表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カムサビ  作者: わゆ
【2章】禍津編
11/27

それをわるもの 3

「ヤツらの組織名は"禍津(まがつ)"――境界を世界の膿と評した末裔供だ」

禍津(まがつ)……聞いたことないですね」

 アキは言葉を反芻しているのか、瞼を閉じて自身の知識と照らし合わせているようだった。

 

「それはそうだ。ヤツらは表立った活動は基本していない。俺たちが向かっている"禍津の(もり)"に留まり、ひっそりと生活しているからな」

「それは何故ですか?Bの集団の末裔と考えると……もっと傲慢で荒々しく活動していてもおかしくないですよね?」

 もっともな疑問。俺も初めて知った時は、同様の疑問が浮かんだものだ。

 

「答えは簡単さ、協会が政府と結託したって話はしたよな?そこに理由がある」

「……あっ、禍津(まがつ)側は公に活動したくても出来ない!」

 

「正解!協会側が政府と連携して最初に実施したこと――他の大手3組織の活動制限。主義を通して死ぬか、組織を解体して二度と歯向かわないか、組織の存続を優先して隔離された生活を送るか……この辺りを迫ったんだろうさ」

「怖いですね……」

 

 恐れの感情を抱くのは正常な感性。ただ、ムスビビト関係無く、現代社会を生き抜く大手企業なども似たり寄ったりだったりする。同業他社への圧力や買収、法人・個人を契約で縛り上げたり……いつの時代もやることは大して変わらない。

 

「結果的に、禍津は"組織の存続"を選んだ。小さく狭い地区を禍津の杜と名付け、協会や政府に監視されながら、そこで静かに暮らしている」

「それが本当だとしたら、協会はその事実を何故会員へ共有しないんですか?」

 これも真っ当な疑問。

 

「危険思想を孕んだ組織なんですよね?監視体制も整えているなら尚のこと、会員内で理解を深めて厳重に管理した方が良いじゃないですか?」

 またもや真っ当な疑問。

 

「アキの言い分は正しい。安全面で考えると尚更そうだろう……なら何故しないのか?」

「はい」

 

「2つの危険性を考慮した結果だと聞いている」

「2つの危険性……?」

 アキは息を呑む。

 

「1つ目は、影響面――存在を知ることで異なる主義を認知してしまう。また、ヤツらに直接関わろうとしようものなら、協会側が今まで構築してきた理念やルールを瓦解されてしまう可能性がある」

「……」

 

「物忌と成った者は薄暗い過去が多いこともあり、禍津(まがつ)の主義主張に引っ張られてしまう可能性がある。ヤツらの思想は、ある種の劇薬だからさ……」

「……」

 アキは黙る。

 

「2つ目は、物理的な危険性――粗暴な連中の集まりだ、精神はもちろん肉体的にも強き者でないと、ヤツらの監視は出来やしない。故に経験豊富で歴の長い物忌が自ずと選ばれる。隔離施設に住まわせて別室からカメラで監視するなんて甘いものではないし、こちらから煽ることも固く禁じられている。強い精神力で自らを律し自衛手段も併せ持つ存在が適任なのさ」

「そういう訳なら、任命された人間だけ知っていれば良いかもしれませんね……」

 

「この辺の事情が絡んで、一部の人間にしか情報を与えていないそうだ」

「分かりました」

 完全に納得は出来なくても協会の方針に一定の理解を示したようだ。

 

「人の心は移ろいやすい……変なヤツらに刺激されて、内部崩壊を防ぎたいっていう協会側の保守性は少なからずある」

「組織の運営には必要なリスクヘッジですよね……あれっ、そう言えば!以前の話でソラさんは他の組織との面識があるようなこと言っていましたが、それが禍津の人なんですか?」

 以前のやり取りを思い出したかのように視線をガバッと上げ、発言の真偽を問う。

 

「そうだな、禍津と面識はある」

「オレとバディになる前ですか?組んでからは担当地域を出たこと無いと記憶しているんで……」

 首を左右に動かし記憶を辿る仕草のアキを横目で見ながら俺は答える。

 

「それも正解。アキと組む前の話だ……あまり思い出したくはないな」

「どうしてですか?」

 

「――その時も、人が死んだから」

 

 俺たちの会話は区切りを迎え、お互い静かに過ごす――あの発言に、アキはそれ以上の言及はせず、俺も追加で発言をしなかった。「気になるけど聞いたら最後、もう後戻り出来ない」と思ったのか、それとも別の理由か、横に座っているアキは「そうですか」と呟いただけ。俺も俺で言い訳や下手なフォローをするつもりも無かった――禍津と関わり、人が死んだ。この事実は変わらない。


