フィオスを追いかけろ!5
「この口か? 汚らわしいなどと言ったのは」
「くっ……ひっ……すいませんでした……」
豪快なナルジオンも獣人に対する侮辱は許さないし、忘れない。
ナルジオンは、馬車から降りて真っ先に暴言を吐いた男の頭を鷲掴みにして持ち上げている。
片手で人を持ち上げる腕力はとんでもない。
そして持ち上げられた方も鷲掴みにされた頭に全ての力が集まるものだからすごく痛いだろう。
「残り二台の馬車はどうしたんですか?」
これはチャンスだと、フィオスを抱えたジケは持ち上げられた男に声をかける。
ただ手は無意識にフィオスのことを撫で回している。
やっぱりのことは恋しかったし、フィオスもブルンブルン震えて喜んでいた。
「そ、それは……」
「言わないと頭潰れちゃいますよ?」
ナルジオンがそこまでするとは思っていないが、せっかくだから状況活かす。
「うっ……」
ミシミシと音が聞こえるようだ。
ジケの意図を察したナルジオンがさらに力を込める。
「さらった学者たちはどこに連れていったんですか?」
残念ながら、馬車の中にカグノーズはおろか、学者たちすらいなかった。
コルモー大森林では三台の馬車があった。
つまり二台どこかにいってしまったことになる。
ここにカグノーズがいないということは、今いない馬車の方にいるということだ。
「早く言わなきゃ……」
「分かった! 言う! 言うから放してくれ!」
痛みに一瞬気が遠くなる。
ジケがナルジオンを見て頷くと、ナルジオンはパッと手を放す。
落とされた男は力なく地面に倒れて頭を押さえる。
「うぅ……」
頭にくっきりと手の跡が残っている。
痛かっただろうなとジケはうめく男のことを、目を細めて見ていた。
「それでどこにいったんですか?」
「早く答えろ。汚らわしい獣人は気が短いぞ?」
「ま、待て……」
ナルジオンは腕を組んでジケの後ろに立つ。
それだけでも自分がちょっと強くなったように感じるから不思議だとジケは思った。
「誘拐してきた奴の一人が、良い葉っぱがあるって言い出したんだ!」
男はすっかりナルジオンに怯えてしまった。
「戻ったところにあるというものだから……それを採りに行ったんだ!」
「お前らが作ろうとしてるっていうヤバい薬の材料になるようなものがあるってことか?」
「詳しくは知らない……俺はあんまり頭も良くねえし……」
「どこに向かったんだ?」
「ええと…………」
男は他の馬車が向かった場所を思い出そうと眉を寄せて渋い顔をする。
「…………」
「思い出した! 思い出したからそいつを離してくれ!」
ナルジオンがスッと手を伸ばすと男は慌てる。
「王国の直轄地に薬草が採れるところがあるとか、そんな話だった!」
「……んー、でもそれだけじゃな」
「な、なんか変な木が生えてると言ってた!」
ナルジオンが無言で男の頭を軽く掴む。
「変な木?」
「俺はちょっと横で話聞いてただけだから細かくは……ケ……なんとか」
「ケ?」
「ねっ、それってケントウシソウとか言わなかった?」
リアーネやユディットが倒した男たちをロープでギチギチに縛る。
エニやリンデラン、ウルシュナは危ないので縛る方には加わらずジケの後ろで話を聞いていた。
変な木、そしてケから始まる。
さらには薬草が生えている王国の直轄地でエニはピンときた。
「ケントウシソウ……たしか、そんなことを言っていた!」
男は激しく頷く。
「ケントウシソウ? あそこにそんな危ないものなんてあったっけ?」
ケントウシソウの群生地ならジケもよく知っている。
近くに薬草も生えているが、採取しちゃいけないようなものはなかった気がする。
「別のケントウシソウの群生地がある? でもそんな話、聞いたことないしな……」
なぜケントウシソウの群生地に向かったのか。
非常に謎である。
「時間稼ぎじゃない?」
「まあ、その可能性はあるな」
本当にやばい薬を作るような材料があるかもしれないし、何かの策を働かせたのかもしれない。
「……とりあえず向かってみようか」
いつになったらカグノーズに会えるのか。
ひとまずフィオスとは再会できたけれど、ジケはガックリと肩を落としてしまうのだった。




