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後輩

 ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。店内では多くの子供たちが、和気藹々と駄菓子選びに熱中している。その子供たちの輪の中には、先日引っ越してきたばかりの彼の姿もあった。


「この前までは寂しそうにしてたけど、もう輪の中に溶け込んでるよ。やっぱりキッズの成長スピードは凄まじいものだね」


 しみじみと後方で腕を組むトキのさらに後方で、リリカも呆れたように腕を組んでいた。吐き出されるため息は鉛よりも重く、どちらが“聖女”でどちらが“新米修道士”なのか、傍から見ればもはや区別することは不可能になっていた。

 

「トキ様も見習うべき部分があるのではないですか? もうちょっと仕事を早く片付けていただければ、駄菓子屋に入り浸っていることにも目は瞑るのですが」

「リリカちゃんは真面目だね。ちゃんと片付けたんだからいいでしょ?」


 まるで8月31日の小学生みたいなことを言う、と内心思うリリカであったが、実際トキはちゃんと仕事を片付けていた。この、“ちゃんと片付けている”というのが厄介極まりないのだ。計画的に宿題を進めようと、最終日に一気に片付けようと、ちゃんと宿題を片付けたという事実は両者ともに変わらない。いくら過程がデコボコだろうと、きちんと始末を付けている以上は、口調を強めることは出来ない。リリカは咄嗟に何かを言いかけたが、どこか不満そうにそのまま喉奥へ言葉を押し込んだ。


「というかリリカちゃん、さっきから顔が硬いよ。今はオフの時間なんだから、ゆっくり羽を伸ばさないと」

「別に来たくて来たわけじゃありません。トキ様を見張るよう言われているので同行しているだけです」

「まぁまぁ肩ひじ張らずに。せっかく駄菓子屋来たんだから駄菓子買ってきなよ」

「結構です。トキ様はオフでも、リリカは見張りの仕事中なんですから」


 そうは言うものの、リリカの視線は先ほどからずっとキョロキョロ動いていた。もちろんその仕草をトキが見逃すはずがない。口では「結構です」などと言いつつも、心の中では駄菓子を食したい気持ちでいっぱいなのだと推察。もしくは、商品のラインナップが豊富すぎてどれを食べるか迷っているかのどちらか――。


(……いや、これは“両方”かな)


 名探偵トキの推理が冴えわたる。リリカの視線の動きは、駄菓子屋初心者のソレとまったくもって変わらない。仕方のないことだ。老舗の駄菓子屋は基本的に商品の入れ替えが行われず、逆に新商品の導入は積極的に行われる。結果、古今東西ありとあらゆる駄菓子が狭い店内に所狭しと陳列されることになる。この雑多さは新参者には少々きついものがあるが、じきにそれも慣れるだろう。むしろこの雑多さが心地良くなる瞬間がいずれ訪れるようになるのだ。


(さてさて。リリカちゃんはやっぱり、しょっぱいものより甘いものの方が好きそうだよね)


 名探偵トキの推理パート2。手元に取り出したるはピラミッド型の小袋。中に入っているのはもちろん――甘納豆だ。


「……甘納豆? すみません、納豆は苦手なんです」

「いやいやリリカちゃん、これは普通の納豆とは全然違うから。というか……いつリリカちゃんにあげるって言った?」

「え?」


 差し出したからくれるのかと思いきや、トキは手を引っ込めたではないか。そして開封し、そのまま口の中へ一気に放り込んでしまう。あまりに小慣れた手つきに、リリカは茫然と見ているしかなかった。


「久々に食べたけどやっぱり美味しいね。昔ながらの甘さが身に染みる~! どれもう一袋っと」

「トキ様ばっかりズルいです! リリカにもください!」

「いいけど、ちゃんと自腹だからね」

「分かってます!」


 目の前で美味しそうに食べられては、さすがのリリカも黙ってはいられなかった。すぐさま甘納豆を購入し、夢中で食べ進めるリリカであった。


「気に入ってくれると思ったよ。甘納豆は美味しいけど、良い感じに飽きが来るから罪悪感もないよね」

「…………」

「リリカちゃん? おーい、リリカちゃーん」

「…………」


 リリカの手は止まらない。まさに千切っては食べ、千切っては食べの繰り返しだった。甘納豆への飽きは、しばらく来なさそうだ。そんな光景を前にし、トキは一人ほくそ笑む。


(……堕ちたな)


 これからはもっと気軽に駄菓子屋に来られそう。すべてはトキの計画通りだったのかもしれない。

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