香りを追いかけろ4
「ここまで連れてきて……仲間見捨てるのか」
情に厚いのかなと思っていたけれど、全くそんなこともなさそうだった。
わざわざ連れて行ったのに見捨てた挙句、死体を燃やすなんてかなり非道な行いだ。
「ニオイ辿れそうか?」
相手が極悪非道なことが分かった。
カグノーズたちのことが余計に心配になった。
問題としてはいまだにカグノーズに追いついていないことである。
死体が焼ける嫌な臭いがしてる。
ピコやトースだけじゃなく、エニやリンデラン、ウルシュナも鼻を押さえていた。
「こんなんじゃピコちゃんもお手上げ」
あまりに死体の臭いが強くて、甘いニオイがどこに続いているのか分からない。
「死体はまだ燃やしたばかりです。そう遠くはないでしょう」
死体の状況から割と近づいている可能性がある。
それなのにここで追いかけられなくなるのはとても痛い。
「……でもここら辺まで来ればもう森の外も近いよ」
「森の外が?」
「うん。もうちょっといけば多分」
「こうなったら森の外に行ってみよう」
相手が逃げているならきっとコルモー大森林を抜けてどこかに行くはず。
ニオイを追いかけることが難しいなら一か八かコルモー大森林を抜けてみることにした。
「あっ、また甘いニオイしてきたよ!」
南下してコルモー大森林の境界に近づいていく。
死体から離れていくとピコが甘いニオイを感じ始める。
森を抜ける方向に進んできて正解のようだった。
「あっ! あそこに!」
森を抜けた。
開けた視界に広い草原が映る。
その中に走り去っていく三台の馬車と馬に乗る人たちが見えた。
「くっ……」
もうかなり離されてしまっている。
追いかけるには遠すぎるとジケは顔をしかめる。
「いや……まだ諦めるには早いぞ」
「追いかけるつもりですか?」
「ああ」
険しい目つきをしたナルジオンがグッと前傾姿勢を取る。
何をしようとしているのか、すぐに分かった。
「……ナルジオンさん、ある程度近づいたらコイツ投げてください!」
ジケはとっさにフィオスをナルジオンに投げ渡す。
「……雪原を駆けるハクロウ族から逃げられると思うなよ!」
ナルジオンはフィオスを片手で受け取ると、チラリと青いボディを見る。
ただ何も言うことなく、脇に抱えるようにして馬車を追いかけて走り出した。
「はやっ……!」
真っ白なナルジオンが走り抜けていくと、まるで閃光のよう。
ナルジオンはグングンと速度を上げていき、馬車との距離を詰めていく。
「何か来てるぞ!」
このまま気づかれなければ追いつけるかもしれない。
そう思ったのだけど、そう甘くもなかった。
馬に乗った男がナルジオンの接近に気がついた。
「馬車を走らせろ!」
ジケたちが追いかけてきているとは知らない馬車は最速ではなかった。
男の怒声に馬車の速度が一気に上がる。
「お前ら、行ってこい!」
馬に乗った男たちが何人か馬を返してナルジオンに向かう。
「……チッ!」
邪魔がなければ馬車の一台ぐらいに届きそうだった。
しかし邪魔が入ると厳しい。
「フッ!」
しょうがない、とナルジオンは思い切りフィオスを振りかぶった。
「なんだ!?」
「何、投げた!?」
高速で飛んでいく青い物に男たちに動揺が走るけれど、目の前に迫るナルジオンのせいで確認する余裕もない。
「獣人なんか、やってしまう!」
男たちは剣を抜いてナルジオンを戦おうとする。
「なんでバカな選択……」
ナルジオンのことを知っているならそんなことはしないで、ただ全力で逃げただろうとジケは思う。
「ブッ……」
アゴを殴り飛ばされた男が宙を舞う。
人間ってあんなに高く飛べるんだ、とナルジオンの元に向かいながらジケは遠い目をする。
三人ほどナルジオンの足止めに向かってきたが、三人だろうが一人だろうがあまり変わらなかったかもしれない。
「……すまない。追いつけなかった」
ジケが追いつく頃にはナルジオンは男たちを倒してしまっている。
ただ足止めは確実に効果があった。
馬車はもう遠く離れてしまった。
流石のナルジオンでも追いつくのは難しいだろう。
「……いえ、とりあえず追跡はできます」
ジケはジッと馬車の方を見ている。
一番後ろを走る馬車の後ろにペチョリと張り付くフィオスの姿が見える。
「ちょっと耐えてくれよ……すぐに追いかけるからな」
フィオスがいる位置はジケに伝わる。
相手がフィオスに気づかず馬車に乗る限り、ジケは追いかけることができる。
「とりあえず、コイツらに話を聞きましょう」
本気になれば相手のことを殺すのだってナルジオンにとっては簡単だ。
しかしちゃんと手加減して倒してくれた。
ようやく生きた相手に出会うことができたのだから、何か情報の一つでも引き出したいものである。
「ヘレンゼールさん、任せてもいいですか?」
「ここではなんですから少し戻ってからにいたしましょうか」
事態に進展があった。
ここからの判断も慎重にしていかねばならない。
「ピコちゃん撫でる?」
「そうしようかな?」
フィオスがいない手元に少し寂しさを感じる。
ジケは早くフィオスを追いかけたいと思いながら、差し出されたピコの頭を撫でたのだった。




