第114話 細工
イタチはサホミのそばに走り寄ると
袖をつかんで物陰に寄った。
この世界では隠れただけでは素通しなのでわかってしまう。
相手から見通せないように、
光りで出来ているバリアーを張らなくてはならないのだ。
イタチが意識を集中すると
途端に二人の姿が見えなくなった。
土塀から上のほうに上がって行った蜘蛛は
念の力で糸を延ばして
敷地の上空に網を張り巡らせると、
イタチが細工した瓶を地面スレスレに引き上げながら、
修羅場と化した住人達の足元を移動させて行く。
警察機構などというものはない世界だから
暴力も歯止めがきかない。
誰も止める者はいないし、
たとえ止めようとする者があっても
「いいかっこしやがって。」
と反感を買って即座に八方から刃物が飛んで来る。
そして全員を敵にまわすことになる。
戦って負けた者はズタズタに斬り裂かれて
あちらこちらに散らばって、
転がっまま動かない。
どんな残忍なことも、まかり通ってしまう。
全員が殺し合いに夢中になっていて、
瓶が移動していることさえも気がつけない。
蜘蛛は慎重に瓶を移動させていって、
中庭の真ん中で勢いよく燃えている焚火の中へ
静かにそれを入れると姿を消した。
「怪しい奴を見かけたんだが、どこへ行きやがった 。」
見張りらしい三人ほどの男達が駆けつけて来ると
キョロキョロしながら、
あちらこちら探し回わり始めた。
しばらくうろうろしていたが
「ばかやろう。いい加減なことを言いやがって。
いやしねえじゃねえか。」
一人がイラつきながら言った。
他人をまったく信じられない連中だ。
ちょっとしたことでも
自分がおちょくられていると感じてしまうのだろう。
「なにー。もう一回言ってみろ。」
言うが早いか刀を抜きざま、斬りはらった。
瞬間、相手の胴体が真っ二つに斬り離されて転がった。
抜刀術の達人なのであろうか。
刀を避ける間もない早業だ。
もう一人が無表情で成り行きを見ていたが、
「ふん」
とばかにした様子で目をそらして板壁を見た。
「あっ、穴が開いてるぞ。」
「なに。逃げやがったか。」
二人は穴に駆け寄ると、
一人が慎重に中を窺った。
「いないぞ。」
中を確認した男が抜刀の達人に言った。
「えっ、いないだと。大変だ。
おーい、女が逃げたぞー。」
二人は口々に大声を張り上げながら乱闘の中へ走って行った。




