香る男が見つからない5
「それで……なんでナルジオンさんも?」
「恩人が困っている。手伝わないわけにはいかないだろう?」
「……本音は?」
「暇だった。この国を移動する時、一人ぐらい殴りかかってくるかと思ったが、期待外れだった」
ナルジオンは深いため息をつく。
流石に道端を歩く成人の獣人に殴りかかるほど重度の偏見を持った人は少ないだろう、とジケは苦笑いを浮かべるしかない。
スイロウ族の協力を取り付けたジケは、コルモー大森林の西側に向かっていた。
案内にはトースが来てくれている。
しかしなぜかナルジオンとオツネも一緒にいる。
それは勝手についてきたのであった。
暇だからというのも、獣人らしくはある。
「邪魔だったら帰るぞ?」
「いえ、何かあったらお願いします」
ナルジオンは強い。
タダで協力してくれると言うのなら文句はないのでニッコリと笑顔を浮かべておく。
「ウ、ウルシュナさんは……その、お元気でしたか?」
案内役のトースはモジモジとしながらウルシュナに声をかけている。
ゆらゆらとゆっくり揺れる尻尾は、トースの感情を表しているのだろうか。
「うん、元気にしてたよ。トースは……少し背が伸びた?」
ウルシュナが自分の頭に手を乗せて、高さを維持したまま比べるようにトースの方に動かす。
手が軽く頭に触れてトースのミミがぴこぴこと動く。
「罪な女だねぇ」
「あんたがそれ言う?」
「なんだよ? 俺が罪な男だってのか?」
エニがジケに冷ややかな視線を向ける。
「捕まって閉じ込められちゃえ」
罪な男だと認めると、ジケがモテていると認めることになる。
それはなんだかシャクに触るとエニは口を尖らせた。
「ふふ、ジケ君は罪な人、ですよ」
「うん、私も保証するよ!」
「それは喜んでいいのか?」
ジケ争いのライバルは多い。
ジケがジケらしくあることはいいけれども、女性に気を持たせてしまうような態度を自然と取ることはやっぱり罪だとリンデランは思う。
ピコはリンデランの意見に爽やかな笑顔で親指を立てて同意する。
過去で罪な男だと言われたことなんかない。
ゴミを漁っていて、邪魔な犯罪者と罵倒されたぐらいはあるが、罪な男とは違う。
「強い男がモテるのは当然の話だ」
ナルジオンがニヤリと笑う。
モテるということは強く、強いということはモテる。
もちろん例外はあるが、獣人において強者がモテる傾向が強い。
だが人の世界でも強い人がモテる傾向にあるのは変わらないのだなとナルジオンは感じていた。
「ウチの娘に手を出してはいませんよね?」
「もう……パパン……ピコちゃんはもうジケ君のものだよ。ポッ」
ピコはわざとらしく頬に手を当ててクネクネとしてみせる。
父親の呼び方が一定していないのもわざとだろう。
「……いや! 何もしてないですよ!」
オツネの細い目が開き、怖い顔をしてジケのことを見る。
流石にそんな目で見られては親子のじゃれ合いとはいっても看過できない。
「あんなにピコちゃんのことを求めてくれたのに……」
「ジケ……さん?」
「いやいやいやいや! 手を出したことなんて……尻尾だけ……触らせてもらいました…………」
オツネがどんなことを想像したのか知らないが、ジケはそんなことをしていない。
ただ以前尻尾をモフモフさせてもらったことはある。
ピコの尻尾は気持ちよかった。
「娘に手を出したな……?」
「えっ……あれってそんな?」
「責任は取ってもらおう……」
「もう! お父さん!」
「うっ!」
ピコが顔を赤くしてオツネの脇腹を両手で殴りつける。
最初こそ冗談だったけれど、だんだん恥ずかしくなってきたのた。
ピコの尻尾もゆらゆらと揺れている。
「まあいいではないか。ジケ殿は俺の知る人間の中で最も良い男だ。うっ!」
「王様成敗!」
「はっはっ!」
ピコはナルジオンの脇腹も殴りつける。
なんとも不遜なことだけど、ナルジオンは普通に笑っている。
オツネを直接連れてくるぐらいなのだから、ナルジオンとオツネは顔見知りなのだろう。
獣人をまとめ上げていたナルジオンが、獣人の情報に通じているオツネと通じていても不思議なことはない。
ピコがナルジオンと顔見知りでもおかしくはない。
「誰かが走ってくるな」
ナルジオンのミミがピクリと動いた。
これから向かおうとしている先に視線を向ける。
「あっ、本当だ」
少し遅れてジケの魔力感知に何かが入ってきた。
ジケたちの方に走ってくる。
その頭にはミミが見えるので獣人だ。
「すごいな……」
ジケの魔力感知よりもさらに遠くから人が来るとナルジオンは察知した。
獣人の聴覚は人よりも優れているが、トースやオツネが気づいていた感じはない。
ナルジオンのミミは他の獣人よりもはるかに優れているのかもしれない。
「君たちは……!」
一応不測の事態に備えてナルジオンやヘレンゼールが前に出る。
森の中を走ってきたのは獣人だった。
焦った様子の獣人はジケたちのことを見て驚いた顔をした。
「タミラスアダルさん、どうかしたんですか?」
北方の獣人ではなくスイロウ族の男性のことは、当然トースも知っている。




