コブしに守られる香り2
「カグノーズさん、あなたを助けにですよ」
「私を助けに?」
意外な言葉にカグノーズは目を丸くする。
確かにヘレンゼールと顔見知りではある。
しかし親しい友人であるというような認識はない。
ましてこんなところまで駆けつけて助けに来てくれるような関係性はないはずだった。
そもそもトラブルに巻き込まれていることなど、ほとんどの人が知らないのである。
助けに来てくれたことそのものはありがたいが、一切事情が飲み込めずにいた。
「ええ、細かい話は後でしましょう。話すと長くなるので」
ヘレンゼールは軽くため息をつく。
本当に割と時間がかかってようやく追いついた。
一から説明していこうと思うと結構時間がかかってしまうだろう。
「それよりもあれは……」
ヘレンゼールはデカいコブを見る。
地面に空いた大きな穴から出てきているようで、グリーンスネークの連中を攻撃している。
「私にもあれがなんだか……ケントウシソウの一種だとは思うのですが、あんな巨大なもの聞いたことがなくて」
「こちらは襲わないのですね」
デカいコブが振り下ろされて、グリーンスネークの連中は逃げ回る。
そして逃げた先で普通のケントウシソウにKOされる。
「これのおかげですよ」
「そちらはなんですか?」
カグノーズは小瓶を取り出してヘレンゼールに見せる。
中には白濁した液体が入っている。
「ケントウシソウから抽出した香油です。最近ケントウシソウを扱っているところがあると聞いて、少し融通してもらったのです。精製してみるとほんのりと甘い香りが……」
「くだらない御託はいりません。要点を話してください」
細かな話をされても興味ない。
ヘレンゼールが冷たい視線を向ける。
「その冷徹な香り……好きですよ」
「男に好かれても嬉しくはありません」
「ええと、要するにこの匂いを纏うと、ケントウシソウから攻撃されなくなるんです」
「そうでしたか。また、彼が興味を持ちそうなものですね」
ヘレンゼールはわずかに目を細め、ジケの方に視線を向ける。
ジケがケントウシソウと関わっていることは、ヘレンゼールもうっすら知っている。
ヘレンゼールはケントウシソウに襲われる襲われないの香りなど興味ないけれど、ジケはそれに興味を持ちそうだと思った。
ジケは女の子たちを守りながら、フィオスを槍にして相手をケントウシソウの方に誘導して殴らせている。
上手く戦うものだとヘレンゼールも感心してしまう。
「くそッ……この獣人が!」
「なかなかやるな!」
乱雑な犯罪者集団かと思えば、リーダーの男は意外と強かった。
ケントウシソウを回避しながらナルジオンを一人で相手にしている。
ナルジオンはまだ本気ではない。
それでも普通の人なんか比べ物にならない実力を持っている。
対抗できているリーダーの男も実際は意外とすごかった。
ただナルジオンがあまりにも強いせいで、目を血走らせた姿に強さは感じられない。
「まあそろそろ終わりにしようか。楽しかったぞ」
「こっちは楽しくねぇよ!」
王となればこれまで以上に好き勝手なことはできなくなる。
こんなふうに暴れることはもう二度とないのかもしれない。
楽しい冒険だったとナルジオンは思った。
どうしてジケの周りに人が集まるのか、それも分かった気がする。
人望という意味もそうだが、こんな楽しいことが起こる人なんてそう多くはない。
トラブルに巻き込まれる体質とも言えるが、刺激の多い人生とも言える。
愉快なものである。
ただそれも終わらせようとナルジオンはグッと拳を握りしめる。
体から魔力が溢れ出し、コブを振り下ろしかけていたケントウシソウが動きを止めるほどの覇気が放たれた。
「来いよ! ぶっ殺してやる!」
普通の人ならたじろぐほどのオーラでも、完全に怒りに飲まれるリーダーの男は怯まない。
「やれるものなら……やってみろ!」
ドンッと音がした。
音と同時にナルジオンの姿が消えた。
リーダーの男が気づいた時には、ナルジオンの拳が胸に当たっていた。
「カッ……!」
防御も声を出すこともできずに、胸を殴られてリーダーの男はぶっ飛んでいく。
胸が拳の形にへこむ。
そんな一撃にリーダーの男は呼吸すらできなくなって地面を転がる。
「ひゅ……」
息を吸い込もうと口を大きく開けたリーダーの男に影が落ちる。
まるで示し合わせたかのように、デカいコブが目の前に迫ってきていた。
部下に助けを求めることもできず、少し呼吸が漏れるような音だけを残してリーダーの男はデカいコブに押しつぶされてしまった。
「……お前らのリーダーはやられた! 死にたくなかったら大人しく降参しろ!」
もう残っているグリーンスネークのメンバーも少ない。
希望となっていたリーダーの男もやられた。
全員を倒す必要はない、とジケは降参を促す。
「分かった! 降参する!」
リーダーの男の敵討ちを。
そんなこと考える奴はいない。
一人が武器を投げ捨てると、他の奴らもみんな武器を投げ捨てて降参する。
「フィオス?」
残る問題はデカいコブかもしれない。
攻撃されるかもと警戒していたらフィオスがデカいコブの前まで跳ねていく。
ピョンピョンと跳ぶと、デカいコブが答えるように上下する。
「……引っ込んでいく」
するとデカいコブが穴の中に消えていく。
「フィオスさんが説得してくれたんですかね?」
リンデランがジケの後ろから跳ねて戻ってくるフィオスのことを見る。
「……まあ、そうかもな」
ここまで魔物と仲良くしてきたフィオスなのだから、デカいコブを説得したとしてもおかしくない。
実際はおかしいのだけど、フィオスだからおかしくないのだ。
「…………とりあえず、一件落着!」
何にしてもカグノーズを助け出すことには成功した。
長かった追跡劇もこれで終わりなのであった。




