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八男って、それはないでしょう!   作者: Y.A
みそっかす編

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第75話 ヴェンデリン、記憶喪失になる(その2) 

「シンゴーさん、なにを作っているんですか?」


「ハチミツ酒と、魔法で作ったお酒に森の果物を漬けた果実酒だよ」


「うわぁ、いい香りですね」




 魔法使い(腕のある)のいい点は、無理に狩猟、採集をしなくてもお金を稼げる点だ。

 魔法で酒精分の高い蒸留酒を作り、それに森で採取した果物を漬けて果実酒を作る。

 栽培していない果実は甘くないことが多いけど、果物酒の材料なら特に問題なかった。

 あとは、ミツバチの巣から集めたハチミツでハチミツ酒を……俺は前に、ハチミツ酒を作った経験があったような気がしたので、作ってみたら作れた。

 こうやって作ったものは、下宿している酒場に安く卸している。

 酒場の二階にある空き部屋に下宿しているのだが、家賃も食費も無料なので、このくらいはしないと。


「シンゴーさんが作った果実酒とハチミツ酒、とても評判なんですよ」


「それはよかった」


 最近、酒場の看板娘であるアイシャさんと話をすることが多い。

 彼女はスタイル抜群の美少女で、彼女目当てに酒場に、レストランに来る客も少なくなかった。


「シンゴーさんは記憶がないんですよね?」


「そうなんだよ、これが困ったことに」


「あまり困っているように見えませんけど?」


「生活できないわけじゃないからね」


 自分が何者なのか気になるけど、ヒントもなく各地を彷徨って俺を知っている人を探す……やってもいいんだけど、本能が『しばらくここで、ノンビリやればいいじゃないか』と言ってくるので、それに従って生きていた。


「シンゴーさんって、ご家族は?」


「いると思うけど、思い出せないんだよ」


「あの……ご結婚はされていますか?」


「思い出せないんだ」


 俺くらいの年齢なら結婚して子供がいてもおかしくはないし、結婚してそうな気がするけど、していないような気も……。


「じきに思い出しますよ」


「そうだよね」


「あっでも……」


「なに?」


「もしシンゴーさんが結婚していなかったら、この酒場に婿入りしてもいいんですよ。だってシンゴーさん、魔法使いなのに商売にも詳しいから」


「ごめん、まだそこまで考えられないよ」


 アイシャさんは綺麗だから、この酒場に婿入りできるなんてとてもいい話だと思うけど、もし俺が既婚者だったらたら目も当てられない。

 それに、こんな小さな集落で不用意に色恋沙汰を起こすと危険だ。

 最悪追放されかねないので、記憶が戻るまでは色気ナシのスローライフで行こうと思う。






「すげえ!」


「あの巨岩を動かせるなんて……」


「魔法って、本当に大したものなんだな」


 俺は村にたった一人の魔法使いなので、たまに狩猟、採集以外の仕事がくることもあった。

 こういう仕事はお金にはならないが、引き受けることで地元の人たちからの印象を良くし、余所者の俺が警戒されずに住むことができるようになる。

 それに経費もかからないので、安い依頼料でも黒字になるのが魔法使いのいいところだ。

 今日の依頼は、村の畑の真ん中にずっと埋まっている巨岩の撤去であった。

 直径が十メートルを超える巨岩のためこれまで誰も動かせず、とにかく農作業の邪魔なので、俺の出番というわけだ。

 早速巨岩を『念力』で浮かせ、名主の娘であるリーアさんが指定した場所に捨てに行く。


「終わった」


「さすがは魔法使いね。私の見込んだとおりよ」


 まだ十二歳だからか、薄目な胸を張りながら俺を褒めるリーアさんは名主の娘で、その実家は広い農地を持つ富農でもあるらしい。


「今度は、あそこの用水路を掘ってよ。農閑期にみんなで作業する予定なんだけど、シンゴーが引き受けてくれたら他のことができるから。もちろん報酬は出すわよ」


「じゃあ、明日の朝にでもやっておくよ」


「ありがとう、シンゴー。もう一つお礼に、私のお婿さんになってもいいのよ」


「リーアさんは名主の一人娘じゃないか。俺みたいに流れの魔法使いじゃなくて、ちゃんとした家柄のお婿さんを迎え入れないと駄目でしょう」


「それは……」


「リーアさんが成人した時に、縁があったらね」


 またも求婚……。 

 たが俺はそんな気は微塵もなく、スローライフを送るのが目標なのだから。

 それに、リーアさんはまだ子供だからなぁ。

 






「よし!」


「シンゴーさん、弓も上手なんだね」


「そうみたい。弓を使った記憶はないんけど、なぜか使えたんだ」



 今日は、村の猟師たちと一緒に狩猟に出かけた。

 このところ熊が出るらしく、それに備えるためだ。

 今のところ熊は出没しておらず、猟師たちは次々と獲物を仕留めており、俺にもやってみないかと弓を渡された。

 魔法同様、自分が弓を使っていた記憶はないのだが、試しに見つけた鹿に向かって矢を放つと見事に命中した。


「俺は弓を使った経験があるようだな」


「かなり慣れていると思うよ」


 村一番の猟師と評判のジャックさんの娘であるミンファさんも父に負けないくらいの凄腕であり、ジャックさんは、『うちのミンファと結婚したかったら、弓の腕前を磨くんだな!』と常々口にしているほどだった。

 当然俺の弓の腕前はこの二人に及ばず、俺がこの親子のお眼鏡に叶うとは思わないので安堵していたら、突然茂みから黒い塊が出てきた。


「熊だ!」


 かなり大きな熊が、俺が狩った鹿を奪い取ろうと姿を現したようだ。

 猟師たちが騒然とするなか、俺は弓を構えて矢を発射した。


「シンゴーさん! その弓では!」


「わかっている」

 

