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カムサビ  作者: わゆ
【2章】禍津編
9/27

それをわるもの 1

「アァ〜ア!面倒事増やしやがってェ、オイ!」

 ゴソッ……ゴソッ……ゴリィ……

 

「仕方ない。運が無かった」

 ガサッ、ガリッ、ドサッ……

 

「ダリィ〜ダリィ〜ダリィ〜ン」

 グチッ、ブチッ、グリィ……

 

「変な歌止めて。殺したくなる」

 ドプッ……ドビュッ……ブチャ……

 

「ハァ!?マジで殺すぞォ、オイ!」

 グリッ、グリッ、グリン……

 

「不毛。もう殺してる」

 ザザッ……ザザッ……ザザッ……

 

「ケッ!それは言えてるなァ〜」

 パキッ、パキッ、ガリガリッ……

 

「対話は不要。邪魔するなら……」

 ――"神錆"同様、殺してやる。


〜〜〜


「おーい、アキ!準備出来たかー?」

「はーい!もうOKです!」

 俺たちは一度事務所に戻り、1時間程の小休憩を挟み改めて荷造りをする。

 

 お互いにいつも通りの振る舞いを心掛けているが、どこまで再現出来ているだろうか……分からない。アキは大丈夫か?もっと心配した方が良いのか?俺はどうだ……?いつも通り動けているか、普段と変わらず話せているか、思考は濁っていないか、自身を映す透明な壁に問いを投げ掛ける。壁に当たった問いは足元までコロコロと戻ってくる――俺はそれを続ける。

 

 今回のようなケースが今まで起こらなかったかと言えば、結果だけ見るとそうでもない。あくまで"結果"だけを考えるとだ。

 

「ソラさん、どうしました?」

「……あぁ、思考のクリーニングさ」

 立ったまま意識の深海へダイブしていたようだ。アキが意識の扉を叩いて引き上げてくれた始末。

 

「行きましょう!」

「なぁ、アキ……」

 

「なんですか?」

「大丈夫か?」

 問い掛ける。言葉にすることに意味がある気がした。

 

「心配してくれてありがとうございます!オレは大丈夫よ!そう言うソラさんは大丈夫ですかー?」

 アキは心配させまいと笑顔で振る舞う。

 

「俺も大丈夫だ。何かあれば気軽に言ってくれ」

「ありがとうございます!」

 

「あぁ、お互い助け合おう」

「はい!」

 ――俺たちは、足並みを揃える。


物忌(ものいみ)が、殺されました」

 

 この事実が俺たちの生活を一変させた――物忌(ものいみ)は、"対境界"が可能な協会に属するムスビビトを指す。


 ムスビという特殊な力を得ていることは事実であり、それを用いることで治療も殺傷も出来たりする。とは言え、軽度の外傷程度しか治せないし、医師免許を有している訳ではないので、大々的な治療行為はそもそも認められていない。殺傷能力もありはするが、当然だが刑罰の対象であり特権なんてものは存在しない。


 何が言いたいのか……ムスビビトであれ、物忌であれ、その力を発揮させて良いのは、"境界"との対峙のみに限られていること。普段はおいそれと発揮させて良い力ではなく、限定的で局所的な運用が求められている。それは全てのムスビビトに対する制約であり例外はない――そのはずだった。


「協会の話では、とある物忌の生命反応が消失したのが本日未明……連絡をしても一切応答が無いことから死亡と断定したようです」

 

 物忌は協会と、"とある契約"を交わしている――それは、『境界の対応に関して個人の裁量でムスビの行使を認め、それに関連する雑事や事後処理を協会側で受け持つ。その代わり、協会から下された任務は断れず、また"生命活動"も把握されること』だ。


 物忌と玉仕(たまぐし)の心臓には、特殊な法術が埋め込まれており、それにより、俺たちの現在地と生死を協会側で確認することが出来る。距離や場所に制限は無く、権限者であれば、いつでも情報を入手することが可能になっている。


「また、死亡したとみられる物忌のムスビを辿ると、"第三者によるムスビの痕跡"が発見されています」

 

 機械類で管理しているのではなく、ムスビビトらしくムスビで協会と物忌は繋がっている。心臓に埋め込まれている法術もそうだ、その繋がりを辿ったのだろう。ムスビの行使には痕跡が残ることが多い。

