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カムサビ  作者: わゆ
【2章】禍津編
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それをわるもの 6

 ――止めんか、ガキ共。

 雪は雲に隠れ、風は空へ逃げて、陽は夜とへ化ける。


 損壊激しい鳥居の外側に人影――そばに居なくても分かる、理解させられる……声だけで、俺たち4人の動きが一斉にピタリと止められた。


「ハァ!?じ、ジジィ……」

「爺さん。邪魔しないで……」

 レフとライの声に反応は無い。

 

「あなたは……」

 アキの声にピクリと反応し、謎の人物は言葉を発する。

 

「ウチのバカ共が失礼した。ソラ……久しいな」

 落ち着いた低さに掠れた声、決して張り上げられたものではない。隣で囁き掛けるような穏やかさだった。しかし、その声は不思議なほどに鋭く、境内から距離があるにも関わらず、誰一人聞き漏らすことはなく響き渡っている。

 

「サエキさん……?」

 ――その声を、知っている。

 

 一人、また一人と、気付けば廃社を囲うように大柄の人影が増えていく。時間切れだ。

 

「ジジィ……テメェ……まだ終わってねェぞ、オイ!」

「再戦希望。まだやれる」

 

 二人の言葉には目をくれず、その人物はゆっくりとこちらへ近付いてくる。それまで場を支配していた怒号や熱気は、距離が詰まるにつれ活動を停止して凍り付く。

 

「ガキ共は元気だけが取り柄か、少し眠っとれ」

 小さく呟かれた詞――レフとライは電源を切られたかのように意識を切断され、ドガッ!と勢い良く地面へと倒れ込んだ。

 

「……俺たちにもやりますか?」

「ふんっ、客人には手は出さぬよ」

 

 俺とアキの前に立つ小柄の老人――年季の入った黒のスーツ上下で身を包み、枯れ木のように痩せ細っているのが服の上からでも分かる。それなのに……絶対的な存在感が全てを覆している。

 

「ソラと連れの者はワシに付いて来い。それと、ガキ共も運んでおけ」

 その言葉は絶対――逆らうことは叶わない。一見すれば脆そうだが、それはとんだ勘違い。彼の纏う気配は獣のそれ……死が目の前にある感覚。

 

 黒ずくめの男たちに、レフとライの二人は軽々と担がれ運ばれていく。

 

「分かりました」

 言われるがまま、俺たちも老人の後を追う。

 

 夜の帳が下り静寂を纏う。街灯も無く白のコートを着飾った田舎道は、俺たちを嘲笑うように妨害していた。それでも不思議だったのは、灯りが無くても進むべき道筋がハッキリと見えているようだったこと。


「ほら、座らんか」

 連れられたのは、廃社から程なくの場所にある公民館。歴史を感じさせる状態ではあったが、周囲は除雪が済んでおり、手入れが行き届いているのが分かる。館内も綺麗に整頓されていた。

 

「失礼します」

 座敷の最奥に一段高く設けられた上座に、老人はゆっくりと腰を下ろす。背後には古びた掛け軸と花瓶、それと唐櫃のような木製箱。質素な内装だが、畳も表替えしているのか状態が良く、客人をもてなす環境がありありと分かる。

 

 その手前には、二人用の長机と座布団がいくつか設けられており、俺とアキは上座に一番近い席へ移動する。

 

「改めてだが……久しいな、ソラよ」

「お久しぶりです、サエキさん」

 サエキさんが言葉を発するだけで、館内の空気が張り詰め緊張感を高めていく。

 

「……」

 俺とサエキさんのやり取りに困惑しているアキ。

 

「こちらこそ改めてになりますが、アキの治療ありがとうございます」

「あっ、ありがとうございます!」

 

「ふんっ、ガキ共と遊んでくれた礼じゃい」

 ここへ来る道中、アキに肩を貸してゆっくりと移動していると、「それじゃ時間がいくらあっても足らん。治れ」とサエキさんの一言。それだけで強大なムスビの束がアキを包み、数秒足らずで完治に至った。

 

「せっかくの客人だ……おい、酒」

 その言葉で景色が変わる。黒ずくめの大柄の男たちが座敷に突如出現し、慌しく動き出す。気付けば目の前に酒とつまみが用意されていた。

 

「まずは、乾杯としよう」

「「か、乾杯……」」

 

 俺たちは完全に呑まれている……連携の練度に呆気に取られたのもそうだが、サエキという人物の存在としての圧が、俺たちから自由を奪っているように感じた。

 

「それで、久方振りの来訪は……ガキのお守りという訳ではないのだろう?」

「はい」

 

「許す。言ってみよ」

 彼の許可を得なければ自由に話すことも叶わない。そんな気がした。

 

「ありがとうございます。今回訪問させてもらった理由は、この地で消息を絶った物忌(ものいみ)の調査です」

「続けよ」

 

「はい。突然の音信不通……理由は他殺であると、"上"から報告がありました」

「それで調査……ツミキの手配か?」

 

「ご明察です」

 空気が重い。気まずいとか安易な主観では言い表せない、ドスンとした質量を感じさせる圧。

 

「ほう。そいつは見つかったんか?」

「先程の廃社にて、対象者と思われる人間が倒れているのを発見しています」

 

「確認しとらんのか?」

「そのつもりでしたが……偶発的な"それ"の顕現、それに……レフとライの乱入もあり、まだ調査は済んでおりません」

 

「……」

 暫しの静寂。伝えた情報を推し量るようにじっくりと咀嚼しているのか、それとも別の意図を読んでいるのか。

 

