最近の神社がハイテク
ここは帝都の下町にある由緒正しい神社。トキとリリカがお参りにやってきたのは、季節外れの暑さが続くある日の事だった。
「リリカちゃんリリカちゃん、私喉乾いちゃったよ。手水舎の水って飲んでもいいのかな」
「もー、トキ様また子供たちから本当に聖女なのか疑われちゃいますよ。ここのお水は飲むための物じゃなくて、身を清めるためにあるんですからね?」
トキは「分かってるよ~」とボヤいた後、道なりに沿って本殿の方へ向かう。正面口には賽銭箱が置かれており、いつものように賽銭を投げ入れようとしたところ、いつもと何かが違っていることに気が付いた。
「あれ? 今は賽銭受け付けてないんだって。それでどうやっておまんま食べてくつもりなのかなこの神社は」
賽銭箱に封をするかのように、注意書きが書かれた紙が貼られている。なのでトキは即座に小銭を財布へと仕舞いこんだ。
「おまんまはともかく、どこかで聞いたことがあります。最近の神社は賽銭の受付を取り止めているところが出てきている、と」
新米とはいえ信心深い修道士のリリカは、興味深そうに賽銭箱やその周囲を見回している。
「なんでぇー? お賽銭欲しくないの?」
「理由は主に二つあります。一つはお賽銭で賽銭箱が痛んでしまうから。そしてもう一つが、銀行に預ける時の手数料ですね。主にこっちの方が深刻で、硬貨の預金するときの手数料って金額じゃなくて枚数で決まるんですよ。具体的に言うと100枚で500円とか。だから一円玉ばっかり賽銭されちゃうと逆に損することになっちゃうわけです」
「へ、へぇ……リリカちゃんなんでそんなに詳しいの?」
「詳しいも何も、神職に仕えるならば一般常識ではないですか。トキ様も当然知ってますよね?」
「…ソ、ソウダネー」
リリカに一瞬疑いの眼差しを向けられたが、なんとかやり過ごせたようだ。危ない危ない。危うく聖女としての品格をガクッと落としてしまうところだった。
……いや、まあ、当然の常識として知ってはいたが。
知ってはいたが、思い出すのに時間がかかっただけだ。
「どうしたんですかトキ様、なんか謎の言い訳をかましてる雰囲気でしたけど」
「いやいや、リリカちゃんは流石だなーと思ってただけだよ」
「えへへ。もっと褒めてくれてもいいんですよ~?」
「よっ、博識! ……それはそうとどうやって賽銭すればいいんだろう」
「こちらのQRコードで決済していただければ」
「きゅーあーるこーど」
「もしくはあちらの自動販売機で賽銭専用のコインを購入すればよいかと」
「自販機……まぁそっちでいいか」
トキにはQRコードとやらの使い方が分からぬ。ゆえに「そっちでいいか」ではなく「そっちしか」なかった。改めて財布を取り出し、小銭を取り出してみると、また新たな問題が発生してしまった。自販機に並ぶコインの価格は、最低1000円からのスタートだった。トキは財布から取り出した小銭を、静かに元に戻した。
「ふっ、この程度で勝った気になられちゃ困るよ」
「……? なんの勝負ですか?」
「強いて言うなら、世の中にはびこる理不尽との戦いかな」
「さすがトキ様です! 常に世の中を良くするために戦ってるんですね!」
そう言いながらリリカは、何の躊躇もなく一万円札を自販機の中へ差し込んだ。隣にいたトキは、いかにも「こいつマジか」とでも言いたげに顔を歪ませていた。出てきたコインは、ご丁寧に立派なケースに包まれている。
「ほら見てください、すごく精巧な造りのコインですよ。このまま賽銭箱に投げ込むもよし、記念品として持ち帰るもよし、ですって」
出てきたコインは、ご丁寧に立派なケースに包まれている。
「さすがは一万円も使っただけあるねぇ。もちろん持ち帰るんでしょ?」
「いえ、お賽銭ですから。賽銭箱にしっかり納めさせていただきます!」
「お、おお……」
終始圧倒されっぱなしのトキ。神社のハイテク具合にも困惑していたが、それ以上に困惑させられたのは……恐怖は身近に潜んでいる、とでも言っておこう。




