一件落着1
「おーい、トース!」
「ジケ! それに……ウルシュナさん!」
カグノーズや学者たちを連れてジケはコルモー大森林まで戻ってきた。
行ったり来たりと忙しないものである。
町から全く出なかった過去はなんだったのか、と思ってしまうほどだ。
前回来た時に教えてもらったスイロウ族の集落に向かうと、たまたまトースが剣を振っていた。
ついていけなかった悔しさをバネに鍛錬していたのである。
トースはジケよりもウルシュナの姿を見て、嬉しそうな顔をしていた。
「英雄ピコちゃんのお帰りだ……」
ピコはクールに決めながらもキョロキョロとオツネの姿を探す。
「ピコ!」
「あっ! ピコちゃんも帰ってきたよ!」
オツネが家の中から顔を出した。
ピコもニコニコとしてオツネの胸に飛び込む。
なんだかんだと父親のことは大好きなのだ。
「こっちの方はどうだった?」
「意外と大変だったよ? 大事になってる」
「おーごとに?」
「あっ、うん! なんだか兵士たちが来て……ジケたちの後をさらに追いかけていったよ」
ウルシュナが口を挟むと、トースは途端にモジモジとしてしまう。
「兵士が来たのか? しかも……俺たちの後を追いかけたって……」
国の調査隊が襲われて、貴重な学者たちが誘拐されたのだからそれもしょうがないかと思う。
ただすれ違いになっちゃってる。
ジケたちは相手の正体を聞き出して行き先を知った上で、フィオスを使って場所もある程度把握しつつ追跡した。
さらには先回りするために道なき道を突き進んだ。
だいぶ遅れた兵士がジケたちのことを追いかけたとしても、とてもじゃないが追いつけるとは思えない。
兵士に遭遇したことはなかったし、兵士のへの字も追いかけられているとは感じなかった。
今頃どこを探しているのか、謎である。
「調査隊は?」
「兵士が護衛しながら調査続けてるよ」
「あんなことあっても調査するのか」
町に待機しているものと交代で行っていたために襲われた調査隊は全体の半分であった。
調査隊のメンバーそのものは誘拐された人以外無事であったので、調査の継続そのものには問題がなかった。
だから何人かの学者がいなくても、調査そのものは続けられていたのである。
調査隊だって生活がかかった仕事なのだからしょうがないとは思うけど、ちょっとモヤっとするところはある。
「調査隊の方にみんなを送り届けようか」
元気に調査しているのならそれはそれでいい。
ジケたちはトースの案内で調査隊の元に向かう。
「冒険は楽しかったですか?」
「ああ、楽しかったぞ」
オツネの冷たい視線をナルジオンは涼しい顔で受け流す。
「色々なところを回ったし、奇妙な木も見た。人の悪意というやつも身に染みるようだ。だが恩人殿ような善で動く者もいる」
「楽しかったのならよかったです」
「そうため息をつくな。北に帰れば大人しくするしかないのだから」
王として今後は大きな自由もないだろう。
せっかく国交を持って出歩くこともできそうなのに、ナルジオンは立場があるので難しいのだ。
「まあでも、自由な王様もいますよ」
「本当か?」
「ジケさん、そういうことを言わないでください」
「押さえつけるよりもある程度自由にしたほうがきっと楽ですよ」
ナルジオンが大人しくしているとは思えない。
王座に縛り付けて無理に大人しくさせていると、きっとそのうち無理がたたる。
爆発してしまうよりはガス抜きがてら多少自由にさせている方が結果的にコントロールしやすいかもしれない。
「……そもそも私も部下というわけでもないのですがね」
「俺はそのつもりだったのだがな」
「どうして……」
「部族のしがらみもなく活動して、頭も切れる。お前のようなものはそうそういない。加えて……」
ナルジオンはチラリとピコのことを見る。
「こちらで最も繋がりを持つべきところに娘を置いているからな」
「……ふぅん」
オツネは不満そうな声を漏らす。
ナルジオンに文官としての才能は皆無だが、意外と人を見る目はある。
「困り事があればお前を通じ、お前の娘を通じ、助けを求められる繋がりがあるのは大きい」
ナルジオンはニヤリと笑う。
「ピコまで利用しないでください」
「王たる強かさを身につけろと以前に言ってのはお前だ」
「それはそうですが……」
オツネはため息を漏らしてしまう。
ゆるく生きるつもりがとんだことになってしまった。
「……なら何か役職でもください」
「ほう?」
「娘がカッコいいと言ってくれるようなものが一つあれば……私のことを馬鹿にしてきたみなさんをまとめる力になりますよ」
「もうお前のことを馬鹿にする奴はいないさ。これから俺の右腕になるのだからな」
強さというところでは情けない父親だったかもしれない。
しかしこれから強さ以外の価値観も獣人の中に重視される時代が来る。
ピコが少しは誇らしい父親と思ってくれるだろうか。
そんなことをオツネは考えていた。
「なんだかお父さん、キリッとした顔してるね」
「私も偉くなってしまったからね」
ただ別になんであろうとピコはオツネが好きだし、誇らしく思っているのは変わりない。
オツネは笑ってピコの頭を撫でる。




