フィオスを追いかけろ!3
「道なき道を突き進む……危険はあるけど仕方ない」
ナルジオンとヘレンゼールがいれば、大体のことには対応できるだろうとジケは思う。
「スピード上げると多少は揺れると思うから覚悟はしとけよ?」
道でないところを行く時に、普通の人がパッと心配するのは魔物との遭遇である。
人の気配がある道には近づかないという魔物も多い。
道でないところを進むと、どうしても魔物と遭遇してしまう可能性は高くなる。
しかし馬車で道なき道を行く時、心配するのはお尻事情だ。
普通の馬車ならものすごく揺れる。
スピードを出すと常に浮いてるんじゃないかと思うほどだ。
揺れの少ない馬車にも限界はある。
お尻が痛くなる覚悟は必要だとジケは念を押しておく。
「ほんじゃ、行くからな。ユディット!」
「はい! ジョーリオ、とばせ!」
御者台に座るユディットは手綱を引っ張る。
実際にジョーリオはユディットが命令すれば言うこと聞くのでいらない手綱であるが、雰囲気作りみたいなものである。
「わっ!?」
ジョーリオが一気に加速する。
一度ガタンと大きく揺れて、今回ジケの隣を確保していたウルシュナがジケの方に倒れる。
「大丈夫か?」
「あっ、うん……」
ジケがウルシュナを抱きかかえるように支える。
「リ、リーデ、そんな目で見ないでよ!」
顔を赤くするウルシュナを、目の前に座るリンデランが細い目で見ている。
ただウルシュナもちょっとゆっくりめに離れたりしている。
「はははっ、揺れるのもまた面白いな!」
屋根の上のナルジオンは揺れようとも関係なさそうだった。
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「馬車が揺れるものだって忘れていましたね……」
「降りてもなんだか揺れてる気分……」
ガタガタしてても道は道。
ガタつきがないとはいかなくても、人が踏み締め歩く道はそれなりに平坦さが保たれている。
対して何もないところは一見平坦に見えても、意外とそうじゃない。
草に隠れた岩があったり、実はへこんでいたり、草が絡んできたりなんて面倒が意外とある。
たとえ多少ガタついたとしても馬車の丈夫さとジョーリオのパワーで乗り越えた。
お嬢様たるリンデランもウルシュナも、フィオス商会の揺れない馬車に慣れている。
加えて遠出することも少なく、町中で乗る馬車はほとんど揺れない。
揺れると意外とお尻に来るものだと改めて思い知ったのだった。
座席にアラクネノネドコを小さくしたクッションもあるのに結構揺れたので、流石のジケもちょっとやられている。
「ヌフンッ」
「ピコちゃんはなんでそんな元気そうなの?」
一方でピコは平然としている。
どうして大丈夫なのかとエニは不思議そうだ。
「むっふっふっ……なぜなら! ピコちゃんには! これがあるのだ!」
自慢げに笑ったピコはプリンとお尻を突き出す。
「これ?」
お尻を突き出したのはいいとして、何があるのかとジケは首を傾げてしまう。
「こ、れ!」
ピコはフリフリと尻尾を振った。
「尻尾?」
「うん! これをねぇ、お尻の下に敷いておくんだ! するとふかふかしてお尻も……ちょっとだけで痛いだけで済むんだ」
「ちょっと、は痛いんだね……」
ピコは自分の尻尾をお尻の下に敷いて座っていた。
揺れが少ない馬車とアラクネノネドコ製クッションとふかふかの尻尾で三重にお尻をガードしていたのだ。
全く痛くないとは言わないが、尻尾の分だけピコのお尻は健在であった。
「フリフリ」
ピコは得意げにお尻と尻尾を振る。
「よいしょ、まあ、こんなもんだろ」
リアーネとユディットが近くで枝を集めてきた。
今は本当に何もない草原のど真ん中にいる。
いつもならもっと早めに休むところだけど、追いつくためにも少し遅くまで走ったのですっかり日が落ちている。
「こんな時で不謹慎ですけど……綺麗ですね」
「ああ、確かに」
リンデランが空を見上げている。
空は満天の星空が広がっている。
急を要する追跡劇の最中ではあるものの、思わず見入ってしまう。
「そんで、今はどんな感じなんだ?」
枝を組んだものにエニが火をつけて焚き火にする。
周りは見通しがよくて警戒がしやすいので、あまり魔物の心配もしなくていい。
「少し近づいてる感じがあるな」
道なき道を行くことにおいて、どこを走っているのかしっかりと確認しないと迷子になってしまう。
揺れる馬車の中でも細かく地図を見て、近くにある道や町なんかから位置を確認しながら進んできた。
今の所は地図から想定した相手のルートに先回りもできそうだ。
ついでにフィオスの気配もちょっと近くなっていた。
先回りしつつあるということの証拠だ。
「近くに町があるから、明日はそこに寄って食料を買い足して……まだ道なき道を爆走だな」
最後まで油断はできない。
先回りといっても相手がジケたちの予想通りの道を通ってくれればの話となる。
万が一グリーンスネークが別のルートを通ったらジケたちも計画を修正する必要が出てくる。
大丈夫だろうなんて思わず、計画を修正しても大丈夫なぐらいの大きな余裕を作っておきたい。
「フィオスも相変わらず楽しそう……ということは見つかっていないようだな」
フィオスがどんな状態なのか不明であるが、フィオスの感情に変化はない。
つまり上手く馬車のどこかに隠れているのだ。
優秀なスライムがいてくれて助かる。
「でも……フィオスマクラが欲しくなるな」
ジケはグッと体を伸ばす。
こうした時には、フィオスを頭の下に敷いて寝るのがいつものことである。
フィオスを呼び戻すわけにいかないので、フィオス無しで寝るしかない。
過去では疎ましく思っていた時期もあるというのに、今ではそばにいないと寂しさすら感じてしまう。
早くフィオスを取り戻すためにも先回りを成功させなきゃなとジケは思ったのであった。
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