フィオスを追いかけろ!1
そのまま誘拐犯を追いかける、とはいかない。
馬車をそのまま追いかけても追いつけやしないし、ジケたちだって色々とやるべきことがある。
捕まえた男たちはエニが治療して、しっかりと拘束した。
そして一度コルモー大森林に戻って、スイロウ族や調査隊に状況を伝えた。
ヘレンゼールが捕まえた男たちとお話しをして情報を聞き出したりして、相手の先回りをすることができないかと考えた。
「元々王子に寄生するような形でやってた悪い奴らが、王に対する反乱が起きて勝ち目がないから逃げ出してきた……」
「なんだかどっかで聞いたことあるような話……だね?」
襲撃してきた連中は元々南の諸国で活動していたグリーンスネークという悪い奴らだった。
国から国へと転々としながら悪事に手を染め、仲間を増やしてきた。
少し前にはバカな王子に取り入ることで甘い汁をすすっていたらしいのだけど、前の王の子供が王子の資質を憂慮して蜂起、反乱が起こる。
これまで上手く逃げ回ってきたグリーンスネークは、いち早く危険を察して王子を見捨てて逃げたのだとか。
「うん、俺もどこかで聞いた覚えがあるよ」
グリーンスネークそのものの話はともかく、王の子供が反乱を起こしたなんて話は聞いたことがある。
バカな王子というのも同じ話の中で聞いたものであった。
「世界は繋がっていて、狭いってことか」
同じタイミングで同じような反乱が起こるはずがない。
ならばやはりこの話は知っている反乱の話だろうとジケは思った。
「その話はいいとして……グリーンスネークだかなんだかの話だよな」
そんなことで再び放浪の犯罪者集団となったグリーンスネークであるが、バカ王子にうまく取り合っている間は利益も大きくて組織は大きくなってしまった。
逃げることには成功したグリーンスネークだったのだけど、大きくなった組織を維持していくのは楽じゃない。
今までのような小さい犯罪で稼ぐことにも限界があった。
そこでバカ王子のところにいた時にもやっていたデカい仕事に手を伸ばそうとしていたのだ。
「危ないお薬……ねぇ」
ジケはため息をつく。
デカい仕事とは、普通では禁止されているようなお薬を作って売り捌くことだった。
お薬といっても治療で使うものではなく、使うと気持ちよくなってしまうような危険なものである。
要するに危ないお薬だ。
「それをカグノーズさんに作らせようとしてるんですね」
「許せないね」
ただグリーンスネークにも問題があった。
実は危ないお薬に手を出したのはバカ王子に出会ってからであり、バカ王子の近くにいた組織を従える形で危ないお薬を作っていたのだ。
従えていたわけではあるものの、完全に同一の組織ではない。
そのために、グリーンスネークの脱出に危ないお薬が製造できる人はついてこなかったのである。
作れる人がいない。
ならば作れる人を連れてくればいい。
「バンガルって人も自分でやればいいのにね」
そこで目をつけたのがバンガルだった。
グリーンスネークリーダーの知り合いであるらしく、お金に困っている人だということも分かっていた。
「やれなかったんだろ」
しかしバンガルの専門は魔物であり、植物関係の知識は深くない。
危ないお薬を作るような詳しい知識もなかったのだ。
そんなバンガルがお金欲しさに提案したのがカグノーズだったのである。
「だから新しい花の話で呼び出して誘拐……他の学者も手伝わせようとさらったんだな」
香りの専門家であるカグノーズは植物に精通しているだけでなく、香水や精油を作ったり製薬的な技術も持っている。
ただしカグノーズはバンガルと違って金に困っていないし、犯罪に加担する人ではない。
なので無理矢理協力させるためにカグノーズを呼び出して誘拐したのである。
他の学者も知識がある人たちなので、お薬作りをさせようと誘拐したのだ。
調査隊の人に聞いてみると、植物系の知識を持つ人ばかりがさらわれていた。
「なんとなく情報の整理はできたな。ちなみに、捕まえた人たちは?」
「……残念ながら魔物に襲われて助けられませんでした」
ヘレンゼールは遠い目をする。
捕まえた男たちからヘレンゼールが情報を引き出してくれたが、何回か森中に響くような叫び声が聞こえていたような気がした。
戻ってきた時には一人だったのだけど、どうなったのかジケはこれ以上聞かないことにした。
「アイツらが目指してるのはドカナイ……」
ヘレンゼールはどこに向かっているのかも聞き出してくれていた。
グリーンスネークが最初に作られた国、リーダーや一部の古参メンバーの故郷でもあるドカナイにカグノーズを連れて行こうとしているようだ。
ドカナイは他の国よりもやや訛りがある発音をする国で、奴らの言葉遣いのことも納得がいった。
「できれば国を出る前に捕まえたいな」
他の国にまで逃げ込まれてしまうと面倒なことになる。
できるなら国を出る前にカグノーズを取り戻したいものであるとジケは考えていた。
「それじゃあ俺たちで追いかけるしかないけど……」
こうなると他に助けを求める時間はない。
事態を解決できるのはジケたちの他にいない。
ジケはチラリとみんなのことを見る。
もちろんジケは行くつもりだけど、リンデランやウルシュナはどうしようと思ったのだ。