 熊は筋肉の鎧に覆われ、骨も頑丈なので、普通の弓では致命傷を与えられない。

 そこで俺は、魔法で矢のスピードを『加速』させて貫通力をアップ。

 見事熊の頭部に命中した矢はそのまま貫通、 一撃で脳を破壊された熊はその場に倒れ伏した。


「すげえ腕前だ!」


「ミンファでも勝てないだろうな」


「いえ、これは純粋な弓の腕じゃないですよ」


 熊に矢を当てたのは実力だが、威力を増して貫通させたのは魔法のおかげだ。

 なので、純粋な弓の実力とは言えない。


「矢を当てるのなら、ジャックさんとミンファさんでも当てられますから」


 ここで下手に、俺の方がジャック親娘よりも弓の腕に優れているなんて評価されたら、ジャックさんから婿入りしろと言われかねない。

 だから懸命に、魔法のおかげだと猟師たちに言い続けた。 


「しかし、俺とミンファは熊を恐れて手が出なかった。シンゴーはすぐに熊に立ち向かった。弓の腕前だって、ちゃんと熊に当てているじゃないか。シンゴー、うちに婿入りしないか? ミンファは、アイシャやリーアにも負けず劣らずの器量良しだぜ」


「ええと……」


「考えておいてくれよ」


「ミンファも嫌じゃないだろう?」


「大歓迎です」


「そうだよな」


 これで三人目……。

 記憶にないが、俺って実は結構女性にモテるのか?

 ただ、今の俺はスローライフが目的なので、この村の女性と結婚して骨を埋めるつもりは微塵もない。

 悪いけど、上手く求婚をかわしながら暮らしていかないと。



※※※※



「シンゴーさんがいると、森の奥で様々な果物、木の実、野草が採取できていいですね」


「シンゴーがいると魔法の袋を持っているから、畑の肥料にする落ち葉や腐葉土を大量に集められていいわね」


「ホロホロ鳥が沢山いていいわ。シンゴー、一緒に狩りましょう」




 シンゴーが下宿している酒場の娘アイシャ。

 名主の娘リーア。

 そして、村一番の猟師の娘ミンファ。


 今のところ、シンゴー争奪戦で優位に立っているのはこの三人か。

 全員が評判の美少女で、この村だけでなく、近隣の村にも嫁に迎えようと考えている者たちがいるほどだ。

 そんな彼らからすれば、得体の知れない他所者が、三人の美少女のうちの誰か婿になるのは許せないと憤慨しているそうだが、シンゴーは魔法使いだからなぁ。

 それにシンゴーは、度々我々を魔法や知識で助けてくれるし、村の風習や慣習にも配慮してくれる。

 そのため今では、彼を余所者だから疎外しようとする村人はほとんどいなかった。 

 むしろ、魔法で開墾を手伝ってくれたり、用水路を掘ってくれたり、この前は村の近くに出没した巨大熊を退治してくれた。

 猟師のジャックなんて、娘のミンファに『なるべくシンゴーと一緒いるんだ。他のライバルを牽制できるし、一緒にいることでシンゴーも情に絆されるはず』と言っており、最近ミンファは、ずっとシンゴーと一緒に狩猟をしているからな。

 アイシャも採集の時には必ずついてくるし、下宿ではシンゴーの面倒を甲斐甲斐しく見るようになった。

 リーアもシンゴーに仕事を頼むだけでなく、彼についてくることが増えた。

 『私は名主の娘だから、シンゴーに仕事を頼む時、色々と伝えないといけないから』などと理由をつけて。

 本当は、ライバル二人を牽制する意図があるのだろうけど。


「(それにしても、シンゴーはどうするのかな?)」


 記憶が戻らないと結婚どころではないのだろうけど、三人ともシンゴーの奥さんになりたいのがミエミエだ。

 村の老人たちは、誰がシンゴーの妻になるか楽しそうに噂し合っているし……。

 

「さて、こんなものかな」


「シンゴーさん、お弁当を作ってきたので一緒に食べましょう」


「ありがとう、じゃあスープでも温めるかな」


「シンゴ、私もお弁当を持ってきたから一緒に食べましょうよ」


「ありがとう、お茶も淹れようかな」


「シンゴー、狩ったホロホロ鳥を焼いてあげるから」


「美味しそうだなぁ……」


 シンゴー、俺に縋るような視線を向けないでくれ。

 お弁当を食べきれるのか不安なんだろうけど、俺はカミさんに弁当を作ってもらっているから。

 それに、ただの同行者である俺が、三人が作った弁当に手を出せるわけがないじゃないか。

 魔法使いは大食だって聞くから、なんとか食べきってくれ。

 


※※※※



「シンゴーさん、おはようございます」


「おはよう」


「今度、うちに食事にいらしてね」


「カミラ! あんた、婚約者がいるじゃないの!」


「リーア様、ただ父が普段お世話になっているから、お食事に誘っただけですよぉ」


「シンゴーさん、今度木材にする木を切り倒してほしいんですけど、どの木かわからないでしょうから、私が森の奥まで同行しますね。あっ、お弁当は任せてください」


「私も一緒に採集に行きますね」


「(アイシャ、邪魔……)」


「えっ? なにか言った? 木こりの娘なのに、普段木なんて切ったことないエリサさん」


「シンゴーくん、一緒に罠を仕掛けにいかない? 罠猟も楽しいよ」


「ついでに狩猟もしようじゃないか」


「……ミンファも一緒か……。隙がないなぁ……」


 段々と村の女の子たちがシンゴーさんにアピールを始めたけど、最初にシンゴーさんを好きになったのは私よ! 

 必ずシンゴーさんと結婚して、二人で楽しく酒場をやっていくんだから。

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