20段目
進化の上で、人間に近い存在である猿を屠殺することには、かなりの抵抗があった。顔面に占める目の割合が大きく、人間の赤子を連想してしまう。
日本に残してきた赤子の長男は、今頃どうしているだろうか。愛する我が子と妻に再会するためには、情けを掛けることなく、何でも食べて我が五体を維持し、ここから脱出する好機に備えなければならない。
「キキ、キィー、キィー、キィー」
甲高い鳴き声を発する子猿に呼応するように、檻の外からも同種の叫びが響き渡る。
子猿の首を斬ることは、どうしてもできなかったので、頭に袋を被せ、ヒモで首を絞めて窒息死させた。
なるべく目を逸らしながら、全身の毛をむしると、現れたのは、まさに人間の赤子そのものの姿であった。
俺が殺したのは、本当に猿だったのだろうか。錯乱し、叫び出したい衝動を抑え、「手足の指の形状が、人間とは違うじゃないか」と繰り返しつぶやくことで、冷静さを保ち、解体作業を続けた。
その後は、鶏などの獲物は持ち込まれなくなり、大小さまざまな猿の種族のみが、村人から与えられた。1週間に1匹の割合でしか与えられなかったので、とにかく生き延びるためには、食べるしかなかった。
何とか殺しの手順は、ためらわずにこなせるようになったのだが、解体作業は何度やっても慣れない。内臓の位置や形状が、人間と全く同じであり、解体というよりは、解剖をしているような錯覚に陥り、気分を滅入らせた。




