2話 思い出にふけっているとタイムスリップするかもしれない
家に入るのが嫌や。
そう思ったのはいつぶりだろう。多分二週間くらい前に隠してたテストがバレて以来だろう。あの時もそうだったけど、なぜか最悪な想定をして帰路につくと、それが本当になってしまうことが多い。
だからきっと、今日も家に入れば真っ先に可愛い弟にバカにされるんだろう。
……今日は野宿か?
新たな選択肢がよぎるけど、そんなことしたらあとが怖い。ため息を我慢して扉を開けると、予想に反して、家には誰もいなかった。逆に想定していないことが起きると人間はソワソワするらしい。意味もなく家中を歩き回ると、喉が渇いたから冷蔵庫を開けてみる。中にはお茶とジュース、それとメモが貼られた夕食が入っていた。
『朱麗の試合に行くから遅くなります 先に寝てて』
……そういえばアイツ、今日試合あるとか言ってたっけ。
中二のくせに身長が173で、色白のイケメン。成績は優秀でおまけに清楚で兄想い。正直属性を詰め込みすぎだろと思ってしまうけど、生憎それが俺の弟のせいで損ばかりしている。
今日だってそうや、弟があんなに背が高くなかったらもしかしたら......。
……いや無いか。
我慢していたため息を一気につくと、ラップに貼られたメモを剥がして、とんかつとレタスが盛られた夕食をレンジに入れた。
ブーンと回っているのを、じっと見る。暇すぎて、きつね色と緑色が交互にやって来る姿から目を離すことができなかった。
朱麗、頑張っとるかな?
ふと、何もかも俺よりできるアイツのことが気になった。
朱麗のことだから何でも卒なくこなしそうだし、そもそも試合は終わって、今頃はお母さんとご飯に行ってるんだろうけど、いつもくっついて大好きと言ってくれる弟のことを嫌いになれるわけがない。たとえどれだけ周りに比べられようと。
チンと鳴ってレンジが止まると、皿を取り出してテーブルに置く。牛乳をコップいっぱいに入れたら準備完了。小さな声でいただきますと言うと、モソモソととんかつに齧りつく。噛んだところから肉汁が溢れてきて、今日の失恋も飲み込めるような気がした。
そんな一回の失恋が何や。これから先何人と会うかわからんのに、いちいち落ち込みまくっとったら体持たんやろ。
鼓舞するように自分に言い聞かせると、棚の上に飾られている盾を眺めてみた。
『京都府弓道大会皆中賞 橘 朱麗』
『京都雨垂神社書道大会金賞 橘 紫織』
お互い、違う場所やけど、頑張っとんねんなぁ......。
恋人はいつでもええけど、こういう賞は、今しか取れへんもんな。
そう考えると気持ちがすっと楽になったから、もう何年経っても効果が現れない牛乳を飲もうとコップを勢いよく持ち上げた。その勢いで牛乳が制服のズボンにバシャッとかかってしまった。テーブルにもかかっていて、そこから床に滴っている。
「やばっ、お母さんにバレたら絶対怒られるやん」
焦って雑巾を取りに行って、こぼした所を拭き始める。その時だった。
床にこぼれた白いところから、光が溢れ出す。驚いて雑巾を落としてしまうと、光は更に強さを増した。
「なんなん......!?誰かっ――」
本能的に逃げようとしたその時、金縛りのように動けなくなると、俺はその光に引きずり込まれる。なんとか逃れようとしても、白い光がまとわりついて離さない。
「ホンマにお願い!お母さん、パパっ......朱麗!」
その言葉を最後に、家には食べかけのとんかつと、床に転がった雑巾だけが残された。
登場人物の紹介です
橘 紫織
高校一年生、158センチのA型。蟹座で好きな食べ物はモンブラン。身長が低いことがコンプレックスだが、そのぶん自分の顔がイケていることは人一倍理解しているため、自尊心だけは無駄に高いがメンタルは豆腐。当然付き合ったことはない。書道が大の得意。
橘 朱麗
中学二年生、173センチのA型。射手座で好きな食べ物は栗ご飯。幼い頃から弓道をしており、同世代では名のしれた弓道家。イケメン、高身長、賢く優しいなど、スパダリ要素を豊富に持っているが、可愛い兄一筋なので恋愛する気がない。
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次回の投稿は
10月12日(月)17:10です
お楽しみに〜




