最近の童話がヌルい
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。おもな客層が小さな子供なだけあって、ほんの数冊ではあるが童話の絵本も商品として置かれていたりする。今日も来ていたトキは、その絵本たちを興味深そうに眺めていた。
「へぇー、懐かしいね。私もキッズだった頃にいっぱい読み聞かせてもらったよ。どれどれ久しぶりに……ん、さるかにばなし? さるかにがっせん、じゃなくて?」
トキは強烈な違和感を感じていた。自分の中の記憶と、目の前にある本との違いで軽いパニックを起こしているのだ。
しかも中身も大幅に変わっており、柿をぶつけられて死んだはずの親がにが生きていたり、オチもさるとかにが仲良く柿を食べてハッピーエンドになっていたり。
トキは本を閉じた後、しばらくの間肩をプルプルと震わせていた。
「こ……こんなことが許されていいのか!? こんなの原作改悪だろう!?」
怒りに身を任せ、店主のおばちゃんへ抗議。当然のごとく「知らんがな」と一蹴されていた。
もちろんこの程度でトキの怒りが収まるわけがなく、その辺にいた子供客を捕まえて持論を展開していた。
「おねえさんはね、正直言うとこんなヌルい話にはされてほしくなかったよ。一部の大人はキッズには展開が重すぎるって判断したのかもだけど、正直その大人たちはキッズのことを舐めてるね。子供向けと子供騙しは全く違うっていう、どっかの編集長の言葉を煎じて飲ませてやりたいよ。くどくど、くどくど……」
トキの愚痴は収まることを知らない。喋れば喋るほど、全身から闇が滲み出ている。
「あれ? トキ様じゃないですか。もしかして絵本にも興味が出たのですか?」
トキの熱い演説が続く中、店の外からリリカが姿を現した。
「確かに興味はあるよ。怒りという名の興味がね」
「なるほどぉ。確かに時代の流れで物語が変わっちゃうこともありますよね。たとえばこれ、私物の初版シンデレラなんですけど……今出回ってるものとはだいぶテイストが違ってるんです」
「へぇー……読ませてもらってもいい?」
「もちろんです!」
さっそくシンデレラの絵本を読み始めるトキ。異変はすぐに訪れた。たったの数ページめくっただけで、トキの表情が歪み始めた。ただ物語が改変されただけでは済まないような、酷い苦悶の表情を浮かべているのだ。
「えっ……これCERO指定しなくて大丈夫なの? あ、元々子供向け……ふ、ふーん……」
まさかシンデレラを虐める姉たちが、サイズの合わないガラスの靴を履くために自ら足を削ってしまうとはとても思うまい。次第にトキにも限界が来てしまい、半分も読むことなく絵本を閉じてしまった。
「ありがとう。うん、その……いい経験が出来たよ」
「トキ様もこれでお判りいただけましたよね?」
「うん。やっぱり絵本はキッズが読むものだから、少し手を加えるのも仕方ないかな」
「え?」
「え?」
トキとリリカは、互いに顔を見合わせた。何か深刻なヒューマンエラーが発生した雰囲気を醸し出している。沈黙がしばしの間続いた。先にしびれを切らしたのは、トキだった。
「あのー、ちょっと確認したいんだけど。物語によっては少々エグイのもあるから、改変も仕方ないよねってことでシンデレラを見せてくれたんだよね?」
「あはは、そんなまさか! 完成された物語に手を加える愚かさを判って欲しくて見せたんです!」
「え?」
「え?」
「ん?」
「あれ?」
「「あれれぇ~?」」
トキは、リリカから少しずつ距離を取り始めていた。




