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カムサビ  作者: わゆ
【2章】禍津編
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それをわるもの 2

禍津(まがつ)(もり)へ行ってくれ。きっと、"ヤツら"が出迎えてくれるよ」

 禍津の杜――協会とは異なる主義を持った組織の拠点。


「ソラさん……?」

 ツミキとの会話を終えて、一息付こうとしたタイミングで、アキが声を掛けてくる。

 

「どうした?」

「さっきの話って……」

 

「あぁ、ツミキからイタズラ電話だよ」

「それは横にいても分かりましたが、聞きたいのはそこではなくて……」

 うん、分かっている。

 

「なんだ?」

「死体回収が本当の目的ではないって……」

 そうなるよな、あんな不審なやり取りを無視して、運転を続けるなんて無理な話だ。

 

「ちゃんと説明するさ」

「はい」

 

「それに……」

「それに?」

 

「おっ、駅に着いたな」

「ソラさん!」

 ブーたれたアキと共に、車をパーキングに停め駅へと向かう。

 

「意地悪イジワルいじわる……」

「子供じゃないんだ、そんな顔するな」

 駅のホームへと歩く道中、アキは呪詛を吐くようにブツブツと呟いている。

 

「久しぶりの新幹線だな、弁当は買ったか?」

「意地悪意地悪のり弁意地悪……」

 どうやら弁当はちゃんと購入したみたいだ。

 

「ほら!普段は車ばかりだが、たまには新幹線の速さも良いだろう?景色がすぐに切り替わる」

「いじわるいじわるいじわる雪積もってるいじわる」

 ちゃんと景色を堪能しているな、よし。

 

「ソラさん!」

「どうした、大きな声を出して?」

 茶化すのも頃合いだな。

 

「オレたちは、新幹線に乗っています!」

「そうだな」

 

「だから、到着まで時間があります!」

「そうだな」

 

「先程の説明を!」

「分かったから……バタバタと手を動かすな」

 我慢の限界――アキは両手をバタバタと動かし催促する。

 

「あまり気持ちの良い話じゃないんだ。それでも良いな?」

「もちろんです!」

 親の帰りを待つ雛鳥のように、キラキラと瞳を輝かせ隣に座っている俺に顔をグイっと近付けてくる。


「先の研修で、少しだけ話題に挙がった"ヤツら"の話だ」

「あぁ!例の協会とは別の団体の話ですね」

 

「そうだ。アキも知っている通り、ムスビビトは決して一枚岩ではない。大昔に彼らは徒党を組み始めたんだが、早々に問題が起きた」

「問題ですか?」

 頭上にハテナマークを浮かばせ首を横に傾げるアキを横目に話を続ける。

 

「"境界"をどう扱うか」

「境界の扱い方ですか……?」

 

「現在でさえ情報が圧倒的に少ないんだ、当時からしたら余計に理解不能な存在だったのだろう」

「その可能性はありますね」

 アキは自身の中で内容をしっかり咀嚼するように、うんうんと小刻みに首を上下に振る。

 

「その扱いに、その定義に、それとの距離感に、とうとう最後まで折り合いが付かなかった」

「折衷案を模索出来なかったんですね……」

 明るかった表情が少しだけ影を帯び、声と共に落ちていくのが分かる。

 

「Aの集団は言った――それは、神々しく神秘的で人智を遥かに凌駕している。そんな存在は、神のように扱うべきだ。畏敬の念を持ってこちらも振る舞う必要がある」

「……」

 

「Bの集団は吐き捨てた――あれは、只の世界の膿だ。生命体を脅かす穢であり禍の元。あんなものは早々に排除するに限る。脅威になる前に消せば良い」

「……」

 

「Cの集団は説いた――主は、世界の均衡を保つもの。生きとし生けるものを管理し、慈悲と時には鉄槌を振り落とすものである。主の御心のままに我々は生きれば良い」

「……」

 