 窓から映る景色は、気付けば白いロングコートで身を包み込んでいた。空からは季節の主張が小さくまばらになって降っている。濁った雲の行方は、俺たちの道程を指すものか、誰かの悲しみの具現か、俺には知る由も無い。目的の駅に着くまで、二人はそれぞれの思いに耽る。


『私はね、協会とか禍津とか別の組織もそうだけど、そんな枠組みは必要無いと思っている。主義主張が違うだけの只の人間さ……』

 過去に"あの人"から聞いた、そんな言葉を浮かべながら。

 

「着いたー!いや……寒いですね!」

「あぁ、住んでいる場所とは大違いだ」

 新幹線に乗ること約2時間、到着した俺たちは、駅を出てすぐに雪風の盛大な出迎えを受ける。

 

「ジャケット持ってきて正解でした!」

「そうだな。急いでレンタカーを借りに行こう」

 雪に、風にと視界を邪魔されながら、駅の近くにある店でレンタカーを借りる。

 

「ふぅ、住所を入れて……よし、登録完了!」

「よし、向かってくれ」

 目指すは禍津の杜――消息不明の物忌の捜索と、ヤツらとの面会。

 

 車で移動すること約30分、山間にある小さな町へと辿り着いた。誰が見ても分かりやすい程の田舎であり、街灯の設置なんて以ての外、田園風景を貫く長い道路をひたすらに進む。積雪量と交通量が見合っておらずアスファルトは白く染まっており、視界に映る情報では人家は点々としている。即ち人口の少なさを物語る風景。

 

「ここって……」

「あぁ、ヤツらの縄張りだ」

 そう、この片田舎こそ――禍津の杜。俺たちは既に足を踏み入れている。

 

「アキ、少し進んだ先……右手方向に神社らしき物が見えないか?」

「えっと……そうですね!ナビだと表示されていませんが、それらしき建物は見えます」

 

「あそこに寄りたい」

「……あっ、そういうことですか、了解です!」

 ――世界はシャボン玉で出来ている。


「車はここに停めて良いんですかね?」

「大丈夫さ、多分」

 

 着いたのは小さな廃れた神社――管理者不在で荒れ果てた、所謂廃神社だった。本殿を筆頭に木材は朽ち果て、所々が瓦礫と化している。鳥居も風化が進み参拝者を拒んでいるようだ。冬空と雪も相まって、より一層の悲壮感や寂寥さが辺り一体を覆う。

 

「ここに来た理由って、アレですか……?」

「その通り……」

 境内の中央部に"それ"はいた。地上から2メートル上の空間に、縫い付けられたように鎮座している。その直下には、雪で埋もれている小さな膨らみもある。

 

「って、まさか……!?」

「見つけたな」

 俺たちの目の前には――バスケットボール程のシャボン玉が浮かび、捜索中の物忌であろう人物が地面に倒れていた。

 

「ソラさん……"どちら"からにします?」

「アキ……御霊還(みたまかえ)しを行う」

 冷淡だと思われるかもしれないが、状況は既に一変している。死体の回収や調査と境界の対応……比べるまでもない。

 

「拡大は多少しているだろうが、目を見張る程の拡大スピードではないと判断する。二人で対応すれば、段式の下段で事足りるさ」

「OKです!サポートします!」

 

 境界の規模や速度によって、練り上げるムスビ量が変化する。一人でも十分に対応は可能だが、アキのサポートがあれば消費量を削減出来る。これからのことを考えると、念の為余計な消費は避けるべきだ。

 

「まずは、場を整える。バッグから――」


 パアァァン!と、何かが弾ける発砲音がこだました。


「……っ!?」

 目の前に浮かんでいた境界は、亀裂が入り、黒く染まり、そして……弾けて消えた。

 

「えっ、どういう……」

 アキは戸惑いを隠せていない。

 

 背中を伝う気配――この地は、どいつもこいつも派手な出迎えが好きなようだ。


「ヨォ〜、ソラ!遅かったじゃねェか!」

「所詮は無能。期待していない」

 俺たちの背後に、影2つ――禍津(まがつ)のお出まし。


 シャボン玉消えた、飛ばずに消えた

 生まれてすぐに、壊れて消えた

 ――風の声が聞こえた気がした。

次話は4/21 6:00投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