夏祭り(3)
神社の本殿まで伸びる一本道が色々な食べ物の屋台で埋め尽くされていた。トキ達は我を忘れ、己の欲望を満たすべく行動に移す。そうして二人の姿は、早々に夏祭りの雑踏へ消えていった。
「お祭りで食べる焼きそばってどうしてこんなに美味しいんでしょうねー!」
「真っ白な綿あめ……そうそう、こういうのでいいんだよこういうので。近頃の綿あめは無駄に虹色にしたりでクドクドクドクド……」
「へー、りんご飴って本物のりんごが中に入ってるんですね!」
「おいおいこのたこ焼き、たこが中に入ってないじゃないか」
二人は屋台という屋台を練り歩き、夏祭りという“味”を満喫する。焼きそばも綿あめもりんご飴もたこ焼きも、食べようと思えばいつでもどこでも食べられる普遍的な食べ物だが、夏祭りで食べるという特別な経験は、実際に夏祭りに訪れなければ決して味わうことのできない至高の一時である。
「ふー、久々にこんなお腹いっぱい食べました!」
「そうかな。つい最近、なんならついさっき食べてた気が……そういやキミ誰だっけ」
「ひどいですよぉー、後輩の名前を忘れるなんて。ボクはナツキです。ずっと前からトキ様の下で働いているではありませんか」
少年は自らをナツキと名乗り、屈託のない無邪気な笑顔を浮かべる。傍から二人を見れば、きっと先輩後輩という関係ではなく、夏祭りという場所も相まって年の離れた姉弟くらいに思う者が大半であろう。しかし、そんな二人の間には、長い時間を共に過ごし、数多くの苦楽を乗り越えてきたと思えるだけの絆が備わっているのも確かだった。トキが名前を忘れたフリをしたのも、きっといつもの悪ふざけをしたに過ぎないだろう。
「ああそうだったそうだった。ナツキ君、だったね」
「はい、覚えてくれたら嬉しいです!」
「努力はするよ」
その後、二人は祭りの屋台を練り歩く。型抜き屋では最高難易度の型抜きを成功させ、射的屋では目玉商品である最新ゲーム機を一発で獲得し、クジ屋では特等の南の島旅行券を引き当てるのだった。
「いやー夢なんじゃないかってくらい上手くいきましたね!」
「ところがどっこい、これは現実さ。私の手にかかればこのくらいジャンジャカジャンよ」
「さすがはトキ様です! やっぱり夏祭りは最高に楽しいですね!」
「へぇー。キミはそう思うんだ」
「……トキ様は楽しくないのですか?」
ナツキにとっては予想外の返答だったのか、しばらくその場で立ち尽くしてしまう。
「別に楽しくないわけじゃないよ。ただ、この夏祭りには理不尽という名のスパイスが足りない。まるで作り物だ」
「作り物だとして何が問題なのですか。実際トキ様も型抜きや射的でいい思いをしてるじゃないですか!」
「そう、そこなんだよ。あまりにも上手くいきすぎている。型抜き屋の親父は難癖付けてこないし、射的の景品にもオモリが入ってない。クジ屋のクジにだってちゃんと当たりが入ってる」
「それの何が問題なのですか。クジ屋のクジに当たりが入ってるのは当たり前です!」
「甘いね。夏祭りはルール無用のバーリ・トゥードだ。無知なキッズは夏祭りを通して世の理不尽を学んでいくのさ」
「……! 神聖な夏祭りを、ただの憶測で汚さないでください!!」
「憶測? 残念ながら事実だよ」
トキは冷たく言い放つ。幾千もの苦い経験を乗り越えてきたような、そんな凄味と威圧感が短い言葉の中に詰まっていた。
「そういえばこのお祭り、定番の金魚すくいが見当たらないね。これもキミに関係があるのかな」
「な、なにが言いたいんですか。言いたいことがあるならハッキリ言ってください」
「じゃあ一番重要なことを言わせてもらう」
「……」
「…………」
「リリカちゃんはどこへやった?」




