表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰の王は赦されない  作者: 星喰ゆう
第12章 過去への道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/103

第95話 四つ足の失敗作

 黒い影は、雨の向こうでじわじわと数を増やしていた。


 林の手前で止まる気配はない。

 四つ足に近い。

 だが獣のように低く美しくはない。

 脚の曲がり方も、頭の位置も、どこか途中で壊れた人形みたいに歪んでいる。


 アシュは剣を握り直した。


 身体は重い。

 肩も脇腹も、いま動かすなと言わんばかりに軋んでいる。

 それでも前へ出るしかない。


 ルゥがはっきりと唸った。

 白い毛が逆立っている。


「来るぞ」


 ノアが低く言う。


 次の瞬間、先頭の影が雨を蹴って飛び込んできた。


 アシュは正面から振り下ろさず、横へ流すように刃を振った。

 斬撃が影の首元を裂く。


 黒い液が散る。

 異形はそのまま地面を滑り、半ば転がるように体勢を立て直した。


「まだ動くのかよ」


 ガルドが吐き捨てる。


 左から二体目。

 ノアが短く息を吐き、地面へ掌をかざす。

 湿った土がわずかに盛り上がり、足を取られた異形の身体が傾く。


 そこへガルドの短剣が飛んだ。

 喉元へ突き刺さる。

 異形は潰れた声を漏らして倒れ、そのまま痙攣した。


 フィアナがルゥのすぐ後ろで息を呑む。


「これ……教会の」


「ああ」


 アシュが短く答える。


 言葉にするまでもない。

 教会本部の奥で見たものと、どこか同じ匂いがする。


 三体目が木の幹を蹴って飛ぶ。

 今度はフィアナへ真っ直ぐ。


「下がれ!」


 アシュが叫ぶより早く、ルゥが横からぶつかった。

 白い影と黒い影が泥の上で絡み合う。

 異形の爪がルゥの肩を掠め、白い毛が散る。


 フィアナの顔が強張る。


「ルゥ!」


 ルゥはすぐ立ち上がり、低く唸った。

 傷は浅い。

 だが次はない。


 アシュは踏み込んだ。

 距離を詰め、ルゥの頭越しに剣を振り下ろす。

 異形の背骨に刃が食い込み、そのまま地へ叩きつけた。


 嫌な手応えだった。


 骨というより、湿った木材を断つみたいな感触。

 人でも獣でもない。


「くそ。数が多いな」


 ノアが言う。


 たしかに多い。

 それに何かに追い立てられるみたいに、こっちへ押し出されている。


 ガルドが短剣を引き抜きながら言う。


「誰かが後ろにいるな」


 アシュも同じことを考えていた。


 今のこいつらは、放たれた猟犬みたいな気配がある。


 さらに二体。

 今度は同時だった。


 アシュは一体目の腕を斬り飛ばし、その勢いのまま身体を捻って二体目の顎を蹴り上げる。

 脇腹が痛む。

 視界が揺れる。

 だが止まれば終わる。


「アシュさん!」


 フィアナの声が飛ぶ。


「平気だ!」


 その言い合いの間に、横から細い影が這い寄ってきた。


 ノアが舌打ちする。


「下だ!」


 アシュが気づいた時には、そいつはフィアナの足元へ食いつこうとしていた。


 ルゥがまた先に動く。

 爪で払い飛ばす。

 だが、その黒い影は空中で妙にしなやかに身体を折り、今度はルゥの喉元へ向きを変えた。


 そこへフィアナの手が伸びる。


「止まって!」


 声と同時に、淡い光が走る。


 異形の動きが目に見えて鈍る。


 アシュはそこを逃さず斬り伏せた。


 黒い液が飛び散り、土へ沈む。


 フィアナの肩がわずかに揺れる。


「今のは助かった」


 アシュが短く言うと、フィアナは小さく唇を結んだ。


「……わたしも力になれます」


 それは自分へ言い聞かせる声でもあった。


 異形はなおも来る。


 休ませる気がない。


 ガルドが木の幹を蹴って位置を変え、上から異形の後頭へ短剣を突き立てる。


「ちっ、キリがねえな!」


 アシュは一体を切り捨てながら、雨の奥を見る。


 黒い影のさらに向こう。

 林の縁。

 そこに、人の輪郭が立っていた。


 雨を受けても動かない立ち姿。


 距離はある。

 顔はまだ見えない。

 だが、今までの異形とは明らかに違う。


「あいつか」


 アシュが低く言う。


 ガルドもノアも、その視線を追った。


「……あれか」


 ガルドの声が沈む。


 人影は一歩だけ前へ出る。

 それだけで、残っていた異形たちの動きがわずかに変わった。

 より前へ。

 よりこちらへ。


 ノアが短く吐き捨てる。


「やっぱり操ってる」


 フィアナの表情が硬くなる。

 ルゥはもう完全に毛を逆立てていた。


 アシュは剣先を下げない。


 人影はさらに一歩、雨の中へ出た。


 まだ顔は見えない。


「どうする」


 ガルドが訊く。


「このままこいつらを削っても、向こうが親玉なら面倒だぞ」


「分かってる」


 アシュが答える。


 問題は、自分の身体だった。

 異形相手なら、まだどうにかなる。


 それでも、ここで引くことはもうできない。


 人影が、ようやく口を開いた。


「まさかここまで切り抜けるとは思っていなかった」


 静かな声だった。

 高くも低くもない。

 感情の熱がほとんどない。


「だが、ここまでだ」


 その一言で、林の空気がさらに冷えた。


 アシュはゆっくり息を吐く。


「てめえは……」


 雨の向こうの人影がようやくはっきり見えてきた。


 その立ち方だけで、普通の兵士ではないとわかった。

第95話でした。


今回は、ついに追いつかれて、謎の人物と接敵しました。


少しでも続きが気になったら、

ブックマークや評価、感想などいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