3話 脱ぐのを強要するイケメンは犯罪ですか?
やばい。
光りに包まれたと思ったら、今度は奈落の底まで落ちている気がする。時々夢で見る、一気に落下していくのと同じような感覚や。
これ......どこまで続くん?
流石にこれ以上落ちたら正気でいられない。そう思ってから数分くらい経ったときに、やっとまともな景色が見え始めた。でも、安心できたのも束の間、新しい問題に直面する。
「ここ......どこやねん」
馴染みのない木造建築に、馴染みのない内装。歴史とか古典の教科書でかろうじて見たことがあるような気がしなくもないくらいの雰囲気に思わず息を呑む。
待て待て落ち着け......俺は確かに家におったはずや。洋風の、どこにでもあるテーブルに座ってご飯食べてた。
それで......今これ?
制服で迷い込んだせいか、完全に舞台装置の上にいるような気分になる。どうなっているのかわからないけど、とにかく逃げようと思って外へ出ようと前へ出ると、慌てていたせいで足がもつれてその場に転げてしまった。
「っいた......」
ちょっと擦りむいたっぽいけど、そんなん気にしてる暇無いわ。とにかく出な。まずここがどこかわからんと、何もできへんし。
その一心でもう一度立ち上がったときだった。
「来たのか?」
奥から、凛とした声が聞こえてきた。低くて深みがあるのに甘い声。
思わず立ち止まると、恐る恐る声の主を探す。
「答えろ。来たのか?」
どう答えたら良いのかわからない。確かに来たけど、望んで来たわけやないし......。
目を凝らしてみると、カーテンのようなものの奥に人影がうっすらと映っているのが見える。パッと見やけど、俺より背が高いのは確実や。
今、頼れる人は眼の前の怪しい人影だけって......こんなん絶体絶命やろ......。
半ば投げやりになりながら竹っぽいカーテンを開けて入ると、これまた衣装のような服を着た男が座っていた。はっきり顔は見えないけど、高い鼻とスッキリとした輪郭は把握できる。
「......臭うな」
「へっ!?」
男がぽつりとそう言って初めて、ズボンにこぼした牛乳がいつの間にか乾いてしまっていたことに気付いた。それはそうとして......初対面で臭いって......普通思っても言わんで。でも、こういうやつは口答えとかしたら余計面倒なことになるし、不快な匂いを放っているのは事実なわけだからペコリと頭を下げる。
「ごめんなさい。ズボンに牛乳がかかって......」
「ズボン?何だそれは?」
えっ、ズボンを、知らない?そんな人間おらんやろ。
でも、賢い俺はすぐに理解する。この変な家や変な部屋、そして変な服装の理由を。
この人......そういう趣味やねんな。
考えれば当たり前のことだった。俺みたいなイケてる顔がおって、比較的小柄やったら誘拐しようと思うやつがいてもおかしくない。そんでもって、そういうやつは往々にして変態ばっかりや。変な世界観を持ってプレイをお楽しみになるってことやろ。
そこまでわかったら、なんだか恐ろしさを通り越して、憐れみの情が芽生えてくる。俺は石像のように動かない男に目を合わせるために座ってやると、コンセプトに合わせた言いかえをしてやる。
「衣服に、臭いの原因がついてしまったんです」
「そうか。なら脱げ」
……はい?
今のは俺の聞き間違いやんな。今......
「脱げ」
うん、聞き間違いじゃないっぽいわ。
何このデジャブ感。森原とのやり取りと一緒なのに、絶望感比べ物にならんのやけど。
純粋な俺はわからなかったし、もしなんとなく理解していたとしても、気付かないふりをしたかったんだと思う。自分みたいな美丈夫が誘拐されたら、何を求められるのかを。だって普通の感性してたら、代わりの服を持ってくるよとか言ってくれるはずやん。それなのにただ『脱げ』って......。これは絶対に狙われとるやろ。
今更になって恐怖が襲ってきて、固く腕を組みながら後退りしようとしたとき、雲が晴れて部屋中を照らした。
月明かりが見せた男の姿は、美しい以外の何者でもなかった。
変な髪型で変な帽子を被ってるのに、こんなにかっこいい人おるんや。それにこの目……翡翠みたいにキラキラしとる。
こんな……こんなかっこいい変態おるんや。
次回の投稿は
10月19日(月)の17:10です
お楽しみにm(_ _)m