「Dの集団は示した――それは、神が我々に与えた希望だ。どう扱うかを試しているに過ぎない。あの叡智の種を花咲かせることが使命である」

「……」

 固唾を呑んで聞いているアキへ俺は続ける。

 

「肥大化した4つの団体は、それぞれの主義主張を押し通す為、組織化を進めて長年に亘り争いを続けた。結果的にAの集団が他を出し抜く形で一旦の終結を迎えた。その系譜が――」

「協会ですね」

 

「その通り。協会は知略謀略何でも利用して当時の政府と結託、その掲げる集団理念を基盤とした定義の(のり)を敷いた」

「オレたちが属している協会に、そんな背景があったんですね……」

 ある種のきな臭さは感じていただろうが、想定を超えていたのか、アキの声はか細く悲しげだった。

 

「仕方がない、過去の話だ。これも政治と割り切った方が良い」

「ソラさんは割り切れているんですか?」

 アキは問う。

 

「どうだろうな……本当のところは分からない。ただ、言えることもある」

「なんですか?」

 俺は答える。

 

「それぞれの意見が対立したところで、境界には関係無い。そもそも4つの集団の声が大きかっただけのことで、実際はどれも間違っているかもしれないだろ?」

「それはそうですね……」

 

「支持者をどれだけ増やそうと、国の運営と繋がっても、誤った理解では意味が無い。誤認は誤解を生み、歪曲された情報を基に道を整備しても無駄骨だ。寧ろ、余計な損害や損失を被ることにも繋がる……本末転倒で滑稽な結果さ」

「でも、それを言ったら……割り切るどころか何も信用していないとも取れますよ……」

 アキは不安そうに少しだけ声を震わす。

 

「案外そうなのかもしれないな……仮にそうだったとして、俺たちが今まで行ってきたことは間違いか?」

「えっ?」

 

「境界の対応、神居(かむい)の処理、それに伴う治安維持や安全対策――それは全て誤った道を歩いていただろうか?」

「……そんなことはありません!絶対に正しいとまでは言いませんが、オレたちの行動は決して間違いではないはずです!」

 こぶしにギュッと力を込め、アキは自信のこもった表情で視線を合わせる。

 

「だよな、俺もそうだよ」

 俺をしっかりとアキに視線を合わせて伝える。

 

「俺たちは俺たちの出来ることを地道に行えば良いんだ。それで助かる命がある――その事実で十分だろ?」

「……そうですね、はい、その通りです!」

 同僚として、仲間として、友人として、相棒として、一緒に為すべきことを為す。俺にはそれだけで満足だと思える。綺麗なシャボン玉を見て、感じて、知ろうと努力する――最期まで、それで良い。

 

「ありがとう」

「こちらこそです!」

 ――俺たちは、足並みを揃える。

 

「話が逸れてしまったな、本題に戻ろう」

「あぁ、いえ!協会の汚い面に気を取られて、オレも失念していました……」

 締まらない二人、それも悪くない。

 

「俺たちの任務は2つ――まずは、現場へ向かい消息不明の物忌(ものいみ)の調査。生死確認と死亡であれば死体の回収」

「それは理解しています」

 

「次が重要――とある組織との接触さ」

「とある組織……まさか!?」

 アキのハッとした表情、察しが良くて頼もしいよ。

 

「お察しの通り。協会の他に存在した集団の系譜――その1つが縄張りにしている地域、その中で物忌は消息を絶っていた。ヤツらの犯行でまず間違いないだろう」

「そんな……先程の話では組織間の争いは終結したって……」

 

「一旦とも言ったはずさ、知らないだけで裏で何が起きているか想像も付かない」

 空気が沈む――窓から見える景色は高速で切り替わり、俺たちに心の余裕を与えないかのよう。


「ヤツらの組織名は――禍津(まがつ)。境界を"世界の膿"と評した、Bの末裔共さ」

 ――綺麗事では、済まされない。

次話は4/16 6:00投稿予定です。

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