もんじゃ
ここは帝都の下町にある老舗駄菓子屋。奥の座席はオセロの対戦台ではなく、もんじゃを焼くのが本来の使い方であることを知る者は少ない。
「えー、リリカちゃん今日はオセロしてくれないの? ……それよりももんじゃ焼きが食べてみたいって?」
「はい! リリカ、ずっと前から気になってたんです!」
「じゃせっかくだし、いっしょにやってみよっか。おばちゃーん、もんじゃ二人前ー」
トキが言うと、おばちゃんはすぐに材料を持ってきてくれた。しかも紙エプロンまで用意してくれて、気分は格式高いレストランのディナー客。中央にドスンと置かれたホットプレートの熱も帯びてきたところで、もんじゃの材料が投入された。とはいえリリカは何も分からないので、とりあえず渡されたヘラで突いてみた。
「あー駄目だよリリカちゃん、土手が壊れちゃう」
「土手?」
何のことか聞いてみたら、出汁を流し込むための土台のことだった。ドーナッツみたいな形に焼いていたのはそのためだったのか、とリリカは納得。
「よし、そろそろ出汁投入だね」
二人分の出汁が、具材で作られた土手の真ん中に注がれる。ジュジュジュ、と焦げる音。いい匂い。白い湯気が天井まで立ち昇っている。しばらくすると、流し込んだ出汁もぐつぐつと音を立て始めた。
「ここからが勝負だよリリカちゃん。さぁ両手にヘラ持って。ひたすら叩きまくって」
「はい! 叩きまくります!」
ヘラを逆手に持ち、左右交互に振り下ろして具材を叩きまくる。プレートの上の具材はもはや原型を留めておらず、カラフルというよりマーブルな感じになってくる。マーブル……なんか、アレみたいだ。
「リリカちゃん、よからぬ想像してるでしょ」
「いえ、決して、そんなことは!」
リリカは慌てて首を横に振った。これから食事をしようというのに、そんな想像をするわけがない。仮に想像したとしてもほんのちょっぴりだけだ。
「いいんだよいいんだよ。私だって毎回おんなじこと思ってるからさ」
「トキ様が思ってても、リリカは決して思ってませんから!」
などと言っているうちにもんじゃが焼き上がった。リリカはトキに倣い、ヘラでもんじゃを切り取って口に運ぶ。
「……熱い!」
「無理しちゃ駄目だよ、リリカちゃんはビギナーなんだから。お皿とお箸もらってきてあげる」
「あ、あひがとうございまふ……」
やはりダイレクトはまだ早かった。リリカ素直に皿と箸を受け取り、改めてもんじゃを頂く。
うっ、今まで食べたことのない味!
でも美味い!
気づけば夢中で食べ進めていた。
熱にも慣れてきたので熱々のまま食べてみると、これまたさらに美味い。
完食まではあっという間だった。
「いやぁ美味しかったねー。また今度いっしょに食べようね、リリカちゃん」
「もちろんご一緒させてください!」
トキたちは大満足で駄菓子屋を後にし、大教会へ帰還。口の中にまだもんじゃ焼きの余韻が残っている中、教会の同僚が申し訳なさそうに二人に言った。
「あの~、もしかしてさっきまでもんじゃ食べてました?」
「よく分かったね。もしかして匂いが付いてた?」
「いえ、お二人とも紙エプロンを付けたままなので……」
「「……あ」」
つまり、駄菓子屋から大教会まで、ずっと紙エプロンを付けたまま歩いていたことになる。いったいどれだけの通行人に目撃されたことか。二人はよそよそしく紙エプロンを外すのだった。




