楽器を直して3
「それで、修理できたの?」
「修理そのものに問題はないが、少しな……」
「何かあったんですか?」
ニージャッドの表情が曇る。
「今回直してもらおうと思っていたのは弦楽器……アモティと呼ばれるものなんですが、弦の張り替えもお願いしようと思っていたのです」
「それが問題……なんですか?」
楽器の知識がないジケは張り替えればいいじゃないか、と首を傾げてしまう。
「実は……アモティは知る人ぞ知る名楽器で、弦も少し特殊なのです」
「特殊っていうと……」
「魔物を使って作られたものなのですよ」
「へぇ……」
知らなかったとジケは思った。
弦楽器に魔物を利用しているなんて初めて聞いた。
「これまでは手持ちのものがあったので、そちらを使っていたのです。ちょうど無くなってしまったので、交換、そして購入していこうと思っていたのですよ」
「なかったんですか?」
「少し前に全部買われてしまったと。元々そんなに多くストックしているものでもないのですけど」
ニージャッドは困り顔でため息をつく。
「買った人に分けてもらえるようお願いできないんですか?」
「ええ、そうしてみようと思っています」
「誰が買ったのかは聞けたんですね」
「フォルオレ、というここの生徒が買ったと聞いています」
「えっ?」
「……なにか?」
ジケは驚いてしまった。
何だかちょっと前に聞いたような名前である。
ジケがみんなのことを見ると、エニやミュコは少し怪訝そうな顔をしている。
「……意外と難しいかもしれないですね」
ほんの少し前にナンパしてきた奴の名前がフォルオレだった。
割と愉快な奴だったけど、今の所性格が良いとは思えていない。
素直に弦を分けてくれるような人だろうか。
「さっき向こうに行きましたよ。今追いかければまだいるかも」
最悪多少割高になってもお金は出そうとジケもフォルオレを探しにニージャッドについていく。
「この音は……」
ふと綺麗な音色が聞こえてきた。
思わず足を止めて聞き入ってしまうような演奏だった。
「……誰が弾いているのでしょうね? まだ若さを感じるものの、すごい才能です」
ジケなんかはすごいなとしか思えないが、ニージャッドは目を細めて感心している。
音に若さを感じるなんて、いくら聞いても分からない。
「この部屋かな? ……うわっ」
「うわっ、ってなんだよ? あぁ……」
「彼がこの演奏を素晴らしいですね」
練習室と書かれた部屋から音は聞こえていた。
中を覗き込んだミュコは思わず嫌な顔をした。
何でそんな顔をするのかとジケも部屋の中を見て、その理由を一瞬で理解した。
「うへっ、あのおかっぱ、本当に腕だけは良いんだね」
演奏していたのはフォルオレだったのだ。
自らのことを天才などと言っていたが、それはただの嘘でも自信過剰でもない。
確かに演奏に関してフォルオレは天才的な才能の持ち主であった。
「彼がフォルオレですよ」
「なるほど……弦を買っていくのも理解ができます。遠目で分かりにくいですが、彼が持っているのもまた名器でしょう」
「演奏が終わるのを待って、声をかけてみましょうか」
流石に演奏途中で声をかけるのが無粋な真似であることは、ジケも知っている。
結局丸々フォルオレの演奏を聞いて、ジケたちは練習室に乗り込んだ。
「急に何だい? もしかして、僕の天才的な演奏に惹かれてきてしまったのかな? それも当然のことだ」
フォルオレは軽く汗ばんだ髪をかき上げる。
若干の苛立ちを覚えるのだけど、少なくとも演奏に対しては真面目だった。
「私はフィオス歌劇団の団長のニージャッドという者です」
「フィオス歌劇団……残念ながら勉強不足で知らないね。僕の音色を聞いてスカウトしに? それじゃあ話は早い。まだまだ僕はここで学ぶことがあるんだ」
「早いのはお前の思考じゃい……」
ピコがフォルオレに聞こえないようにツッコミを入れる。
「確かにスカウトしたいようなところではありますが、今回お声をかけたのは別の理由です」
「別の理由……サインが欲しいんですか? 良いですよか、書きますか?」
フォルオレはサッとペンを取り出す。
いつも持ち歩いているのか、ペンを取り出すのも早かった。
ここまで来ると是非ともこのまま大物になってほしいものだとジケも内心で応援し始めてしまう。
むしろもう大物だ。
「そうではなく、少し前に弦を買ったそうだね?」
「……弦? ええ、買いましたよ」
どこからか色紙まで取り出して、もう一枚サインを書き上げている。
ちょっと欲しかったのでミュコに受け取ってもらって、それをジケがもらう。
「それを少し分けていただけないかと。もちろんお代は払います」
「……うーん」
フォルオレは難しそうな顔をする。
「ダメですか?」
「見ての通り僕は天才だけど、同時に練習も怠らない。弦の張り替えも多くてね」
「同じ音楽家としてお願いです。あなたのような方なら弦の大切も分かっているはずだ」
ニージャッドは上手くフォルオレのプライドを刺激するようにお願いする。
こうしたところはやはり経験がものをいう。




