夏祭り(2)
神社の本殿まで伸びる一本道が色々な食べ物の屋台で埋め尽くされていた。トキ達は我を忘れ、己の欲望を満たすべく行動に移す。そうして二人の姿は、早々に夏祭りの雑踏へ消えていった。
「お祭りで食べる焼きそばってどうしてこんなに美味しいんでしょうねー!」
「真っ白な綿あめ……そうそう、こういうのでいいんだよこういうので。近頃の綿あめは無駄に虹色にしたりでクドクドクドクド……」
「へー、りんご飴って本物のりんごが中に入ってるんですね!」
「おいおいこのたこ焼き、たこが中に入ってないじゃないか」
二人は屋台という屋台を練り歩き、夏祭りという“味”を満喫する。焼きそばも綿あめもりんご飴もたこ焼きも、食べようと思えばいつでもどこでも食べられる普遍的な食べ物だが、夏祭りで食べるという特別な経験は、実際に夏祭りに訪れなければ決して味わうことのできない至高の一時である。
「ふー、久々にこんなお腹いっぱい食べました!」
「そうかな。つい最近、なんならついさっき食べてた気が……おっと」
人ごみの中を子供が走ってきたので、トキは咄嗟に躱した。走ってきた子供は、風のように去って再び人ごみの中へ消えていった。
「まったく。謝りもしないのかね最近のキッズは」
「元気が良くていいじゃないですか」
「元気が良すぎるのも問題だね」
トキは一度振り返り、文句の一つでも言ってやろうと思ったが時すでに遅し。しかし、相手の顔はしかり記憶に刻んだので、もう一度会おうものならたとえ数十年後であろうと一字一句違わぬ文句をぶつけてやれるに違いない。
「さーて、そろそろデザートにしましょうか!」
「まだ食べるのかい? あのりんご飴はデザートじゃなかったんだ……」
時々トキが思うのは、リリカの胃はブラックホールに通じているんじゃないかということだ。デザートは別腹と言っても限度があるはずなのだが、リリカにその常識は通用しないのだろう。
「あっ。これはちょっと困りましたね」
「どうしたのリリカちゃん」
「あまりお金を持って来てなくて……」
「それなら問題ない。手っ取り早く稼ぐ方法がある」
「あのー、リリカいかがわしいことはNGなんです~」
「……いったい何を想像してるのかな」
変なことを言うリリカは放っておき、トキは近くのテーブル席に腰を下ろす。そこは型抜き屋のテントの下だった。硬いガムの板を掘り込みに沿って針で削り、破損させることなく繰り抜けば成功。成功すれば模様の難易度によって賞金が得られるのが型抜きの特徴である。トキはこの型抜きによって、リリカのデザート代を稼ぐ目論見だった。
「さて、ぱぱっと稼ごうか」
無言で格闘すること数分、トキは見事に最高難易度の型抜きを成功させ、店主からそこはかとない額の賞金を獲得。その賞金をデザート代に充てても余裕で豪遊できるほどの額が残っていたので、今度は射的に挑戦してみると、なんと一発で目玉商品である最新ゲーム機を撃ち抜いてしまう。それでもなお残金には余裕があったのでクジをやってみると、これまた特等を当てて南の島旅行券を手にするのであった。
「いやー夢なんじゃないかってくらい上手くいきましたね!」
「ところがどっこい、これは現実さ。私の手にかかればこのくらいジャンジャカジャンよ」
「さすがはトキ様です!」
「とはいえさすがに疲れてきたよ。そろそろ帰ろうか」
「はい、そうしましょう」
そうして祭り会場を後にしてみると、神社の本殿まで伸びる一本道が色々な食べ物の屋台で埋め尽くされていた。トキ達は我を忘れ、己の欲望を満たすべく行動に移す。そうして二人の姿は、早々に夏祭りの雑踏へ消えていった。
「お祭りで食べる焼きそばってどうしてこんなに美味しいんでしょうねー!」
「真っ白な綿あめ……そうそう、こういうのでいいんだよこういうので。近頃の綿あめは無駄に虹色にしたりでクドクドクドクド……」
「へー、りんご飴って本物のりんごが中に入ってるんですね。初めて知りました!」
「おいおいこのたこ焼き、たこが中に入ってないじゃないか。恥を知れ恥を」
二人は屋台という屋台を練り歩き、夏祭りという“味”を満喫する。焼きそばも綿あめもりんご飴もたこ焼きも、食べようと思えばいつでもどこでも食べられる普遍的な食べ物だが、夏祭りで食べるという特別な経験は、実際に夏祭りに訪れなければ決して味わうことのできない至高の一時である。
「ふー、久々にこんなお腹いっぱい食べました!」
「そうかな。つい最近、なんならついさっき食べてた気が……おっと」
人ごみの中を子供が走ってきたので、トキは咄嗟に躱した。走ってきた子供は、風のように去って再び人ごみの中へ消えていった。
「まったく。謝りもしないのかね最近のキッズは」
「…………」
「どうしたの、ぼーっとしちゃって」
「さっきの子供が走ってきた状況、ものすごく既視感がある気がして……」
「気のせいでしょ。祭りでテンション上がってるキッズなんてさして珍しいわけじゃないし」
「そう、でしょうか……」
リリカは俯き、それ以降ずっと上の空の状態が続いた。トキが型抜き屋でたんまり賞金を得ても、射的で最新ゲーム機を撃ち抜いても、クジで特賞の南の島旅行券を当てても、果てにはリリカの好きそうなデザートを目の前に見せてみても、すっとリリカは上の空なままだった。
「さて、さすがに疲れてきたしそろそろ帰ろうか」
「……はい、そうしましょう」
そうして二人は名残惜しみつつも、祭り会場に背を向ける。まずはトキが神社の敷地の外へ。続いてリリカが外へ
「つ か ま え た」
「――っ!?」
背後から突然口を抑えられ、リリカは言葉を失った。しかも実行者は10歳くらいの子供……人ごみの中を走っていたあの子供だった。いったい何が起きているのか分からない。ただ、口を抑えられていたのは幸運だったかもしれない。もし口を自由に動かせていたら、間違いなく意味不明な叫びを上げていたはずだから。
「にしても意外だったよ。まさか最初に異変に気付くのが聖女じゃなくて、君の方だったなんて」
「い、異変……やっぱり感じていた既視感は勘違いじゃなかったのですね……」
「お姉ちゃん優秀だね。と言いたいところだけど、128回目でやっと気付くのはやっぱり遅すぎだよ」
「かはっ……!」
次の瞬間、リリカは意識を失った。何をされたかは不明。その場にどさりと倒れ、動かなくなってしまった。
「安心して。お姉ちゃんの代わりはボクがやってあげる。この夏は終わらせない……終わらせるわけにはいかないんだ」




