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カムサビ  作者: わゆ
【2章】禍津編
13/27

それをわるもの 5

 パアァァン!と周囲を切り裂く雷音轟く。もう止まらない、賽は投げられた。


 〜ソラvsライ〜

 

「さて、こちらも始めるか」

「笑止。もう始まってる」

 ライは既に戦闘体制――再度、天を掠める程に腕を高く突き上げる。

 

 雪風は次第に勢いを増して、俺たちの攻防を応援しているのか邪魔しているのか……

 

「俺に通用しないことは分かっているだろ?」

「理解不能。あれはたまたま」

 大粒の雪で視界が遮られる瞬間、奇しくも二人は動作を次のステップへと移行した。

 

「ソラ。死んで」

 残酷なまでに優雅に、その手を振り抜く。

 

「断る。――円環(えんかん)!」

 殺意の方向へ手を伸ばす。

 

 ドゴォォォン!と大気を割る爆裂音――その殺意は、またもや命を刈り取ることは無かった。

 

「……もう分かっただろ?連発されては先に鼓膜が破裂してしまう」

「不明。なぜ防がれる」

 鼓膜を割る程の衝撃音。有効打にならずとも騒音だけで副産物的なダメージを与えている。

 

「連発。何度でも」

「無駄さ」

 大気が震える。世間一般のデシベル値を優に超えた轟音が再び振り落とされる。

 

「理解不能。防がれる」

「ワンパターンが過ぎる。毎回同じテンポ、同じ位置、同じスピードで攻撃が来ることが分かっていたら、誰だって防げるさ」

 強がっているものの、ライは細長い身体を僅かに動かし肩で息をしているのが分かる。

 

 それに、レフとライの攻撃はムスビビトが扱う"結璽術(けっしじゅつ)"に昇華出来ていない――未完成品。

 

「お前の攻撃は確かに脅威だが俺には通用しない。要は巨大なハンマー状にムスビを練り上げ、それを思いっ切り振り下ろすだけ――視界に映らなくてもタネが割れていたら防御は容易だよ」

「はぁ……はぁ……解せない」

 

 巨大なムスビの塊をただ相手に振り下ろすだけでは、一定レベルのムスビビトでは簡単に防がれてしまう。その人の特性に合わせた結璽術(けっしじゅつ)を練り上げることが、一人前の証であり戦闘での差を生む。

 

「お前のムスビ切れを狙うジリ貧作戦も悪くないが、それはそれで遺恨が残りそうだ。ちゃんと格差を分からせる必要があるかな」

 そのまま正面へ両腕を伸ばす。開かれた左手は標的を捉える照準、握られた右手は破壊の核――そのまま力強くも静かに右拳を左掌へ撃ち下ろす。

 

「しまっ……!?」

詞奏術(しそうじゅつ)・略式――戯弾(げだん)

 

 次の瞬間、ライを中心とした五芒星が地面に浮かび上がる。五つの頂点から木・火・土・金・水の五行が彩られ、そして――逃げ場を潰すように一斉に"光の杭"が標的を貫く。

 

「グフっ!あぁぁぁ……!!!」

 

 五芒星が光に包まれると同時に、光の檻から逃げ出すようにライは上空へと高く舞い上がった。その姿は先程までの優雅さをまるで感じさせない。射出された光の杭の内、2本はライの左足と右脇へと突き刺さっている。損傷部からは赤黒く滲んだ叫びが、ダラダラと、ボタボタと重力に負け這いつくばっている……おい、誰が油断して良いって言った?

 

「――浄断(じょうだん)

 開かれた左手を次は上段、握られた右手を下段に移し替えて――再度、力強く右拳を左掌へ撃ち上げる。

 

 地上へ着地したライの頭上に五芒星が浮かぶ。

 

「……なっ、ばかっ!!」

 五つの頂点から木・火・土・金・水の五行が彩られ、そして――五芒星が光りに包まれる。



 〜アキvsレフ ②〜

 

「アァ〜、クソがっ!!!」

 装飾された4面の鏡がキラキラと瞬きを帯びながら消える。自滅の罠に嵌った愚かな悪態者は、全身を傷だらけにしながらも敵意を剥き出しにしていた。

 

 暗闇を纏ったような上下のスーツは全体的に破け、血液と吹き荒れる雪と同化して赤黒く凄惨に染めている。

 

 雪風は勢いを増す――オレたちを横殴りにする風と冷やかに嘲笑う雪が、まるで戦闘を実況しているようだ。

 

「勝負ありましたね」

 心は折れていなくても身体が追い付いてこない……目の前の敵をどうにかしたいが、傷だらけの四肢が反応しない……根性論だけで状況は覆らない、オレはそう見立てる。

 

