香る男が見つからない3
「ジケ!」
「トース!」
割と歩いていくと森の中に家が見えてきた。
数人の獣人たちが見えて、そのうちの一人がジケたちに気づいた。
ミミを立て、激しく尻尾を振りながら走ってくるのはトースだった。
「ジケ! 久しぶりだね!」
「おっと……久しぶり」
トースがジケに飛びつく。
ジケの抱えていたフィオスが間に挟まれてむにゅっと潰れる。
「どうしたんだ! 来るなんて聞いてないよ!」
「手紙も送れないのに知らせることもできないだろ?」
「ちょっとお金はかかるけど届けてもらえるよ? 最近ちょっとだけ勉強も頑張ってるから文字も読めるし」
「そうなのか? じゃあ今度手紙を送るよ」
スイロウ族との連絡手段は直接会うしかないと思っていた。
手紙を送れるというのなら今度送ってみようとジケは笑顔を浮かべる。
「頑張って返事も書くよ!」
トースの声を聞きつけて、なんだなんだとスイロウ族が集まってくる。
「そ、それに……ウルシュナさんも……」
トースはウルシュナのことを見て頬を赤らめる。
目を見れないのか、チラチラと視線をさまよわせるようにして、体をモジモジとさせている。
どうにもトースの好みはウルシュナのような子であって、だいぶ時間が空いた今でもそれは変わらないらしい。
「久しぶり、トース」
「私たちは無視?」
ウルシュナもまんざらじゃない顔をしている。
別にウルシュナもモテないわけではないが、アカデミーなんかでは猫かぶっているし家名で見られている側面はどうしてもある。
トースにはそんなこと関係ない。
真っ直ぐに好意を向けられて嬉しくないはずはないのであった。
エニもリンデランもいるのに自分というところもまたちょっと嬉しい。
「ジケ、エニ、リンデラン、ウルシュナ!」
「エスクワトルタ!」
トースの姉であるエスクワトルタも家の中から飛び出してきた。
エスクワトルタはジケも含めて、みんなと一回ずつ抱擁を交わす。
「元気そうね」
「そっちこそ! エニも変わらないね!」
トースもエスクワトルタも変わらず元気そうである。
「あれからどうだった?」
久々にあったのだから多少積もる話もある。
いきなりカグノーズの話はしない。
「大変だったよ。密猟者にバレちゃったから新しく家作り直しになったし、俺たちが動けない間に魔物増えちゃったりとか……」
トースは小さくため息をついた。
カメや密猟者の問題など大きなものはジケたちと共に解決したものの、コルモー大森林に住むスイロウ族にはその後生活というものがある。
密猟者にバレた集落は破棄して、新しく複数の集落予備地を作った。
迷子防止のためのマーキングなんかもやり直しとなった。
さらにはスイロウ族がそんな状態で動けない間に魔物が増えたりしてしまった。
他にもカメとの戦闘で魔物の移動があったりして、コルモー大森林の魔物もてんやわんやの大騒ぎだったのである。
ようやく落ち着いたスイロウ族が魔物を倒し始めて、コルモー大森林の状態も落ち着いてきているが、いまだに混乱の影響は残っている。
だからこそ調査も入っているのだ。
「それに……」
「ジケ殿ではないか。このようなところで何を?」
「えっ? ……ナルジオンさん?」
ふとスイロウ族たちの後ろから背の高い獣人が前に出てきた。
青みがかった毛色のスイロウ族と違って、真っ白な髪をした獣人はジケとも面識がある。
今や北方の獣人たちを王としてまとめ上げるナルジオンであった。
「あれ? マイファーザー?」
「おや? ピコじゃないか?」
さらにはピコの父親であるオツネまで後ろにいた。
「わー! マーイファーザー!」
「そんな呼び方したことないだろう」
ピコが嬉しそうにオツネに飛びつく。
オツネは驚きつつもピコのことを受け止める。
獣人にしては細く見えるオツネも、子供を受け止めるぐらいならなんて事もない。
「どうして……ここに?」
「その質問は先に俺がした。だが先に答えよう」
ジケも驚いた顔をしてナルジオンに視線を向ける。
「この国にも獣人がいると聞いてな。北の地を離れた獣人は歴史上いくつかいるものだが……こうして無事に過ごす同胞の話はなかなか聞くものではない」
世界は獣人に対して厳しい。
それでも時に獣人は北の環境に耐えきれず逃げ出す者もいる。
逆にどこからか獣人が来ることもある。
「今俺たちは一つになった。かつて何があって離れたのか知りようがないけれど……望むのなら獣人と共に暮らすという選択もある」
つまりスイロウ族を誘いにきたのだ。
北の獣人の国に来ないかと。
「それでここまで会いに?」
「人との友好を結んだが、周りの目はまだ冷たい。出たからない者も多くいる」
ナルジオンならばたとえ問題が起きても身一つで乗り越えられる。
スイロウ族への誠意も表せる。
だから直接王たるナルジオンが乗り込んできたようだ。
「オツネさんは?」
「正直我々はその世界に疎い。道端の露天で倍の金額ふっかけられても気づけはしない。だが彼は賢い。嘘を見抜き、簡単には騙されない」
「……分かる気もします」
ピコが特別優れていることはまちがいない。
しかしその素質を育てたのはオツネである。
教養の基礎が高いレベルにあることは疑いようもないのだ。




