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温泉神の試練 〜八十八か国を巡る魔物退治と混浴の旅〜  作者: サンサンマツリ
第四章【結】決戦への旅立ちと、温泉神の真意、永遠の選択

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第四十六話 八十六か国目とクラリスの告白


「残り三か国か……」

 俺は夜空を見上げた。星が瞬いている。


「早く済ませて、すべての温泉を解放しないとな」


 ディアナが頷いた。

「ええ。でも焦らず、慎重に」


「あたしも賛成!」

 パティが尻尾を振った。


 スヴィーナは湯に身を沈めたまま、何も言わなかった。

 クラリスは俯いていた。


 湯気が、五人を包む。


「明日は早いぞ。もう休もう」

 俺は立ち上がった。


 ◇


 翌朝、俺たちは出発した。

 八十六か国目となる、古代都市遺跡が眠る国へ向かう。


 地図によれば、ここから六日間の道のりだ。

 石畳の道を歩く。足音が規則正しく響いた。


「ねえマックス」

 パティが話しかけてきた。

「八十六か国目って、どんなところなの?」


「古代文明の遺跡があるらしい」

 俺は地図を確認した。

「昔は栄えていたが、今は廃墟になっている」


「廃墟かあ……」

 スヴィーナが呟いた。

「魔物が強そうね」


「油断しないようにしよう」

 クラリスが杖を握りしめた。彼女の手が、微かに震えている。


(何か、気になることでもあるのか……?)

 俺は心の中で考えた。でも、今は聞かない。

 彼女は最後の国ですべてを話すと言った。それまで待とう。


 六日間の旅は、穏やかだった。

 草原を抜け、丘を越え、川を渡る。

 夜は焚き火を囲んで眠り、朝は温かいスープを飲んだ。


 クラリスは、いつもより口数が少なかった。


「大丈夫?」

 パティが心配そうに声をかける。


「ええ……大丈夫です」

 クラリスは微笑んだ。でもその笑顔は、どこか硬い。


 六日目の夕暮れ、俺たちは古代都市遺跡に到着した。

 石造りの廃墟が、一面に広がっていた。


「すごい……」

 ディアナが息を呑んだ。


 崩れた柱、割れた石畳、蔦に覆われた壁。苔の匂いが鼻を突く。


「ここに温泉があるのか?」

 スヴィーナが尋ねた。


「ああ。地図によれば、遺跡の中心部にあるらしい」

 俺は地図を指差した。


 五人で、遺跡の中を進む。足音が、石畳に反響した。

 風が、崩れた壁を撫でる。


 やがて、開けた場所に出た。

 そこに、封印された温泉があった。石造りの円形の池。表面は硬い岩で覆われている。


「ここだな」

 俺は勾玉を取り出した。青い光が、勾玉から溢れる。


「いつものように頼む」

 俺は勾玉をかざした。光が、温泉を包む。


 封印が、ゆっくりと解けていく。


 その瞬間――温泉から、眩い光が立ち上った。


「なっ……!?」

 俺は目を細めた。


 光の中から、人影が現れる。いや、人ではない。

 それは、光そのものだった。温かく、優しく、そして圧倒的な存在感。


「マックスよ」

 声が、空間に響いた。低く、穏やかな声。


「よくぞここまで来た」


「……温泉神!?」

 俺は驚いて叫んだ。


 光が、ゆらめく。


「そして我が眷属クラリスよ」

 温泉神の声が続いた。


「よくぞ彼を導いた」


「眷属……?」

 俺はクラリスを見た。彼女は震えていた。杖を握る手が、白くなっている。


「やっぱり……」

 スヴィーナが呟いた。猫耳がピクリと動く。

「クラリスは温泉神の……」


「そうです」

 クラリスが涙を流した。


「私は温泉神様の眷属として、あなたの旅を見守るために遣わされました」

 彼女の声が震える。


「あなたが仲間を信じ、困難を乗り越えられるか。それを見届けることが、私に与えられた役目の一つでした」


「役目……?」


「でも……それがすべてではありません」

 クラリスは俯いた。

「残された真実は、最後の国で明らかになります。今は、まだお話しできません。でも、これだけは本当です……最初は任務でした。でも今は、あなたたちが本当の仲間です!」


「そんなの……」

 パティの犬耳が垂れ下がった。琥珀色の瞳が揺れる。

「信じていいの……?」


 俺は、拳を握りしめた。

 クラリスの涙が、頬を伝う。


 温泉神の柔らかな光が、五人を包んだ。


「クラリスは、与えられた役目の一つを果たした」

 温泉神の声が響く。


「だが彼女もまた、お前たちとの絆で変わった。それが試練の意味だ」


「試練……」

 俺は呟いた。


(そうか。これも、試練の一つだったのか……)


 俺は、手を差し伸べた。


「クラリス」


 彼女が顔を上げる。


「お前は俺たちの仲間だ。それは変わらない」


「マックス……」

 クラリスが、俺の手を取った。温かかった。


 彼女は泣き崩れた。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」


 スヴィーナが溜息をついた。

「……もう、しょうがないわね」

 彼女は振り返って、クラリスに歩み寄った。

「許すわ。でも二度と嘘はつかないで」


「はい……!」


「あたしも!」

 パティが駆け寄って、クラリスに抱きついた。

「やっぱりクラリスは仲間だよ!」


 ディアナも微笑んで、クラリスの肩に手を置いた。


 五人が、抱き合う。

挿絵(By みてみん)

 温泉神の光が、五人を優しく照らしていた。


「この地の温泉を解放すれば、残り二か国だ」

 温泉神の声が響いた。


「最後の試練が待っている」


 光が、消えていく。


「マックスよ。お前なら成し遂げられる」


 温泉神の声が遠ざかった。


「信じているぞ」


 光が完全に消え、静寂が戻った。


 俺は再び青い勾玉を掲げ、源泉へと向き直った。

「温泉神よ、この地に眠る泉を、再び解き放て!」


 勾玉から青い光が溢れ、残されていた封印が完全に解けていく。

 やがて、岩に覆われていた源泉から温かな湯が湧き出した。


 湯気が立ち上り、硫黄の匂いが広がった。


「残り二か国……」

 俺は空を見上げた。星が、輝いていた。

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