「ハァ、ハァ……舐めやがってェ、オイ!」

 レフはそれでも構える――左手をオレに向けて殺意を込める。

 

「あなたの攻撃がどれだけ"速度"と"貫通力"に秀でていても、来ると分かっていたら避けることも防ぐことも簡単です」

「ケッ、関係ねェよ、んなことはなァ!」

 人差し指がオレの額を定める。

 

「……そうですか。では、また自分自身のムスビで傷を増やして下さい!略式――」

 鏡宙の発動をしようとした刹那、目の前にいたばすの負け犬が消えた。

 

「……えっ!」

「ケケッ、調子に乗ってんじゃねェぞ、オイ!」

 彼の声が"背後"から聞こえる――いつの間に!?

 

「くっ……!」

 ドガッ!と彼の殺意が頬に直撃し、乾いた音を響かせる。

 

「カカッ!」

 意識を狩るには十分な不意の一撃――頭蓋の芯まで衝撃は響き、視界が瞬時に火花を散らして真っ白に焼ける。頭は大きく横に揺れ、その衝撃による反動で身体は反時計回りに回りながら地面へと叩き付けられた。

 

 倒れ込んだオレを見るや否や、レフの猛攻が始まる――積雪に覆われた地面に血が飛び、そして跳ねる。ドガッ!バコッ!ゴリィ!と水分を得た破壊音だけが響き渡る。

 

 迷い無く放たれる殺意の拳、混ざりっ気の無い悪意の蹴撃――その勢いは増すばかり、傷だらけの身体を酷使させ標的を狩る。自身から散る赤と標的から溢れる赤が、混ざり合い、溶け合い、白の景色を浸食する。

 

「……うがっ、くっ、いい加減にっ!」

 意識を投げ捨てることをギリギリのところで食い止めたオレは、猛攻に苦しみながらも全身に力を込める。

 

「……しろ!!!」

 ムスビを全方位へ放出し、無理矢理レフの攻撃を止める。

 

「ハァ〜ア、雑魚がァ……!」

 ムスビの放出を寸前のところで後方に退避したレフ、その間に震える身体をどうにか動かし、よろめきながら立ち上がる。

 

「あー、痛ぇ……やってくれましたね……」

 裂けた唇から垂れる赤、全身からズンとした鈍い痛み、顔面の傷と腫れにより視界の半分は赤黒く染まる。

 

「あの高速移動は……はぁ、はぁ……?」

「カカッ、普段はレーザーのように標的へ向けて射出しているムスビをよォ、"自身に纏った"だけだぜェ!」

 あの速射性を全身に纏い、高速移動を可能にしたのか……よく考えている……あぁ、痛ぇ……

 

「ケッ、それにしてもなァ〜、そこに転がっている雑魚よりはタフだなァ、オイ!」

「……やはり、あの物忌を殺ったのは、あなたたちですか」

 レフの開戦時の言葉、それと今放たれた言葉……それが答え。

 

「ハァ、ハァ……今更かよ、バカだなァ、お前!」

 彼に罪の意識は無い。

 

「はぁ……はぁ……何故ですか?」

 オレたちの目的でもある――犯人の特定とその動機。

 

「ケケッ、理由だァ?んなもん、"邪魔した"からだろうがよォ、オイ!」



 〜ソラvsライ②〜

 

 五芒星の輝きが消える。

 

 地面に倒れ込んだライから無数の体液の混ざった血が雪の世界を溶かしていた。

 

「これで分かったか?」

「……はぁ、り、理解不能。何故勝てない……はぁ……」

 積雪に埋もれた顔面をノソリと上げ、わなわなと震えながら問いを投げる。

 

「経験の差」

 問いを弾き返すようにぞんざいな解。

 

「……く、くそっ!」

 無味無臭な殻を破り、人間的な感情を露わにしている。

 

「負けを認めてくれないか?」

「笑止。まだ終わっていない……」

 興が乗ってしまい二人を煽ってしまったが、俺たちの本来の目的は戦闘ではない。

 

「この戦いに意味は無い」

「……無意味。無意味と言ったか、ソラ……?」

 傷付いた身体に鞭打つように体勢を無理矢理起き上がらせる。

 

「無意味と言ったか?」

「あぁ、無意味さ」

 その言葉がトリガーになる。ライは両腕を天高く伸ばし――想いを爆ぜる。

 

「理解不能。お前のせいで……お前のせいで……!」



 

 ――止めんか、ガキ共。

 遠くから届く声に、雪は雲に隠れ、風は空へ逃げて、陽は夜とへ化ける。

次話は4/23 6:00投稿予定です。

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