ガチャガチャ
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。その店先の軒下には、横3×縦2で計6台のガチャガチャマシンが並べられている。
「それにしたってガチャガチャも随分高くなったよ。昔は100円200円が当たり前だったけどさ、今じゃ平気な顔して400円500円だもんね。これが新時代……おねえさん震えちゃいそう」
と、聖女のトキはぶつくさ言いながら、目の前のマシンに300円を放り込む。ガチャン、ガチャン、ゴトン。出てきたのはすでに5体は所持している「温泉怪獣ラドン」だった。
「はー、またこれですかそうですか。全五種類のはずなのにどうしてこうも偏るかなぁ。……もしかしてヤッてる? これ絶対ヤッてるよね~?」
確率を司る神への疑念が留まることを知らない聖女のトキ。彼女の家の棚にはもう、ラドン兄弟にあげられる席は残っていないのだ。
「そんなわけないじゃないですか。ただ単にトキ様の運が悪かっただけですよ」
「お、丁度いいところに。そういえばリリカちゃんもこのガチャガチャ回してたよね」
「ま、まあ……多少は」
影に隠れてこっそり回していたはずなのに、どうして知っているんだろう。リリカは気まずそうに答える。
「ま、値段が上がった分景品のクオリティも上がったけどね。うちの冷蔵庫にびっしり付いてるマグネット達とは比べ物にならないよ。リリカちゃんも回してく?」
「そうですね。せっかくですし回していきます」
「おーいいね。私の骨はしっかり拾っておくれよ」
リリカは力強く頷き、硬貨を握り締めてガチャガチャマシンの前に立ちふさがる。
ガチャン、ガチャン――……穏やかな昼下がりの駄菓子屋に響き渡るは、無骨な回転音。
「ま、値段が上がった分景品のクオリティも上がったけどね。うちの冷蔵庫にびっしり付いてるマグネット達とは比べ物にならないよ」
などとボヤきつつ、カプセル越しにラドンの造形を見つめるトキ。確かに300円とはとても思えないほどの高クオリティではある。
「リリカちゃんは何が出た? うわ、それキングヒドラじゃん! いーなー、私それだけ持ってないんだよね。……え、リリカちゃんは逆にラドンだけ持ってないんだ。じゃあさじゃあさ、私のラドンとリリカちゃんのヒドラ、交換してみない?」
トキの持ち掛けた提案は、まさに理想的なwin‐winのトレードと言えよう。しかしトキの思惑とは裏腹に、リリカの反応は芳しくはない。しきりにガチャガチャの近くに貼られた張り紙を見つめている。
そこには店主の達筆な手書きで「景品の交換はご遠慮ください」と記されていた。
紙自体の年季が見るからに入っており、かなり前から貼られているようではある。
「ト、トラブルが昔あったようだね」なせか露骨に視線を逸らすトキ。「でもさぁ、正直言ってリリカちゃんもラドン欲しいよね?」
リリカはひとしきり悩んだのち、ゆっくりと頷く。
「で、ですが、交換は禁止されているようですけど」
「私にいい考えがある。とりあえず私の真似してみて」
トキはおもむろに空を見上げ、手に持っていたラドン入りのカプセルを地面に落とす。明らかにわざとらしい口笛も添えて。するとリリカも律儀に空を見上げ、キングヒドラ入りのカプセルを地面に落としてしまったではないか。
「おっと手が滑っちゃった。私のは“コレ”だったね。そしてリリカちゃんのは“ソレ”。……ふふっ、“良い一日”を」
「そうですね、“良い一日”を」
と、二人は示し合わせたわけでもないのに帽子を深く被る仕草をして交錯する。“交渉成立”とでも言っておこう。
かくしてトキの手元には“何故か”“キングヒドラ”のミニチュアが残った。
この駄菓子屋ではガチャガチャの交換は禁止されているようだが、“事故”が起きたのなら仕方ないだろう。
「長い道のりだった。けど私はついにやり遂げたよ」
「おめでとうございます! 後は“シークレット”だけですね!」
「シ……シークレット?」
リリカは無邪気に頷く。どうやらこの300円もする大怪獣カプセルトイには通常の五種類の他に、滅多に出ないシークレットも含まれているとのことだった。
「うわぁ、よく見たら右下になんか謎の?マークが……」
トキは膝から崩れ落ち、冷たいコンクリートに倒れ込んでしまう。その拍子にキングヒドラのミニチュアも地面に転がり落ち、三本ある首の一本がぽきりと折れてしまうのだった(あとで接着剤でくっつけました)。




