祠破壊
ここは帝都の下町に点在している祠のうちの一つ。そこの前を、トキとリリカは偶然通りがかった。
「帝都って、いたるところに祠がありますよねー。さすが歴史ある町なだけありますね」
リリカはふと立ち止まる。
道路の脇にポツンとあったり、あるいは建物と建物の間の細い路地にあったり。帝都で暮らしているなら、意識せずとも祠を見かける機会は多い。
どの祠も外見こそ古びているが、管理はしっかりされているようで、ここの祠にも真新しい団子が供えられたりしていた。
「あー駄目だよリリカちゃん。いくら美味しそうだからってお供え物に手を付けちゃ」ここぞとばかりに後輩を窘めるトキ。
「もー! トキ様じゃあるまいし、そんなことはしませんよ!」
あらぬ疑いをかけられ、リリカはご立腹。一方トキは、そんなことはまるでなかったかのように、祠へと近づいていく。
「そういや祠の中って何が入ってるんだろ。前に開けようとしたんだけどさ、偉い人に物凄い勢いで止められちゃったんだよ。聖女の権限でどうにかならないかなーってお願いしても駄目だった。……でも今はその偉い人もいない」
「トキ様? いったい何をするおつもりですか?」
「有り体に言えば……未知の探求、かな?」
するとトキは、祠の扉をガシガシ揺らし始めたではないか!
扉には鍵がかかっていて開かないが、代わりに古くてボロボロな祠自体が壊れそうになっている。リリカは慌てて止めに入った。
「やめてくださいトキ様! 壊れちゃいます、今にも崩れそうです!」
「ちょっと何するのリリカちゃん。私と一緒に祠の秘密を解き明かそうって約束したじゃないか」
明らかな捏造に憤慨している余裕はなかった。今ここで止めなければ、祠は無残にも崩壊してしまう。そんな未来像がリリカの脳裏によぎったのだ。
しかし、トキの力は意外にも強く、止めようとすればさらに祠を強く揺らされてしまう。
あえなくリリカは弾き飛ばされ、その余波で背中がこつんと祠に当たった。
そして次の瞬間、祠はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「あー……やっちゃったねリリカちゃん。祠……壊れちゃったよ」
「自然な流れで擦り付けないでくださいトキ様。今のは完全にトキ様に非があります」
「分かった分かった。一緒に謝りにいってあげるから、ね?」
「謝るのはトキ様ですよ」
この時、二人は気付いていなかったが、崩れ落ちた祠の残骸から、黒い霧のような物が立ち上っていた。そしてその黒い霧は、徐々にトキとの距離を縮めつつあった。
(くくく……まさか聖女サマが儂の封印を解いてくれるとはのう)
この黒い霧の正体は、500年前に聖女との戦いに敗れ、今日まで祠の中に封印されていた悪霊だった。しかしご覧の通り、その封印は何の因果か聖女の手によって解き放たれた。悪霊は500年前の恨みを晴らすかのように、あるいはお礼参りでもするかのように、トキへの憑依を試みた。
「ま、壊れちゃったものはしょうがないよ。とりあえずお団子でも食べて落ち着こ」
悪霊は憑依の成功を確信した。聖女ともあろう人間が、お供え物の団子に手を付けるなどという愚行を犯すはずがないからだ。真っ当な人間ならやるはずがない行動を、いともたやすく行っているのが何よりの証左。
……。
…………。
どうにもおかしい。憑依に成功したはずなのに、自由に体を動かすことが出来ない。のんびり団子を食べている場合ではないのに、この聖女の体は団子を食べるためだけにしか動いていないのだ。
(ま、まさか、自らの意思で団子を食っているのか!? そんなはずはない……こんなカスな聖女がいるはずがない……!)
しかし、体の主導権は未だ奪えずにいる。それどころかトキの体内に宿る奇跡の力が、徐々に悪霊の意識を蝕み始めていた。
(く、苦しい……ッ! 儂のカラダが、消えていく……! 嫌だ、イヤダァー……)
悪霊はトキの体からの脱出を試みたが、時すでに遅し。奇跡の力による浄化が完了し、悪霊は大気と同化し完全に消え去るのだった。
「ヘックシ! なんか鼻がムズムズするなぁ。花粉症かな?」
「バチが当たったんじゃないですか?」
そんなまさか、とトキは笑った。後日、少しお腹が痛くなったのは全くの偶然であろう。




