
しかしエニの冷たい視線もフォルオレに通じることがない。
大馬鹿者か、大物かは意外とギリギリのラインである。
もしかしたらすごい音楽家になるかもしれない。
「学校の近くにいい肉料理を出すお店がある。これからどうかな?」
ただこの性格は治さないとそのうち痛い目を見そうだなとは思った。
「い、や!」
「私も」
エニはキッパリと断り、ミュコはジケにちょっと体を寄せる。
ジケはフォルオレに少し睨まれた気がするけれど、何もしてないのになと内心でため息をついてしまう。
「魚料理がお好みかな?」
「そういうことじゃないの」
「ならお茶でも……」
「ミュコ、みんな」
「あっ、お父さん!」
そろそろ止めてやったほうがいいかなと思っていたらニージャッドがやってきた。
「……じゃあ僕はここで」
流石に父親の前でナンパはできない。
フォルオレはすごすごと退散していく。
しかしここまではっきりとナンパするのは勇気がある。
やはり大物になるかもしれない。
「……あの子は?」
「んー、名前も知らない」
ミュコがさらりと答える。
たとえ大物になったとしてもミュコたちはそんな肩書きで流されることはないだろう。




