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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第76話 ヴェンデリン、記憶喪失になる(その3)

「シンゴーさんの正体ですか?」


「そうだ。結局のところそれがわからなければ、シンゴーを婿にできないのではないかと思い始めた」


「確かに、それはあるかもしれないな」


「シンゴーさん、既婚者って感じもしますからね」


「あれだけの優良物件が、独身のままのわけがない」


「となると、私たちはシンゴーさんを諦めた方がいいのか?」


「それは嫌ですね」


「シンゴーは魔法使いだ。あと数人嫁が増えても問題あるまい」


「それもそうですね」


「シンゴーのような素晴らしい男に、嫁が一人のわけがないからな」





 この村におけるシンゴーの争奪戦は、これから激化していくだろう。

 魔法使いで、優れた猟師でもあり、自由自在にお酒を作れて、この村の畑や用水路の整備があっという間に進んだ。

 この村一番の名主の娘としては、ぜひ婿に欲しいところ。

 私には家を守る義務があって、だから優れたシンゴーを……シンゴーは気が強い私にも優しいから、婿にきてほしい。お父さんも反対しないって言ってくれているし……。

 そんなわけで、私は密かに酒場の看板娘アイシャと、村一番の猟師の娘ミンファと密かに話をすることにした。

 ここで無理にシンゴーの独占を図るよりも、三人でシンゴーを共有する協定を結んだ方がいいと思ったからだ。

 

「そうでなくてもライバルは増える一方だから」


「確かにこのところ、シンゴーさんに声をかける村の未婚女性は多いですね」


「未亡人のシルクなんて、露骨に側室か妾になれないかなって公言しているぞ」


「ここで私たちが争っている間に、横からかっ攫われるのを防ごうと思って」


「それはいい手ですね」


「私にも異存はない。シンゴーほどの男なので、元から独占は難しいと思っていたからな」


「では三人で協力して、他のライバルたちを上手く防いでいきましょう」


 私たちの実家は、村でも裕福で有力者でもある。

 タッグを組めば、他の家の娘たちには負けない。


「魔法使いであるシンゴーを婿に迎え入れ、その力で村の新たな有力者を目指す者もいる。たとえば、木こりたちを纏めているハートンの娘のランや、罠猟の名人であるゴンスの娘のターニャなんかがそうだ」


 この村の特産品の一つに木材もあって、伐採、枝払い、植樹などを取り仕切る木こりたちは村での地位向上を目指しており、そのまとめ役であるハートンはシンゴーを婿にすることを目論んでいるとか。 

 そして、この村では古くから、弓で猟をする猟師たちと、罠猟をする猟師たちとの仲が悪かった。

 過去にあったイザコザのせいらしいが、今はミンファの父であるジャックが率いる弓猟師たちの方が力が強く、逆転を狙って罠猟師たちを率いるゴンスが、シンゴーを娘のターニャの婿にしようと動き出しているという情報も入っいていた。


