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灰の王は赦されない  作者: 星喰ゆう
第8章 外れの森で

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第65話 手紙の違和感

 紙切れを折りたたんだあとも、アシュはしばらく黙っていた。


 外ではまだ王都のざわめきが続いている。

 鐘や兵の声。

 この狭い空き家の中だけが、静かだった。


 フィアナは机の横に立ったまま、アシュの顔を見る。


「……どうしますか」


 アシュはすぐには答えなかった。


 指先で紙切れの端をなぞる。

 短い文だ。

 余計なことは何も書いていない。

 それが逆に、レオフらしくも見える。


 だが、引っかかる。


「一人で来い、か」


 低く言う。


「何でわざわざそう書くんだ」


 フィアナが小さく息を吐く。


「私もそこが気になります」


 アシュは椅子にもたれたまま、天井を見た。


 レオフが本当に何か話したいなら、相手を絞ること自体は不自然じゃない。

 ノアやガルドがいたら話しにくいこともある。

 灰刻のこと。

 王都の記録のこと。

 フィアナのこと。


 そういう可能性は、たしかにある。


「灰刻関連かもしれねえ」


 アシュが言う。


「あるいは、俺個人の話か」


 フィアナは少しだけ眉を寄せた。


「でも、違和感があります」


「何がだ」


「いつもの子じゃなかったです」


 フィアナは紙切れを見る。


「それに、あの子、黒い上着の人って言いました。いつもの子なら、あんな言い方はしない気がします」


 たしかにそうだった。


 あのぶっきらぼうな下働きの少年なら、もっと雑に済ませる。

 わざわざ黒い上着の人なんて言い方はしないだろう。


 アシュは小さく鼻を鳴らした。


「雑なんだよな」


「はい」


「でも、いつもと違うから偽物だ。とも言い切れない」


 フィアナは言い返さなかった。

 そこも分かっているのだろう。


 王都は今、少しずつ騒がしくなっている。

 旧祈祷院地下で席持ちが死んだ。

 レオフだって、いつも通りの部下を使いづらいはずだ。


 だから、別の子供を使った。

 そう言われれば、一応は通る。


 ルゥが床に伏せたまま、低く喉を鳴らした。


 アシュが目を向ける。


「お前もなにか感じるのか」


 ルゥは耳を伏せる。

 肯定なのか、ただ気に入らないだけなのかは分からない。

 でも、嫌がっているのは確かだった。


 フィアナがそっと訊く。


「行くんですか」


 アシュは紙切れをもう一度開いた。


 一人で来てくれ。

 今なら、まだ間に合う。


 まだ間に合う。

 これは緊急の要件なのか。


 それとも。


「……すぐには決めねえ」


 アシュが言う。


 フィアナが少しだけ目を上げる。


「ノアとガルドが戻ってから話す」


 それが今出せる、いちばんまともな答えだった。


 一人で行くにしても、フィアナだけをここには置いていけない。


 フィアナはようやく少しだけ息を抜いた。


「はい」


 アシュは紙切れを畳み、机の上へ置く。


 肩が痛むし背中も重い。

 灰刻の反動は薬で鈍らせても、消えたわけじゃない。


 だが、無視できる内容でもない。


「アシュさん」


「もし行くとしても、今夜はやめてください」


 フィアナの声は小さい。

 でも、はっきりしていた。


「今の状態で動くのは危ないです」


「分かってる」


「本当にですか」


「しつけーよ」


「アシュさんは、ほっといたらすぐに無茶するので」


 アシュは少しだけ口元を動かした。


 笑ったつもりはない。

 だが、フィアナは少しだけ安心したみたいに肩の力を抜いた。


 その時、外でまた鐘が鳴った。


 昼の王都は、昨日までよりずっと落ち着きがない。

 兵の動きも増えている。

 通りを走る荷車の音さえ、今日はどこか急いて聞こえた。


 アシュは窓の方へ目を向けた。


「騒ぎがでかくなる前に、向こうも何か動くかもしれねえ」


「教会ですか」


「それもある」


 そこで言葉を切る。


「……それ以外もな」


 フィアナはそれ以上は訊かなかった。

 訊けば、余計に嫌な答えが返ってきそうだったのだろう。


 しばらくして、ようやく外に別の足音が近づいてきた。


 今度の足取りは知っている。


 ガルドだ。


 続いて、少し間を置いてノアの足音も重なる。


 フィアナが扉へ向かう。


 アシュは机の上の紙切れを見たまま、低く息を吐いた。


 まだ名前は見えていない。

 けれど、嫌な感じだけは薄くならない。


 それでも今は、そういうものごと抱えて進むしかなかった。

第65話でした。


不穏な手紙が届いたところから、第8章スタートです。


少しでも続きが気になったら、

ブックマークや評価、感想などいただけると嬉しいです。


次話もよろしくお願いします。


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