「うむ。おい、ガキ共を連れて来い」

 鶴の一声――黒ずくめの集団が即座に行動を開始する。一分もかからず館内の玄関扉からガラガラと古びた開閉音が響く。

 

「ケッ……来てやったぞ、オイ!」

「理解不能。何故呼ばれた?」

 

 先の戦いの負傷部に包帯が巻かれ、当然だが着替えたのだろう、パリッと折り目の付いた綺麗な黒スーツに身を包んでいた。そのまま不貞腐れた仕草で、レフとライは館内の奥へと近寄る。

 

「お前らのせいで、客人が調査出来んかったそうだ」

「ハァ〜ア?知らねェよ、オイ!」

「意味不明」

 二人は俺とアキを見ながらあからさまな態度を取る。

 

「二度は言わんぞ」

 囁かれた言葉に、二人は思わず視線を逸らす。

 

「……」

「……」

 言葉は無い。ひたすら俺とアキを睨むだけ。

 

「お前らも座れ」

 サエキさんの指示に従い、俺たちが座っている右隣に設けられた席に渋々座り込んだ。

 

「ソラよ」

「はい」

 

「該当者はウチの者にここまで運ばせる。良いな?」

「えぇ、もちろんです。ありがとうございます」

 

「連れの者よ」

「あっ、は、はい!」

 急に話を振られて戸惑いを隠せないアキは、あたふたと居住まいを正しながら答える。

 

「名を申せ」

「は、はい!アキと言います!」

 

「アキか……ソラとバディを組んでいるんか?」

「そ、その通りです!」

 新卒者の企業面接のようだ……アキはサエキさんの質問にドギマギしながら回答している。

 

「いつからバディを組んでる?」

「えっと……2年ぐらい経ちます!」

 

「歳は?」

「20歳になりましゅ!」

 ……噛んだ。

 

「ケッ、おっさんじゃねェか、オイ!」

「ソラと一緒。老害老害」

 隣で胡座をかいている二人の茶々。

 

「ソラよ、お前はいくつになった?」

「25歳になります」

 

「で、あるか」

 穏やかさはあれど、冷んやりと低温を感じさせる視線をレフとライに移す。

 

「客人はお前らより年長だ、態度を改めよ」

「ケッ……!」

「……」

 思春期の孫を嗜める祖父の構図にしか見えない……

 

「えっ……!?」

 サエキさんたちのやり取りに、アキは驚いた表情のまま、俺の肩をツンツンと小突く。

 

「……(そ、ソラさん)」

「……(なんだ?)」

 

「……(彼らって結構若かったりします?)」

「……(あぁ、急展開ばかりで説明出来てなかったな、すまない。アイツらは……)」

 

「お前らは客人だ、そんな小声で話し合わなくても良い」

 俺たちのやり取りが気になったのか、サエキさんは俺の代わりにアキの疑問に答える。

 

「ガキ共は、お前さんの5年後輩じゃい」

「……ご、5年!って、ことは……!!」

 驚くアキ。

 

「ハッ、やっと分かったか、オイ!」

「無様。ようやく自身の無能さに気付いた」

 レフとライ――二人とも15歳のお年頃。

 

「あちゃー……確かに若そうには見えていましたが、そんな年下相手にムキになってしまいました……」

「気にするな。アイツらの態度が悪いのは確かだ、素性を知らなければ腹立ちもする」

 年齢差に愕然としながら、自身の行動に落胆するアキ。

 

「カカッ、大人げねェな、オイ!」

「無様」

 相変わらずな横からの悪態。

 

「ふん。アキよ」

「は、はい!」

 

「お前は確か、レフとやっとったな?」

「はい……」

 

「どうだった?」

 サエキさんの問い――第三者が感じる彼らの能力。

 

「……」

 アキは言葉に詰まっていた。それは、判断付かない訳ではなく、忖度や配慮の必要性について考えているのだろう。

 

「変なことは考えんでも良い。率直な感想を申せ」

「……分かりました。正直に言うと、レフは強かったです。戦術思考は少し粗さを感じましたが、戦闘能力は年齢差を考えても申し分無いと思います。実際、オレ……私も油断してあちこち負傷しましたから」

 アキの正直な言葉――サエキさんは静かに傾聴する。

 

「ハッ、テメェの負けだしなァ、オイ!」

「いえ、あのまま継続していたら余裕で逆転しています」

 レフの悪態に応じるアキ……案外、アキは煽り耐性無いことが分かる、新たな気付きだ。

 

「ふん。レフよ」

「なっ、何だよ……ジジイ!」

 鋭い視線がレフを襲う。

 

「わしの見立てだと、あのまま続けば十中八九お前の負けだったろうな」

「アァッ!有り得ねェな、オイ!」

 姿勢を前のめりにして、怒りを露わにするレフ。

 

「わしの判断を疑うか?」

「……ケッ!」

 その一言にレフは姿勢を戻す。祖父の力や強し。

 

「ソラよ、ライはどうだった?」

「はい。順当に強化されていますね。ただ、レフ同様、戦術の引き出しが乏しいと感じます」

 

「そうか」

 納得しているような頷き。

 

「サエキさん、質問よろしいですか?」

「申せ」

 

「はい。"お孫さんたち"に結璽術(けっしじゅつ)は伝授されないのですか?」

「……ふ、ファファファッ!」

 その問いにサエキさんは豪快に笑う。それだけで周囲へ威圧感を放っている。


「……ふん。ガキ共はまだ若い。結璽術(けっしじゅつ)なんて、まだ危険だろうが」

 ――だから、祖父過ぎますよ、サエキさん。

次話は4/28 6:00投稿予定です。

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