香る男が見つからない4
「よく言いますよ。引きずるように私を連れてきたくせに」
オツネはピコの頭を撫でながらため息をつく。
「お前が外に出たくないというからだ。俺が守ってやると言っているだろう。万が一があったらちゃんと仇も取る」
「万が一があるかもしれないから嫌なんですよ。外に出ると聞きつけて頼まれたお土産もリストになってるんです」
「お土産代は俺が出そう」
「それはお願いしますよ」
オツネは再びため息をつく。
しかしピコに会えて嬉しいために顔はほころんでいる。
せっかく外に出たのだし一目会えればとは考えていたが、まさかこんなところでピコに会えたのは予想外だった。
「元気にしているようだな」
「うん! 友達もたくさんできたし、お金も稼いでるよ!」
「お金も?」
「うんうん! それにみんな……一緒に歌って踊ってくれるよ!」
「……そうか」
オツネは優しく笑顔を浮かべた。
寂しくしていないか、人の中にあって差別されていないか心配だった。
しかしピコの笑顔を見れば楽しくやっていることは一目瞭然である。
「楽しくやっているならそれでいい。今度手紙でも書いておくれ」
「分かった!」
それでも父親に抱きつく姿を見れば、やはり親元を離れる寂しさはいくらかあるのだろうとジケは思った。
「それで、ジケ殿はどうして?」
「ここにいるスイロウ族とは友達なんです」
「スイロウ族と? そういえばお世話になった人間がいると聞いていたが……」
ナルジオンが驚いたように目を見開いた。
スイロウ族の族長タラテスアダルと話したナルジオンは、スイロウ族が大森林を離れるつもりがないことや恩人がいることなどを聞いていた。
「どこにでもジケ殿がいるものだ……」
国と話そうと、地方の獣人と話そうとジケの影がある。
とんでもない相手なのかもしれないと思っていたけれど、今はもうとんでもない相手だと断言してもいいぐらいだった。
「それと人を探しにも来てるんです」
「人を探しに?」
「そのためにスイロウ族の力も借りられないかなって」
「俺たちの力を借りたいってどういうこと?」
「実はな……」
ジケはその場でサラッと事情を話す。
「そのカグノーズって人がここにいるかもしれないんだね?」
「ああ、そうなんだ。俺たちはここに詳しくないから力を貸してほしくて……」
「もちろん力を貸すよ!」
ジケが言葉を言い切る前にトースが胸を叩く。
「ジケのためなんだってするさ!」
「ありがと、トース」
ウルシュナに良いところ見せようとしていないか?
そんな疑問はあるけれど、多分何にしても手伝ってはくれるだろうと信じていた。
「そういえば、タラテスアダルさんは?」
肝心の族長たるタラテスアダルがいないなとジケはキョロキョロと周りのことを見る。
「あー、お父さん、寝込んでるよ」
エスクワトルタが苦笑いを浮かべる。
「えっ、なんか体調悪いのか?」
ジケは驚く。
体が丈夫な獣人が寝込んでしまうなんて、かなりの重症である。
「ううん……」
「違うんだよ」
トースもエスクワトルタも困ったような顔をする。
そして、ナルジオンは目を逸らしていた。
「……何したの?」
「お父さんが悪いんだよ」
「ね」
「向こうが言ってきたことだしな」
ナルジオンが関わっていることはジケにも察することができた。
「力をみたいと……タラテスアダルの方が言ってな。それで…………手合わせをした」
比較的大人しめなスイロウ族であるが、獣人は獣人である。
元々北にはいたはずでなのだけど、今となっては何の遺恨があったのかも分からないぐらいだ。
ただ力に対するプライドはあるし、急に来られてこちらに来ないか言われても納得はできない。
力のないものに従うつもりもなく、タラテスアダルはナルジオンに戦いを挑んだ。
タラテスアダルは寝込み、ナルジオンには傷ひとつない。
結果がどんなものなのかは聞かなくとも分かった。
「流石ですね」
個人の戦闘力を考えた時にナルジオンはジケがあった人の中で最高峰だ。
命のかかった戦いでは毒も扱えるグルゼイは強さもさることながら、最低でも相手を毒で殺す引き分けに持ち込めるので最強格だろう。
最終的には負けないといういかにもグルゼイらしい諦めなさはあるものの、ただの強さという意味でナルジオンに勝てる人はほとんどいない。
スイロウ族たちが、離れところに住む北方の獣人のトップであるナルジオンの強さを知らなかったのはしょうがない。
「なかなか強かったぞ」
「ボッコボコだったけどね」
エスクワトルタは深いため息をつく。
寝込むほどなのだから、言い訳しようもないほどに負けたのだろうとジケは苦笑いを浮かべてしまう。
「お父さんもきっと手伝ってやれって言ってくれるよ」
「……ああ、じゃあお願いするよ」
ともかくスイロウ族も楽しくやっているらしい。
トースとエスクワトルタだけじゃなく、意外な相手とも再会ができた。
協力も得られることになった。
「ダディ〜」
「しつこいぞ、こら」
「いてっ!」
グリグリとお腹に顔を擦り付けるので少し痛くなってきた。
オツネがピコのおでこを軽く指で弾いてやると、ピコはおでこをさすりながらもニコニコしていたのだった。
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