第121話 絶望の淵
「ギャーッ。」
イタチは突き刺されて悲鳴を上げた。
刺している全員が冷酷残忍な狂気に支配されて
顔や体までもが凶暴な鬼と化してしまっている。
想いが鬼になった途端、姿も鬼に変化するのだ。
鬼達は弱っている相手を苦しませることに
快感を感じて夢中になっていた。
イタチの片割れはしばらく苦しみもがいていたが、
そのうち動かなくなった。
黒いスーツとズボンとともに
真っ二つに斬られているイタチが動かなくなると、
異常な興奮状態の鬼達は奇声を上げて勝ち誇った。
「ざまあみやがれ。」
「弱いくせに格好つけやがって、このざまだ。」
「ギャーハハハ、ばかやろー」
口々に罵った。
しかし動かなくなった者に興味はなくなったのか
すぐに、もう片方のイタチに攻撃を加えようと向き直った。
まだ元気のいいほうのイタチは
サホミを奪い取ろうと
群がってくる者達を追い払うために
刀を振りまわしている。
「ふふふふ、こいつも殺っちまえ。」
「格好つけて自惚れてる奴を許しておけるか。」
「二度とでけえ面出来ねえようにしてやれ。」
片割れをボロボロにし終えた連中は
侮ってもう片方のイタチを包囲して来た。
イタチは全滅か。
この熟練した殺し屋集団にかかっては勝ち目はない。
サホミはますます絶望の淵に立たされてしまった。
「キェーッ」
鋭い気合いと共にイタチ攻撃が始まった。
全員が完全に目の前のイタチに意識が向かっている。
すると突然、
うしろに打ち捨てられているイタチの体から
ゾワーッと盛り上がるように何かが湧き出て来たと思うと、
それがダーッと先を争って津波のように広がって行った。
凄い速さだ。
それが鬼達の足元へ飛びついたかと思うと
弾丸のような速さで背中を這い上がって行って
次々頭に取り付いた。
瞬くまに鬼達の頭は葱坊主のようになってしまった。
見ると大量のカマキリが
鎌を顔や頭に打ち込んでしがみついているのだ。
そしていっせいにところ構わず食いついている。
頭に取り付けない無数のカマキリも
体全体に取り付いて鎌を打ち込んだ。
鋼鉄のように強く鋭い鎌は
鎧も突き通してしまう。
「ぐわー」
鬼達は苦し紛れに
体中を掻きむしってのたうちまわっている。
不意にボロボロの状態で倒れていた半分のイタチが目を開くと
ムックリ起き上がって、
ピョンピョン跳びはねながら左回りに回り込んで行った。
するとサホミを挟んで左右に半分づつのイタチが
跳びはねながらサホミに近づいて行く形になった。
そしてそのまま
左右から半分づつのイタチがサホミに激突したと思うと
サホミの姿が忽然と消えて
イタチが元通りの姿になった。
途端に鬼達に取り付いていたカマキリも一瞬に消えてしまった。
鬼達は何が起こったのかしばらくの間キョロキョロしていたが、
イタチが元にもどっていることに気付いて驚いた。
「あの野郎生きてやがる。」
「何者だ。」
「信じらんねえ。」
鬼達は瞬間怯んだが、中の一人が大声で叫んだ。
「こいつに女を奪われたことがアブブ太閤様に知れたら
我らがどんな仕置きをされるかわからんぞ。
必ず仕留めろ。なにがなんでも逃がすなー。」
これをしくじれば自分達が危ない。
一瞬にして恐怖が鬼達を支配した。
「かかれー。」
恐怖に駆られた鬼達が再びイタチに襲いかかってきた。