人の心ない新商品
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。リリカから謎の招待を受けたトキは、奥の座席にて静かに待っていた。いつもは和やかな雰囲気の店内が、謎の緊張感に包まれている。ほどなくして、リリカが何かを持って奥の座席へやってきた。
「お待たせしました~。今日トキ様をお呼びしたのはですね、リリカが考えたスイーツの試食をしてほしかったからなんです。もし評判が良ければこの駄菓子屋さんでも商品として出してくれるんですって!」
そう言ってリリカは、テーブルの上にカップ状の物を置いた。中身はソフトクリームだが、全体に見覚えのあるお菓子が散りばめられている。具体的に言うならば、キノコとタケノコの形をしたお菓子。よく戦争が起きてることでお馴染みのお菓子だ。
「名付けて、リリカフルーリーwithキノコ&タケノコって感じですかね!」
「……は?」
トキは戦慄を覚えた。普段から接しているはずの後輩から、まさかこんなにも恐ろしいアイディアが出てくるとは夢にも思うまい。
過去数回の投票戦争を経て、現在は和平が結ばれている両陣営ではあるが、火種は今もなお燻り続けている。薄氷の如き上っ面だけの和平であることは、誰も口にはしないが薄々心の中では思っていることだ。
決して相容れない二つの存在が、純白の氷菓を媒介にして混ざり合っている。
さすがにグロテスクだと言わざるを得ない光景だった。
「てかさー、何なのフルーリーって。ソフトクリームと何が違うの?」
「お洒落さが違います!」
「はぁ。洒落くさいのぅ」
トキは古式ゆかしい正統派の聖女である。ズボンのことをパンツと呼ぶのは紛らわしいから止めろ委員会の会長も兼任しているのは有名な話。
「とりあえず食べてみてくださいよ。相性は絶対にいいはずですから!」
「そうだね。とりあえずキノコ抜きで」
「もう! どうしてそんなこと言うんですか!」
「だって不純物が入ってるんだもん」
そしてこの通り、過激なタケノコ信仰者でもある。過激であることを自覚していない、一番厄介なタイプの過激派である。
「いやぁー別にね、キノコが混入しててもいいんだよ別にね。けどさ、どうせ食べるなら一番おいしい状態で食べたいというのが人の情ってやつじゃん。そのためにはキノコが邪魔だと思っただけだよ」
「はぁ、分かりましたよ。リリカの負けでいいです。正直トキ様の過激さを舐めてました。界隈で一番過激な方の考えが変わってくれれば……と思ったのですが、余計に火に油を注ぐ形になってしまいました」
「そうだね。我々は一生分かり合えない。けどそれでいいんだよ」
「よくありません! リリカが終戦へ導いてみせます!」
するとリリカはカップを取り上げ、中のキノコタケノコを別の容器へ移した。何をするのかと思ったら、すりこぎ棒を取り出し、すり潰し始めてしまったではないか!
不意を突かれたことで止める隙は与えられなかった。
リリカの棒捌きは実に見事なもので、ゴリゴリ、ゴリゴリ……と最低のハーモニーを奏でながら、キノコとタケノコは仲良く粉砕された。
「え、えーっと、リリカちゃん? その粉々に砕いたやつ、いったいどうするつもり?」
「もちろんフルーリーにかけるんです。ほら見てくださいよ、もうどっちがどっちか分からなくなりました。ザクザク食感が楽しめそうですねー!」
リリカは再度、笑顔でカップを差し出してきた。見事だ。見事にキノコとタケノコが砕け散り、混ざり合っている。真の和平が、こんな小さなカップの中で結ばれていたのだ。
その時トキは、頬に一粒の熱い水滴が流れているのを感じた。
これはきっと感動の涙に違いない。
決して恐怖の涙などではないだろう、決して。
「美味しい……! 美味しいよぉリリカちゃん……!」
混乱した状況に一石を投じ、無理やり物語を収束させる神、デウスエクスマキナ。満足そうに笑顔を浮かべるリリカの姿は、まさにデウスエクスマキナそのものだった。




