ガチャガチャ⑵
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。聖女のトキは、後輩のリリカとともにおやつの買い出しに訪れていた。目的のお菓子も手に入れ、店を後にしようとした矢先。二人の目に入ったのは、軒下に立ち並ぶガチャガチャマシンだった。
「トキ様見てください、ガチャガチャが新しくなってますよ」
「本当だねぇ。大怪獣ガチャが大怪獣ガチャ2になってる。危ない危ない、危うくコンプリートを逃してしまうところだったよ!」
「えっ。でもシークレット……」
「いやーほんと、紙一重ってこういう時に使う言葉なんだねぇ!!」
「アッハイ、ソウデスネ…」
リリカは色々と察し、それ以上の言葉を続けなかった。真実を知ること、指摘することは時として残酷……というより、最良の選択肢になることの方が少ないことを、世に生きる大人は薄々勘付いているのだ。だからこの場面での最良の選択肢は沈黙、それしかない。
「それで、2の方はやってくんですか?」
「当然。今回もコンプリート狙ってくよ」
「はぁ。道のりは長そうですね」
千里の道も一歩より。トキはさっそくマシンに300円を投入。ガチ、ガチ、ガチ――レバーが回らない。よく見てみると400円に値上げされていた。諸行無常。怒りと悲しみの連コイン。
「まったくもう、100円分の値上げの成果はいかほどかね。……あれ、これってラドン?」
カプセルの中身を覗いてみると、そこには飽きるほど見慣れたラドンの姿が鎮座していた。
「一覧にも載ってませんよ。もしかして一発目からシークレットじゃないですか!?」
リリカは興奮していたが、トキは至って冷静。実に冷め切った視線をカプセルの中に送っている。
「そうかなぁ。ラドンは確かに人気ではあるけど、シークレットに選ばれるほどの器じゃないよ。もしかしてこれ、『1』のラドン? いやこれ絶対『1』のラドンだよ」
ラドンの姿を見飽きてしまうほど見続けたトキだからこそ断言できるのだろう。このラドンの造形は、『1』のラドンと全く同じ造形である、と。
そして、この奇妙な現象への回答も何となく想像はつく。
マシンの中身を入れ替える際、底に残っていたカプセルをうっかり交換し忘れてしまったのだ。
「こ、これはさすがに見逃せない……! こっちは100円多く払ってるんだけど!」
たかが100円されど100円。出た景品がよりによってラドンなのも、トキの怒りを余計に加熱させていた。すぐさま店に戻り、店主のおばちゃんに抗議。無事に言い分が通り、お詫びに好きな景品と交換してもらえることとなった。もちろん選んだのはシークレット……ではなく、推し怪獣の『植物怪獣ジオランテ』。シークレットは自引きしてこそ、という謎のこだわり故の選択だった。
「よかったですね、トキ様」
「一時はどうなることかと。まあ、結果オーライだね」
「それにしてもガチャガチャの進化はすごいですよね~」
「私は時々思うんだ。何年か先の未来では、こう……ガチャガチャから出たキャラクターを『育成』させたり『戦闘』させたりする遊戯が生まれるんじゃないかって」
「へぇー、面白そうですね! 射幸心がギンギンです!」
「だろう? それにガチャガチャも『季節限定』の物を出したり、『他作品とコラボ』したりすればもっと射幸心を煽れる気がするんだ」
「あとは被ったキャラクターを『重ね』て強さを『限界突破』させるとか、ですかね?」
「それもいいね。我が家のラドンたちも浮かばれるよ。でも……」
先ほどまではノリノリだったトキだったが、ふと冷静に立ち止まると滅茶苦茶なことを言っていたことに気付いてしまった。この革命的システムには重大な欠陥がある。それは、突き詰めようとすれば財布の中身がいくらあっても足りなくなってしまうこと。
「でも、さすがにそんなことにはならないと思うよ」
「ですよねー。いくら何でも発想が悪魔的すぎますし」
「「あはははは!」」




