9話
ギコギコと音を鳴らしながら、新太は手押し車を仕事場まで押してきた。
中身はほとんど入っていないものとはいえど、慣れない道具であることに加え、舗装されていない道、機能的にも優れているとは言えない手押し車の構造……と、思っていたよりも負荷のある荷物だったことは確かだろう。
それでも、新太はここまでしっかりと運んできたのだ。
「よっし、そんじゃやってみるか」
手押し車を置いて、中に入れていた他の道具を取り出し、倉庫の中で思い描いた形にセットしていく。
石を持ち上げ、縄を通し……それを手押し車と共に持ってきた滑車にかけていく。
そう、この滑車こそが新太の考えた+αの案なのだ。
「本当は吊り下げて使った方がいいけど、積まれた石材の山を利用すりゃ、少しの力で石を吊れる……はずだ」
実際にやってみるまではどうなるか分からない……が、これがダメだったとしても背負子と手押し車で多少は効率があがるはず。
そう、ダメだったら手押し車には自分で載せれば良いだけの話だ。
なら、やってみるしか無ぇよな!
「――うおりゃ!」
グオォ……と滑車から低い音が響くと同時に、手に感じる重たい感触。
どうやら成功したみたいだが……これ、どうやって固定すりゃ良いんだ……?
その後、思いついた新太が縄の先を別のところに結んだのは、数分が経過してからのことだった。
◇◇◇
「かんぱーい! くぅ……うめぇ! 疲れた身体に染みるなぁ……」
「あはは。アラタさん、アガロのおじさんみたいなこと言ってますよ-?」
「いや、ホントに美味いんだって。ティナさんも大人になったら分かるって」
「大人って……アラタさん、私と同じ15じゃないですか」
「それは……まあ、そうなんだけどさ」
言いながら新太は目の前の少女に、そっと目を向ける。
人懐っこく笑う顔は少し焼けており、鼻筋にはそばかすが薄く見える。
背中辺りまである赤茶の髪は少々跳ねがあり、今日の忙しさを物語っていた。
……ちなみにティナさんはこの宿の看板娘で、ちょうど俺が帰ってきたタイミングでまかないを準備していたらしい。
「そういえばアラタさんはどうしてブルーミングに来たんですか? 観光って感じじゃないですけど」
「あー、なんていうのかな。そこに街があったから、みたいな感じなんだ」
「……??」
困惑した顔でコテンと顔を傾げるティナ。
その姿に少し笑いつつ、俺はそれ以上話を深掘りされないために、「だから街のこととかよく知らなくてさ」と話題を逸らした。
「そうなんですね」
「そうそう、だからギルドで身分証を作れって言われたんだけど困ってるんだよ。たしか3つあるんだよね?」
「ギルドですか? そうですね。この街にあるのは、冒険者ギルドと商人ギルド、あと職人ギルドの3つです。でも、アラタさんみたいな旅人さんは、冒険者ギルドに登録されてる人ばっかりですよ」
……冒険者ギルドか。
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