香る男が見つからない2
「あとは新種の花ってやつがどこに生えてるのか分かりますか?」
「いや、私の花ではないので、分からないですね。どこかにレポートがまとめてあるかもしれないから時間をくだされば調べますよ」
「うーん……」
「なんにしてもまだ西側しか調査していないので、西側のどこかだとは思います」
「ああ、じゃあ調べてもらわなくとも大丈夫です」
西側に花があるならそのまま調査隊に会いに行けばいい。
「大森林に入っても大丈夫ですか?」
「我々は森林の調査を任されているが、大森林を封鎖するような権限は与えられていない。入りたいなら好きに。ただしなんの責任も持てないけれど……」
「ええ、それで十分です」
ザーデナーは困ったように肩をすくめる。
調査している身としては入るなと言いたいところだが、入るなという権限もない。
そもそもコルモー大森林は広くて封鎖しようにもできやしない。
入るなと言っても、入らないようにすることは事実上不可能だ。
ただコルモー大森林は危険な場所でもある。
野生の魔物も多く、周りは似たような環境なので気をつけて奥に進まないと迷子になってしまう。
だが別に入るなと言われないならそれでいいとジケは思う。
「あとはスイロウ族にも気をつけてくださいね。まあ、調査が気に入らないのかイラついているようなので」
深いため息をつくところを見るに、スイロウ族の態度は良くないのだろうとジケは感じた。
「話を聞かせていただいてありがとうございます」
「カグノーズ、見つかるといいですね」
結局コルモー大森林に行かなきゃいけない。
ジケたちはザーデナーと別れてコルモー大森林に向かったのであった。
ーーーーー
「まあ、まずはご挨拶だな」
調査隊は西側にいると情報を得たが、ジケは大森林の正面から入ってそのままズンズンと進んでいた。
カグノーズを探しにきたものではあるけれど、一応表向きな理由というものもある。
誰に言い訳するんだ、という話ではあるも、大切な友達には挨拶ぐらいしたい。
大切な友達とはスイロウ族のトースもエスクワトルタのことである。
「会えるかな……?」
とりあえずコルモー大森林に入ってきたはいいものの、スイロウ族の居場所は分からない。
住処となる集落も何ヶ所か用意していて、今どこにいるのかも不明である。
そもそも拠点の位置も分かっていないぐらいだ。
前回来た時はスイロウ族についていく形で集落に寄ってしまったので、外から行こうと思っても場所を覚えていないのである。
だからひとまずコルモー大森林の中に入って、スイロウ族に見つけてもらおうと思っていた。
「……来たな」
きっと正面から入っていけば、コルモー大森林の侵入者に気づいてくれるはず。
そう思ってのんびりと歩いていたらジケの魔力感知の中に人が入ってきた。
すごい勢いでその人は近づいてきて、ジケたちの前に飛び出してきた。
「お久しぶりです、ジケ様」
深い青色をした髪の青年はジケの前にやってくると、膝をついて頭を下げる。
下げられた頭にはケモノのような三角のミミが生えていた。
スイロウ族である。
「どうも。覚えててくださいましたか」
「もちろんです。一族の、そしてこの大森林の恩人を忘れるわけがございません」
ジケとしては見覚えのないスイロウ族であるが、相手はジケの覚えていてくれたようだ。
「スイロウ族はジケ様をご歓迎いたします。今日はどのようなご用で?」
かなり丁寧な扱いに少しむず痒さを感じる。
ただザーデナーが懸念していたような機嫌の悪さは全くなくて安心した。
「トースとエスクワトルタに会いたくて。二人ともいますか?」
「ええ、いますよ。ご案内いたしましょうか?」
「お願いします」
「ではこちらに」
なんともスムーズに会話が進む。
「ジー……」
「何見てんだ、ピコ?」
なんだかピコの視線が突き刺さるのをジケは感じた。
「北のみんな以外にも獣人たらし込んでるんだね?」
「たらし込んでるって人聞きが悪いな」
話には軽く聞いていたが、実際会ってみるとこんなところに獣人がいるのにもピコは驚きだった。
そんなことに加えて、ジケは様付けで呼ばれて膝までつかれている。
北方の獣人たちもジケには敬意を払うだろうが、それ以上な感じもあった。
他の獣人にも手を出していたとはピコもさらに驚きだったのだ。
ピコも人の懐に入るのが上手い自覚はある。
ジケも上手い方だろうと思う。
だがジケがすごいのは懐に入るどころか、相手を懐に収めてしまうぐらいの人たらしなところだ。
懐に入ったと思ったらいつの間にかジケの懐に入れられている。
そんな感じの人だとピコは思っていた。
なろうと思ってなれるものじゃない。
そんなことを思いつつもピコもジケの懐に甘えていたりする。
「たまたまスイロウ族とは関わりがあるだけだよ」
普通の人はそんなたまたますらない。
このままジケの懐でぬくぬくしていた方が人生上手くいきそうだとピコはニヤッと笑うのだった。
「相変わらず変人人脈をしている……」
飛び出してきたスイロウ族に一瞬切りかかりそうだったヘレンゼールも小さくため息をつく。
とんだ仕事を任されたものだが、退屈しないのは確かであると感じていた。




