↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
温泉神の試練 〜八十八か国を巡る魔物退治と混浴の旅〜  作者: サンサンマツリ
第四章【結】決戦への旅立ちと、温泉神の真意、永遠の選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/51

第四十七話 八十七か国目と最後の準備


 五人が抱き合ったまま、しばらく沈黙が続いた。

 温泉の湯気が、夜空へ昇っていく。硫黄の匂いが鼻をくすぐった。

 星明かりが湯面に揺れている。


(残り二か国……長い旅だった)


 俺は仲間たちの顔を見回した。

 スヴィーナの銀髪が月光を反射している。パティの犬耳がぴくりと動いた。

 クラリスは目を伏せて、まだ涙の跡が頬に残っていた。ディアナが静かに微笑んでいる。


「さて」

 俺は咳払いをした。

「明日の朝、出発しよう。八十七か国目は火山地帯だ。十日はかかる」


「十日……」

 スヴィーナが呟いた。猫耳が小さく揺れる。

「そんなに遠いの?」


「地図で見る限りはな。山を越えて、川を渡って、砂漠を抜ける」


 パティが「うへー」と声を上げた。

「砂漠! 暑そう!」


「火山地帯はもっと暑いぞ」

 俺は苦笑した。


 クラリスが顔を上げた。緑の瞳が揺れている。

「あの……私も、意見を言ってもいいですか?」


「当たり前だろ」

 俺は即答した。

「お前は仲間だ。遠慮するな」


「……はい」

 クラリスが小さく頷いた。彼女は杖を握りしめて、言葉を選ぶように口を開く。


「火山地帯の温泉は、おそらく溶岩の熱を利用しています。魔物も炎の属性を持っているはずです。水の魔法で対処できますが、熱気が厳しいでしょう」


「なるほど」

 俺は頷いた。

「じゃあ、耐熱の装備を準備しないとな」


「あたし、暑いの苦手なんだよね……」

 パティが犬耳を垂らした。


 スヴィーナがくすりと笑う。

「大丈夫よ。私が風の魔法で涼しくしてあげる」


「本当!? ありがとう、スヴィーナ!」

 パティが尻尾を振った。


 ディアナが温泉から上がりながら言った。

「では、明日の朝まで休みましょう。長旅になります」


「そうだな」

 俺も温泉から上がった。身体が芯から温まっている。


 五人で宿へ戻る道すがら、クラリスが俺の隣を歩いた。


「マックス」


「ん?」


「……ありがとうございます」

 彼女の声が震えていた。

「私を、仲間として受け入れてくれて」


「気にするな」

 俺は彼女の肩を軽く叩いた。

「お前がいなきゃ、ここまで来られなかった」


 クラリスが微笑んだ。初めて見る、心からの笑顔だった。


 ◇


 翌朝、宿の食堂で朝食を囲んだ。

 焼きたてのパンの香ばしい匂いが広がっている。スープの湯気が立ち上り、テーブルに置かれた果物が朝日を浴びて輝いていた。


 俺は地図を広げて、旅程を確認する。


「ここから東へ三日、山を越える。そこから川沿いに二日南下して、砂漠を三日横断。最後に火山地帯へ二日で到着だ」


「合計十日ね」

 スヴィーナがパンをちぎりながら言った。

「食料と水は足りる?」


「途中の村で補給できる。問題ない」


 パティがスープをすすりながら尋ねた。

「火山地帯って、どんなところなの?」


「溶岩が流れてて、地面が熱いらしい」

 俺は地図の端に書かれた注釈を読み上げた。

「普通の靴じゃ歩けないって書いてある」


「うわー、大変そう」


 クラリスが静かに口を開いた。

「火山地帯の温泉は、八十八か国の中でも特に強力な魔力を持っています。魔物も相応に強いでしょう」


「でも、あたしたち五人なら大丈夫だよね!」

 パティが笑顔で言った。


 スヴィーナが頷く。

「そうね。今の私たちなら、どんな魔物が相手でも負けないわ」


 ディアナが果物を口に運びながら微笑んだ。

「五人の連携は完璧です。きっと大丈夫」


(そうだな……五人なら、きっと)


