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灰の王は赦されない  作者: 星喰ゆう
第7章 旧祈祷院地下

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第60話 西外れの空き家

 西外れの空き家は、通りから半歩引いた場所にあった。


 壁はところどころ剥がれ、窓枠も歪んでいる。

 人が住まなくなって長いのだろう。

 雨風だけはしのげる。


 今はそれで十分だった。


 アシュたちが中へ入ると、ガルドが先に扉を閉めた。

 ノアは窓の隙間を見て回り、外から灯りが漏れていないか確かめる。

 フィアナは真っ先に机代わりになりそうな板を見つけ、包みをそこへ置いた。


 ノアが見取り図を広げる。


「入るのは明日の夜だ」


 紙の端を押さえながら言う。


「旧祈祷院地下。西の納骨堂跡から下る」


 ガルドも机へ寄る。


「中は」


「地図が正確なら、そんなに広くはない」


 ノアが答えた。


「礼拝堂跡が一つ。その左右に通路。さらに奥へ続く道がある」


「白い箱があるのは」


「礼拝堂跡か、その奥だろう」


 フィアナが静かに息を吸う。


「……中に人がいるなら、助けたいです」


「でも、全員は救えないんですよね」


「今の俺たちじゃ全員は無理だ」


 アシュは続けた。


「それに、いま助けたとしても、しばらくしたら新しい箱が送られてくるだけだ」


 フィアナは少しだけ黙ってから、頷いた。


「……そうですよね」


 その返事に、ノアが小さく口を挟む。


「だから優先順位はいる」


「ああ」


 アシュも頷く。


 ガルドが腕を組んだ。


「じゃあ、優先は三つか」


「人、記録、出口」


 ノアが即座に言う。


「出口を確保できなければ、残り二つはどっちも持ち出せない」


 アシュは机の上の見取り図を見た。


 レオフの字は急いでいるくせに、正確に書き記してある。


 その時、ルゥが不意に立ち上がった。

 耳が立つ。

 扉の方を見る。


 全員の口が止まる。


 足音は軽い。

 兵士ではない。


 ガルドが手を弓へやりかけたところで、扉をノックする音。


「あの人から、持って行けって」


 下働きの少年の声だった。


 フィアナがアシュを見る。

 アシュは小さく頷く。


 扉を細く開けると、少年は袋を一つ差し出した。

 パンと、干し肉、それに小さな蝋燭が二本入っている。


「朝まで店は開かない」


 ぶっきらぼうに言う。


「あと伝言。明日の日が落ちる前に一回だけ様子を見に来る。来なかったら、そのまま西の納骨堂跡へ向かえ」


「わかった」


 ノアが返す。


 それだけ残して、暗い路地へ消えていった。


 扉が閉まる。


 ガルドが袋を覗き込んだ。


「意外といいやつじゃねえか。レオフは」


「そうでもないだろ」


 アシュが言う。


「これで明日も働けってことだ」


「嫌な言い方すんなよ」


 フィアナが小さく笑ってから、すぐに真面目な顔へ戻る。


 それから、ふと顔を上げた。


「アシュ」


「何だ」


「寝ろ」


 あまりに即答で、アシュは少しだけ眉を寄せた。


「なんで俺に言う」


「なんでって」


 ノアが平然と言う。


「お前が明日一番動く。今倒れられる方が困る」


 ガルドも珍しく頷いた。


「今回はノアに賛成だ。寝ろ」


「全員うるせえな」


 言いながらも、アシュの声にいつもの張りはなかった。


 フィアナが寝台の端を軽く払う。


「少しだけでも横になってください」


「お前は」


「私はあとでいいです」


「じゃあ先に眠らせてもらう。交代の時間になったら起こしてくれ」


 アシュは小さく息を吐き、ようやく立ち上がり、寝台へ腰を落とした。


 ルゥがすぐ横へ来て伏せる。


「お前もか」


 小さく言うと、今度は鳴きもしなかった。


 フィアナは机のそばへ戻り、見取り図をもう一度見た。

 ガルドは窓際。

 ノアは椅子へ座ったまま、紙片と図を重ねている。


 もう会話は少なかった。


 必要なことは話した。

 あとは明日の夜だ。


 アシュは薄く目を閉じる。


 休めるときは、休むしかない。

 だが、胸の奥だけは少しも休まらなかった。

第60話でした。


次は、

いよいよ納骨堂跡の入口から地下へ踏み込みます。


少しでも続きが気になったら、

ブックマークや評価、感想などいただけると嬉しいです。


次話もよろしくお願いします。

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