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灰の王は赦されない  作者: 星喰ゆう
第8章 外れの森で

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第66話 西外れの森

 ガルドとノアが戻ってきた時には、外のざわめきはさらに濃くなっていた。


 扉を開けるなり、ガルドが持っていた包みを机へ放る。


「食いもんは確保したぞ」


 言ってから、部屋の空気に気づいたのだろう。

 アシュとフィアナの顔を見て、すぐ眉を寄せた。


「何だ。また嫌な話か」


 アシュが紙切れを机の上へ置く。

 ノアはそれを開き、ひと通り目を通してからガルドへ回した。


 ガルドは露骨に嫌そうな顔をした。


「一人で来い、ってなに様だよ」


「知らねえよ」


 アシュが返す。


「そこが怪しいって話だろ」


 ノアが紙切れを机へ戻す。


 フィアナは机の横に立ったまま言った。


「レオフさんの言葉に見えなくもないです」


 アシュも頷く。


「灰刻のことかもしれねえ。王都の記録のことかもしれねえ。あいつが俺個人に話したいことがある可能性もある」


 ガルドが腕を組む。


「でも運んできたのは別のガキなんだろ」


「そこが引っかかる」


 ノアが短く言った。


「文そのものより、渡し方に違和感がある」


 アシュは椅子へもたれたまま、低く息を吐いた。


 レオフなら、もっと伝え方も整える気もする。

 だが、今の王都でそこまで余裕があるとも限らない。


「で、どうすんだ」


 ガルドが言う。


「行くのか、行かねえのか」


 アシュは少しだけ黙ってから答えた。


「行く」


 フィアナの指先がわずかに強ばる。


「でも今すぐじゃねえ。日が落ちる前だ」


 ノアが頷く。


「その方がいい。今の王都で昼に出歩くのは目立つ」


「一人で?」


 フィアナが訊く。


「そうする」


「危ないです」


「分かってる」


「分かってるなら」


「全員で行ったら目立つだろう」


 フィアナは言葉を切った。


 反論したいのに、理屈では押し切れない顔だった。


 ルゥが床に伏せたまま、低く喉を鳴らす。


 アシュがそちらを見る。


「なんだ。お前も文句あんのか」


 ルゥは耳を伏せただけだった。


 肯定に見えるのが腹立たしい。


 ガルドが壁にもたれて言う。


「じゃあ俺たちはここで飯でも食いながら待ってるぞ」


「ああ」


「冷める前に戻って来いよ」


「それはレオフ次第だろ」


「違いねえ」


 ガルドが鼻で笑う。


 ノアは窓の外を見た。


「出るなら今から少し休め。そんなヘロヘロじゃ目立つ」


「うるせえ」


 返した声に張りがない。


 それを聞いて、フィアナが口を開いた。


「少しだけでも横になってください」


「お前まで言うのか」


「言います」


 その返事がまっすぐで、アシュは小さく鼻を鳴らした。


 結局、出るまでのあいだは目を閉じて過ごすことになった。


 眠れたわけじゃない。

 けれど、じっとしていれば痛みの波が少しだけ浅くなる瞬間はあった。


 その間にも、外の王都は静かにざわつき続けていた。


 席持ちが一人死んだ。

 旧祈祷院地下が壊れた。

 何事もないふりをするには、事が大きすぎる。



 日が傾く頃、アシュはゆっくり立ち上がった。


 肩は重い。

 背中も痛む。

 それでも、だいぶましになってきた。


 上着を羽織る。

 剣を確かめる。

 それだけの動作にも、まだ少し鈍さが残る。


 フィアナがすぐ近くへ来た。


「本当に、一人で行くんですね」


「ああ」


 短く返す。


「絶対、無茶はしないでください」


「努力はする」


「それ、信用できません」


「知ってる」


 フィアナは唇を結んだまま、しばらくアシュを見ていた。


 止めたいのだろう。

 でも、今はそれ以上言わなかった。


 代わりに小さく言う。


「帰ってきてください」


 アシュは少しだけ目を細めた。


「そのつもりだ」


 ルゥはついてこようとしていたが、フィアナが呼ぶと止まった。

 不満そうに低く鳴く。


「お前はそっちだ」


 アシュが言う。


「フィアナを任せたぞ」


 ルゥは耳を伏せ、それでも最後まで視線を外さなかった。


 扉を開ける。


 夕方の王都は、昼より静かで、緊張していた。


 店じまいの早い通り。

 角ごとに立つ兵。

 歩く白衣。

 人はいるのに、誰も長く立ち止まらない。


 アシュは人の流れに混じって西へ向かう。


 外れに行くほど建物は低くなる。

 石畳は荒れる。

 道も細くなる。


 ざわめきは少しずつ遠ざかっていく。

 けれど、消えはしない。

 王都の中心で何かが動き始めている気配だけは、背中側にずっと残っていた。


 紙切れに書かれていたのは、西外れの森。


 王都の外へ半歩出たような場所だ。

 レオフが人目を避けるなら、たしかに選びそうではある。


 だが、そこがまた気に入らない。


「本当にお前なのか」


 誰にともなく呟いた。


 返事はない。


 森の入口が見えてくる。


 木々はまだ夕方の色を残しているが、その奥はもう薄暗い。

 風は弱い。

 湿った土の匂いがする。


 アシュは足を止めず、そのまま中へ入った。


 鳥の声は少ない。

 静かすぎる。


 こういう静けさは嫌いだった。

 何もいない静けさじゃない。

 何かが先に待っている時の静けさだ。


 しばらく進むと、木々の密度が少し薄くなった。


 アシュはそこで足を止める。


「このあたりだと思うが」


 低く言う。


 返事はない。


 だが、気配はあった。


 隠す気のない立ち方だった。

 見つかることまで込みで、そこに立っている。


 影が動く。


 夕方の薄明かりの中から現れた男を見て、アシュの目が細くなる。


「よう。ひさしぶりだな」


 アシュは短く息を止めた。


「……なんで、お前が」

第66話でした。


森の中を1人で進み、待ち合わせ場所に到着したアシュ。

影から現れたのは、一体誰なのか。


少しでも続きが気になったら、

ブックマークや評価、感想などいただけると嬉しいです。

次話もよろしくお願いします。

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