表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/16

真夜中の公園で 第十二話(完)

ノアくんは、スッと立ち上がってぼくに背中を向けてしまった。


「ナー?(ノアくん?)」

「もう一度謝らせてくれ。騙してごめん。

それから、お礼も言わせて欲しい。君と過ごせた三年間はとても楽しかった。ありがとう」

どうして過去形で言うの?

それじゃまるで。

「最初は、見聞を広める為に一年間だけ学院に通わせてもらう約束だったんだ。

でも、君と知り合って、別れるのがつらくて、今まで引き伸ばしてもらってた」

ノアくん……

「できたら一緒に高等部まで進んで、もっともっと仲良くなって、もう少しおとなになって

事がうまく運んだら、すべてを打ち明けるつもりだったのに……。

あの天界人のせいで計画がパーだ。今度会ったら、八つ裂きにしてやる!」

ノアくんのからだから黒い炎のようなものが揺らめいて、ギクッとする。

ノ、ノアくん、落ち着いて!

「……今のは聞かなかったことにしてくれ」

声と背中がしょんぼりすると、黒い炎は小さくなって消えた。

よかったー。暴走するのかと思ったよ。

ホッとして前足で額を拭った。


「学院は辞めるよ。困るだろ?

こんな得体の知れないヤツとルームメイトを続けるなんて」

ええ?

背中を向けてるノアくんには見えないだろうけど、ぼくはフルフルフルフルと首を振った。

ううん!得体はおそらくわかってると思う。

さっきから言葉の端々にヒントも出てるし。間違いないよ。

だからぜんぜん困らないよ?それにぼくは。

「僕が学院を去ったら、あのサド教師も辞めるだろう。

あいつは僕のお目付け役だからね。もう君を悩ませることはないよ。

それから、高等部に進学しても平穏に過ごせるよう、ちゃんと手は打っておくから。

危ない趣味の上級生もいるみたいだし、僕にまかせてくれ。

そうだ、そのかわいい姿はあんまり人に見せないほうがいいんじゃないかな?

今日みたいなことがあったら心配だよ。あとは……」

どうでもいいことを話し続けている黒マントの背中を睨みつける。

だって、だんだん腹が立ってきたんだ。


自分の言いたいことだけ言って、ぼくの気もちは聞かないの?

何それ?

ぼくのからだは怒りでプルプルと震えてきた。


「ナッ!フミギャッ!(ノアくん!話があるんだけど!)」

怒りに任せた声で名前を呼ぶと

黒い背中が揺れ、整った顔がこちらを向いた。

赤毛のノアくんとは違う色と顔立ちだけど、ノアくんだ。


ノアくん。

ちょっと、ここに座って!

ぼくは前足でトントンと地面を叩いた。

ジェスチャーが伝わったのか、ノアくんはぼくの前に片膝をついて座った。

緊張した顔でぼくを見下ろしている。


あのね、ノアくん。

さっき、騙してごめんって言ってたけど、謝らなくていいよ。

逆に、最初に何もかも打ち明けられてたら困ってたと思う。

まだピカピカの中等部一年だよ?そんな最高機密、子どもには荷が重すぎるって。

だから、もうそれはいいんだ。

でも、

ぼくは怒ってるよ?

なんで学院を辞めるなんて言うんだよ!

ぼくはノアくんが何者でもぜんぜん構わないよ。

赤毛でも黒髪でも猫でも豹でもノアくんはノアくんだもん。

それに、容姿も身分も職業も、ぼくにはどうだっていいことだ。

三年間ずっと傍にいてくれて、友達でいてくれたのは、今目の前にいる君だよ。

どんな姿でも、どんな秘密を持っていても、ぼくはノアくんのことが。


そこまで言って、ハッと前足で口を塞いだ。

ぼく、今、猫だったんだ……。

頭に血が昇ってたせいで、混乱しちゃった。

前足で頭をポリポリと掻く。


ずっと猫語でノアくんに語りかけてたのかあ。

ジェスチャーもなしで。

もちろん、ぜんぜん通じてないよね?

よし、ひとの姿に戻ってからやり直しだ!

ぼくは目を瞑って呪文を唱えようとした。


「で?」

「ナ?ウニャア!(え?うひゃあ!)」


目を開けるとノアくんの腕が伸びてきて、ぼくのからだを抱きあげた。

そのままいきなり立ち上がったので、頭がクラクラする

「僕のことが、何?」

フラフラしていると猫耳に囁かれ、え?と顔を上げる。

至近距離にあるノアくんの瞳が、金色に煌いていた。

さっきまで暗い顔をしていたのに、今は満面の笑顔だ。

「容姿も身分も職業もどうでもいいんだよね?

ミズキくんは僕が何者でも受け入れてくれるんだね?」

……………………え?

今、なんて?

ぼくはノアくんの顔を再びマジマジと見た。

言葉が通じてる。猫語なのに?

え?でも?今までは……。あれれ?

ぼくの顔のはてなマークに気づいたノアくんは

「ゴメン。実は語学は得意なんだ。ヒアリングは獣全般マスターしてる」

悪戯っぽい笑みと一緒に、衝撃の事実を教えてくれた。

「…………………」

ぼくの脳裏に、ついこの間の赤ちゃんプレイが甦える。

いくらイヤだと訴えても、困った顔で首を傾げてたよね。

何言ってるのかわかんないって……。演技だったんだ、アレ。


ノアくん。

こっちのウソの方は絶対許せないような気がするよ……。


「そんなことより、ミズキくん。僕がなんだって?」

ノアくんが、ウキウキした声でさっきの続きをねだってきた。

反省の欠片もない、無邪気で優しい笑顔だ。


なあんだ。笑顔はおんなじだ。

ぼくの大好きなノアくんの笑顔だ。


…………ま、いいか。

どうせ告白はするつもりだったしね。



でも、この言葉は本当の自分の姿で伝えたいんだ。



ぼくは、そっと目を閉じる。

そして

小さな声で変身解除の呪文を唱えた。






end

真夜中の公園で 


『リトルロマンス』本編はこれで完結です。

最後までおつきあい頂きありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