「シンゴーが誰の婿になるかで、この村の勢力図が大きく変わるかもしれない」


「シンゴーさんは魔法使いですからね。それも凄腕の」


「シンゴーさん本人はそういったことが嫌そうだが……」


 嫌いでも、こんな小さな村だ。

 誰の家に婿入りするかで、この村の有力者の勢力図が大きく変わりかねなかった。


「シンゴー本人にはこのまま自由に暮らしてもらって、たまにお手伝いをしてくれれば十分だと思う。他の家に婿に入ったら、そうもいかないだろうから」


 自分の家を村一番の有力者にしようと、シンゴーを扱き使うようになるはず。

 それを防がなければ。


「とにかくそんな情勢だから、シンゴーの正体を知っておいた方がいいかなって」


「シンゴーさんが何者でも、この村に残ってほしいですね」


「本人は急ぎ記憶を取り戻そうとする気持ちもなくて、シンゴーさんは大変だったのかもしれない」


 魔法使いは便利だから、この村に来る前のシンゴーさんは、常に扱き使われて大変だったのかも。


「それなら、私たちのお婿さんになってもらって、これからも自由に暮らしてもらいましょう」


「それがいいと思う」


「本人も無理に記憶を戻そうって気もないみたいだから、このまま村にいてもらいたいな」


 お父さんに頼んでシンゴーのことを調べてもらいつつ、今はシンゴーの自由に暮らしてもらおう。

 ライバルたちは、三人で排除させてもらうけど。



※※※※



「はっくしょい! ううっ……。お館様はいずこに? 探索範囲を広げるか?」


「いつもなら数日サボって戻って来るんだけどな。ついにローデリヒ殿に扱き使われるのが嫌になったとか?」


「定期的なお休みはありましたし、これもバウマイスター辺境伯家のためと思ってですね」


「なにかトラブルでもあったのであるか?」


「辺境伯様が、この辺の動物に殺されるとは思わないけどな。魔物の領域もないんだから」



 

 お館様が行方不明になってから半月が過ぎた。

 拙者たちは懸命に探しているのだが、お館様は王国北部でとある貴族からの依頼を受けてそれを達成した帰り、一人で森に色々と採取に出かけた際に行方不明になったということが判明している。

 だがその範囲は広く、捜索に多数を動員しているが、なかなか見つからなかった。


「エリーゼ様たちも心配しておりますから」


「子供たちもなぁ……。すでにかなりの広範囲を探索したから、あとは……いくつかの村を探すだけだな」


「ブランターク殿、某、喉が渇いたのである!」


「子供か! 次の村で喉を潤すか」


「某、キンキンに冷やしたエールを! もし冷えていなくても自分で冷やすのである!」


「はいはい。ローデリヒ殿、エルの坊主、次はこの村に行くぞ」


「ヴェルの奴、心配かけやがって」


「なにかトラブルがあったのかもしれないな。では次の村へ急ごう」


 辺境伯様が死ぬとは思えないからすぐに見つかるとは思うが、もしかして貴族の仕事が嫌になったとか?

 とにかく、今日中に可能性がある村の探索を終えて、もしもの時のことも考えないと駄目か。

 辺境伯様が、魔物の領域でもない森で遭難して死ぬなんて、あり得ないと思うんだよなぁ……。 



※※※※



「シンゴーさん、今日はなにをしているんですか?」


「魔法で、お酒の熟成をしているんだ。上手くいけば、少し高い価格で売れるし、熟成された酒は人気があるから」




 魔法でお酒を作ることには慣れており、それを材料に作る果実酒も酒場で評判がよかった。

 そこで、穀物や果実で作ったお酒を蒸留してアルコール度数……酒精分じゃなくてアルコール? その言葉をどうして俺は知っているのだろう?……を高めてから、樽に入れて『熟成』を進めていく。

 一部の樽はわざと内側を『火炎』で焦がして、入れたお酒にスモーキー感が出るようにしたりと、なんちゃってウィスキーの試作も試みている。

 

「(どうして俺に、ウィスキーとやらのお酒の知識が……)まずはこんなものかな?」


 『熟成』させた樽入りのお酒を確認すると、少し量が減っていた。

 樽についてだが、この村に腕のいい職人がいて、さらに木こりのハートンさんが許可をくれたので、お酒にいい香りがつく木を数種類伐採して樽を作ってもらった。

 

「森の木の伐採許可をくれたハートンさんにも、あとでお酒を持って行かないと。よし、いい香りがしてきた」


 普通なら時間がかかるお酒の熟成も、魔法なら一瞬で終わる。

 早速樽から少量抜き出して香りを嗅いでみると、。樽に使った木材の香りがしっかるとついていた。


「そして、しっかりと量が減っているな」


「減った分は、どこにいってしまったんですか?」


 ウィスキーを長期間貯蔵すると、樽に吸われたり、水分が蒸発して量が減っていく。

 それを天使の取り分というらしいけど、俺はそれをどこで知ったのだろうか?