 俺は仲間たちの顔を見回した。


 クラリスが遠慮がちに、でも確かな意志を込めて言った。

「私も、全力で戦います」


「頼りにしてるぜ」

 俺は笑った。


 朝食を終えて、五人で出発準備を整える。

 旅装束を確かめ、武器を点検し、食料と水を詰める。


 宿の主人が見送ってくれた。

「気をつけてな。火山地帯は危険だ」


「ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。


 五人で古代都市遺跡を後にする。石畳の道が朝日に照らされて、影が長く伸びていた。


 ◇


 十日間の旅は、予想以上に過酷だった。


 山道は険しく、岩が足場を削る。川の流れは速く、渡るのに半日かかった。

 砂漠の熱気は容赦なく、夜は凍えるほど冷えた。


 だが、五人で支え合いながら進んだ。

 スヴィーナの風の魔法が暑さを和らげ、パティの力が荷物を運び、クラリスの魔法が道を照らし、ディアナの知恵が危険を避けた。


 そして十日目の夕暮れ、ついに火山地帯が見えた。


「あれが……」

 俺は息を呑んだ。


 地平線の向こうに、赤い光が揺らめいている。溶岩が流れる音が、遠くから聞こえてきた。

 硫黄の匂いが風に乗って鼻を突く。地面が微かに震えていた。


「すごい……」

 パティが呟いた。

「本当に溶岩が流れてる……」


 スヴィーナが眉をひそめる。

「あんなところに温泉があるの?」


「ああ。地図によれば、火山の麓に温泉があるはずだ」


 クラリスが杖を握りしめた。

「魔力の反応が強いです。魔物がいます」


「よし」

 俺は剣の柄を握った。

「行くぞ」


 五人で火山地帯へ足を踏み入れる。

地面が熱い。溶岩の赤い光が辺りを照らし、影が揺れた。岩の隙間から蒸気が噴き出している。


やがて、火山の麓にある温泉跡に辿り着いた。

周囲には硫黄の匂いが立ち込めている。


 そして、温泉の中央に魔物がいた。

 炎を纏った巨大な獣だ。目が赤く光り、牙が溶岩のように輝いている。


 咆哮が地面を震わせた。


「来たな……!」

 俺は剣を抜いた。

「いつも通りだ。スヴィーナは右から、パティは左から。クラリスは後方支援、ディアナは俺と一緒に正面から!」


「了解!」


 五人が一斉に動いた。


 スヴィーナが風のように駆ける。猫耳が風を切り、銀髪が揺れた。彼女の短剣が魔物の脇腹を狙う。

 パティが力強く跳躍した。犬耳が立ち、琥珀色の瞳が輝く。彼女の短剣が魔物の後ろ足を狙った。


 クラリスが魔法を唱える。水の球が宙に浮かび、魔物へ向かって放たれた。炎が水に触れて蒸気が上がる。


 ディアナが俺の横で剣を構えた。

「行きます!」


「ああ!」


 俺とディアナが同時に斬りかかる。

 魔物が咆哮し、炎を吐いた。だが、クラリスの水の魔法が炎を消す。


 スヴィーナの短剣が魔物の脇腹を切り裂いた。パティの短剣が後ろ足を深く切り裂く。

 俺とディアナの剣が、魔物の首を狙った。


 魔物が崩れ落ちる。炎が消え、光が弾けた。


「やった……!」

 パティが歓声を上げた。


 魔物が消滅し、温泉を覆っていた黒い霧が薄れていった。


 俺は胸の青い勾玉を握りしめ、源泉の前に立った。

「温泉神よ、この地に眠る泉を、再び解き放て!」


 勾玉から青い光が溢れ、源泉を覆っていた封印が解けていく。

 やがて湯が透明になり、温かな湯気が立ち上った。硫黄の匂いが辺りに広がる。


「八十七か国目……」

 俺は呟いた。

「解放完了だ」


 五人が顔を見合わせる。


 スヴィーナが微笑んだ。

「完璧な連携だったわね」


「うん! あたしたち、最強!」

 パティが尻尾を振った。


 クラリスが静かに頷く。

「皆さんのおかげです」


 ディアナが温泉を見つめた。

「美しい……火山の温泉は、初めて見ました」


「よし」

 俺は剣を鞘に収めた。

「今夜は、ここで休もう。混浴だ」


「賛成!」

 パティが真っ先に服を脱ぎ始めた。


 ◇


 夜の火山地帯は、不思議な美しさがあった。

 溶岩の赤い光が夜空を照らし、星が瞬いている。温泉の湯気が立ち上り、硫黄の匂いが鼻をくすぐった。


 五人で湯に浸かる。熱い。だが、心地よかった。


「残り一か国だ」

 俺は空を見上げて呟いた。

「長い旅だった……」


 スヴィーナが俺の隣で微笑む。

「あなたと出会えて良かった」


「……ああ」

 俺は頷いた。


 パティが元気に言った。

「あたしたち、最強の仲間だよね!」


「そうだな」


 クラリスが静かに口を開いた。

「でも……最後の国は、これまでとは違います」


「どういうことだ?」

 俺は彼女を見た。


 クラリスの緑の瞳が揺れている。

「温泉神様の真の試練が待っています。おそらく、八十八か国目の温泉は……」


 彼女が言葉を切った。


 その時、空が光った。


「マックス様!」

 声が響く。温泉国からの魔法の伝令だった。


 光が俺たちの前に降り立ち、緊迫した女の声が響いた。

挿絵(By みてみん)

「最後の国の温泉が、異常な力を放っています! 急いでください!」


「何が起きているんだ!?」

 俺は立ち上がった。


「詳しくは分かりません! しかし、王宮に保管されている秘宝が激しく反応しています。至急、温泉国へお戻りください!」


 光が消えた。

 五人が顔を見合わせる。


「温泉国へ……」

 俺は呟いた。


(王家の秘宝が、最後の国と関係している……?)


 スヴィーナが立ち上がった。

「行きましょう。急がないと」


「ああ」

 俺は頷いた。


 五人で温泉から上がる。溶岩の光が、俺たちの影を長く伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。