第115話 沸騰池
見知らぬ屋敷の中へ運び込まれた飯山の意識は
朦朧としていた。
自分はどうしてこんなところにいるのだろうか。
大勢のけたたましい悲鳴、怒鳴り声、呻き声が
あたり一面に響いている。
飯山の頭には穴が空いていて
激痛に耐え切れなかった。
しかし、少しづつ意識が戻って来て
自分が両手両足を縛られて
吊されていることはわかった。
どうしてこうなっちゃったんだ。
始めのうちはわからなかったが、
ぼーっとした意識に記憶が戻って来て、
やっと槍が頭を直撃して倒れたことを思い出した。
それにしても騒々(そうぞう)しい。
頻繁に
言い争いと怒鳴る声がしているが、
そのうちバシャーンと水音がすると、
ギャーッとけたたましい悲鳴があがる。
飯山はまだハッキリしない意識で頭を回してみた。
「おやっ」なんだ。
何か大きな池のようなものがあることに気付いた。
そしてその全体がボコボコと
激しく沸騰していて、
何かを煮ている匂いがあたり一面に充満している。
薄暗い中にもうもうとたっている湯気が
視界を遮って、よく見えない。
湯気の切れ間に
見え隠れして煮えたぎっている池の中に
浮いたり沈んだりしているものが多数見えた。
何だろう。
ますます不審な思いに駆られて、
ぼやけている目をジッと凝らした。
「あーっ」
次の瞬間、飯山は思わず声を上げた。
人だ。人がいる。
その中に投げ落とされた人々は
熱湯で煮こまれる苦しさに
そこから逃れ出ようと必死にもがいて
次々に淵をはい上がって来る。
淵はごった返して
それぞれが我先に出ようとしている。
手下達は右に左に走り回って
六角棒をぶんぶん振り回わし、
かたっばしから叩き落としてしまう。
熱さと恐怖の悲鳴が大合唱となって
阿鼻叫喚の渦が
この場全体を巻いている。
「俺もあの中に落とされる」
飯山は恐怖でパニックになって
縄を外そうと
力任せにもがいた。
が縄はほどけそうもなかった。
「ダシガラは外へ捨てて新しいのをどんどん入れろ。
まだまだ薄いぞ。
もたもたするな。
そこでふらついているやつは突き落とせ。
使い物になんねえ。」
しわがれ声が指示を出している。
ふらついていた男はそばにいた手下が蹴り落とした。
手下だろうが使えないとなると煮てしまうのだ。
残った者達は恐怖でビクビクしながら
「へい、わかりやした。早くしろ。
そこらへんのはダシガラだ。外へ出せ。早く。」
声がしたと思うと、
ガラガラ音を立ながら何かを捨てていた。
「それも持って来い。」
班長らしい男の声がした。
と思うと手下達が
飯山の吊されている竿の回りに集まって来た。
飯山は驚いてうろたえた。
そして
「やめてくれー」
悲鳴に似た叫び声が思わず出てしまった。
しかしそんなことはおかまいなしに
手下達は無言で両端をかついで持ち上げると
池のほうへ歩きだした。
そして池の淵まで来たとき、
「ちょっと待てい。」班長の声がした。