 それが魔法でも再現できたということは、長期熟成したものとそう味に違いはないはず。

 俺は早速、試作品を酒場で振る舞ってみた。


「うーーーん、この酒はいいねぇ。強い酒精分独特の味が薄くて、甘味や旨味、そして香りも素晴らしい」


「かなり酒精分が高いのに、それを感じないのが凄い。熟成することで、酒の味がまろやかになるんだな」


「こっちの酒は、燻製を作る時に感じる煙感が出ていて、これはこれで美味い!」


「こっちは、果実酒ベースだがら甘いな。樽材に使った木の爽やかさも出ている」


 魔法で『熟成』させた蒸留酒は高評で、これも定期的に酒場に卸すことになった。


「本当に長年熟成させたお酒には少し負けるんだけど」


「そういうお酒は高すぎてこの酒場では出せないから、ありがたいですよ。さすがはシンゴーさん」


 美人なアイシャさんに褒められると悪い気がしない。

 まあこれも、この村の住民と仲良くするためのコツというか、円滑な人間関係のためだ。


「あとは、ハーブ類につけたお酒や、ちょっと変わったところでは毒蛇をお酒に漬けたりとか……。蛇は精力増強にいいみたい」


「 蛇のお酒は、人を選びそうですね」


「俺もちょっと遠慮したいかも」


 熟成させたお酒の納品は無事に終わり、今日は午後からなにをしようかな?

 そんなことを考えていたら、酒場に新たにお客さんが入ってきた。

 いつもの常連客は試飲でいたので、多分村の外の人だなと思った瞬間、入ってきた四人の男性客が一斉に俺のところに走ってきた。


「なんだ?」


 その中には、恐ろしく体の大きな魔法使いもいて……魔法使いはもう一人いるから、彼らは冒険者なのだろうか?

 などと思っていたら、よく見ると執事服を着た場違いな若い男性が俺を見るなり涙を流し、その手を掴んできた。


「お館様ぁーーー! よくぞご無事で!」


「お館様?」


 俺が、お館様?

 ということは、俺は貴族だったのか?

 魔法使いではある自覚はあったが、まさか俺が貴族だったなんて。


「あの……。俺は貴族なんですか?」


「え? お館様? それは冗談ではなく?」


「実はこの村に来るまでの記憶が曖昧で、魔法使いなのはわかったけど、自分が誰なのかわからないんです」


 だから、この村で静かに過ごしていたという事実もあったのだから。

 

「ヴェル! 俺まで忘れたのか?」


「これは、貴族の家臣の方ですね」


「マジで?」


「辺境伯様、まさか俺まで忘れてしまったのか?」


「某は? バウマイスター辺境伯!」


「生憎と、どちら様かちょっと思い出せなくて……。ところで、俺がバウマイスター辺境伯? そんな大物貴族なんですか?」


 確かに俺は魔法は使えるけど、それだけで辺境伯になれるものなのか?

 でも四人の表情は真面目そのもので……。

 どうすれば記憶を取り戻せるのか?

 いや、辺境伯ともなると大変そうだから、このまま記憶が戻らない方がいいかも。

 

「あの……俺って、結婚して子供がいるとかありますか?」


「本当に記憶がないのか……。エリーゼたちが悲しむだろうなぁ……」


 エリーゼ……。

 聞いたことがあるような名前だけど、思い出せない。

 ようやく俺は自分の正体を知ることができたけど、記憶が戻らないとどうにもならないというか……。

 さて、どうやって記憶を取り戻せばいいのだろう?

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― 新着の感想 ―
 信賞必罰がガバガバな“愚王ルール”に、ローデリヒは汚染されているのでは?  後ろから刺される戦場に立って、外貨を稼ぐ商売もして、みんなと同じ休み・・・ありえないでしょう。  『お婿さん』が側室・妾…
瞬間移動が使えないのだからローデリヒが一緒に探索しているのは無理がある。領地も管理責任者がいない状態になるし。そもそもブランタークさんは探知能力があったはず。知っている魔法使いなら数千キロまで探知でき…
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