うめぇ棒
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。客は数人の小さな子供と、一人の大きな成人女性。子供客の方は自分のお小遣いと相談しながら慎重に商品選びをしている一方、大きなお友達の方は自身の財力を見せつけるかのように、沢山の商品をかごの中に放り込んでいた。
「そんなに買ったんだし奢ってくれるのかって? ノンノン。これはぜーんぶ、おねえさんが食べるために買ったのさ。なんたっておねえさんはリッパな大人。キミたちのようなお子様と違って一日80円までなんてルールはないんだよハハッ」
黒髪碧眼に、だらしなく羽織った濃紺色の着流し。この大人げなさ極まる大人買いをした成人女性の名はトキと言い、奇跡の力を有する聖女の家系に生まれた正真正銘の聖女である、一応。周りの子供たちの白い視線を浴びながら、誰もが敬う聖女のトキはココア味のシガレットを口に咥えた。
「おや。キミはこの前隣町から引っ越してきたっていうキッズじゃないか」
シガレットの箱が空になるのと同時、駄菓子屋にまた新たな客が入ってきた。その少年にとっては慣れない場所であるためか、他の子供たちとは違って顔に緊張の色が見え隠れしている。
「先日ぶりだね。この町には慣れたかい?」
トキの問いに、少年は遠慮気味に首を縦に振る。どうやらまだ完全には慣れていない様子。
「まあそのうち慣れるはずさ。……え、どうしていつもここにいるのかって? そりゃここはおねえさんの縄張りだからね。縄張りには縄張り主がいて当然だろう? あ、もしかしておねえさんがプー太郎とでも思ったのかな?」
トキは少年と同じ目線になるまで屈み、無表情のまま凄まじい重圧を与える。その重圧に屈した少年は、首をブンブンと横に振った。
「そうだね。おねえさんが聖女なのは一般常識だよね」
少年は無言のまま頷く。頷きはしたものの、その目にはまだ疑いの余念が残っていた。
「聖女なら聖女らしいことをしてみてほしいって? 別にいいけど、おねえさんの奇跡の力は無料というわけにはいかないよ。当然じゃないか、素晴らしい物にはそれ相応の対価を払って然るべきなのさ。そう、このうめえ棒プレミアムのようにね」
バリッ、サクサクサクサク……。
トキは豪快にうめえ棒プレミアムに噛り付き、大人と子供の力の差を見せつけていた。大人なのに大人げない、という陰口が聞こえたような気がするが、プレミアムな食感の前には些末な問題だった。この優越感という味は、この場所このお菓子でしか味わえない、最高にして唯一の味なのである。
「疑うのは別に構わないさ。キミがいくら疑ったところで、おねえさんが聖女である事実は揺るがないからねー」
するとその時だった。駄菓子屋の入口に、また新たな誰かが現れた。物凄い慌てようで、トキの姿を視界にとらえるや否や、鬼のような形相となって近づいていく。
「トキ様! やっぱりここにいたんですね! まだ残ってる仕事がいくつあると思ってるんです! さあ、早く帰ってやりますよ!」
彼女の正体はトキの後輩、新米修道士のリリカだった。新米とは思えぬ慣れた手つきでトキの手首を引っ掴み、駄菓子屋の外へと連れ出していく。その去り際、トキは少年の方を向いて一言。
「……ねっ?」
聖女って大変なんだなぁ。少年はそんなことを思いつつ、買ったばかりのチョコバットを頬張った。