 ――"第三者"と言うことは、死亡の原因は境界ではないことの裏付け。


「現情報のみで、ムスビビトによる犯行なのは濃厚ですが……やはり確証が欲しい。消息の途絶えた場所へ向かい生死の確認、死亡の場合は死体の回収。あわよくば"物忌殺し"を割り出し、見つけ次第拘束したい。それが協会の方針です」

 

 組織の考えは当然と言える。遠隔で断定した情報のみで終わらせることは有り得ない。現場検証を行うことが必要だ、事故死ではない可能性が極めて高いのだから。


「ツミキさんからご指名です。ソラさん、アキさん……お二人には現場へ向かってもらい、本件の"収拾"の任に就いて欲しいと。お願い出来ますか……?」

 

 ツミキからの指令――アイツの言葉は協会の総意でもある。選定理由は不明だが、俺とアキを任命したのは何かしらの適正を見込んでなのか、それとも別の理由か……どちらにせよ、答えは決まっている。


 

「もしもし、ソラ君」

「忙しいから後にしろ」

 

 現場へ向かうべくアキの運転で車を走らせている――今回は担当地域ではなく、別の物忌が管轄する地域への移動だ。県を跨ぐことになるので、最寄りの新幹線停車駅まで向かっている道中。

 

 ダテさんとの会話を思い出しながら思考を巡らせていると、聞きたくない声の主から着信があった。

 

「どうせアキ君に運転させて、助手席でふんぞり返っているだけでしょ?」

「……分かった。切るからな」

「おいおい、待ってくれよ」

 見えていないツミキの表情まで浮かんでくるようだ……

 

「今回はごめんね、管轄外のことに巻き込んじゃって」

「思ってもいないことを言うのは感心しないな」

 コイツはそういう奴だ。息をするように嘘を吐き、本心とは裏腹な言葉を平然と言ってのける。

 

「私を何だと思っているんだい?」

「悪魔」

「酷い言われ様だね、まったく……」

 事実を告げただけだ。

 

「悪魔であれ天使であれ、多少の申し訳なさを感じているのは本当だよ?」

「多少な」

 

「うん、多少。この業界に身を置いているんだ、多少の切った張ったは演じてもらわないとね」

 他人事のようにツラツラと。

 

「俺たちの力は、境界の相手をする為だろ?」

「そうだね、その通りだ!ただ、今回はそうもいかない……なんせ協会所属の物忌が殺されたんだから」

 ツミキの声が少しだけ暗くなるのを感じる。

 

「殺された……その情報がどれだけ濃厚であれ、まだ確定するには早いと思うが」

「残念ながら、確定したよ」

 事故ではなく事件――死亡理由は、第三者による殺害であるとツミキはハッキリと断言していた。

 

「もしかしたらソラ君は、誰が犯人か分かっているんじゃないのかい?」

「俺はエスパーではない、そんな芸当は出来ないさ」

 

「消息が絶えてしまった場所を考えると、容易に想像付くよね?」

 あの場所であれば、確かに心当たりはある……ただ、それだけで決め付けるのも間違っている。

 

「うん、まだ容疑の段階――でもね、"ヤツら"のムスビに限りなく近いんだよね、痕跡が!」

「……」

 ヤツらであれば、こうなる可能性は高い。だが……

 

「あの場所は、"彼"と行った以来かな?積もる話もあるだらうから、宜しく伝えておいてよ」

「お前は……」

 コイツは人の心を平然と踏み荒らす。やはり悪魔で間違っていない。

 

「どちらにせよ、今回の調査は難しいと思う。出来る範囲で良いから頑張ってみて!」

「委細承知だよ、全く……」

 クックックッと通話越しから笑い声が届く……コイツは本当に終わっている。

 

「分かっていると思うけど、現場検証はもちろん必須……後は、分かるよね?」

「あぁ……分かっている。死体の回収が本当の目的ではないんだろう?」

 コイツの命令は言葉の通りに受け取ってはいけない。必ず裏がある。

 

「よろしい!ソラ君が優秀で誇らしいよ!」

「うるさい」

 

「私とソラ君だけの秘密だよ!」

「はぁ……」


禍津(まがつ)(もり)へ行ってくれ。きっと、"ヤツら"が出迎えてくれるよ」

 禍津(まがつ)(もり)――協会とは異なる理念と主義を持った組織の拠点。

本日から2章の始まり。次話は4/15 6:00投稿予定です。

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