第三十八話 次なる国への旅立ちと新たな連携
翌朝。温泉国の王宮前広場に、朝日が差し込んできた。復活した大温泉から、湯気が立ち上っている。
金色の光に染まった白い湯煙が、空へ昇っていく。
「本当に、ありがとうございました」
ディアナが深く頭を下げた。王女の衣装が、朝日に輝いている。
「大温泉の復活で、国が蘇りました」
広場には、温泉国の民が集まっていた。見送りに来た人々が、口々に感謝の言葉を述べている。
「マックス様!」
「ありがとうございます!」
「温泉が戻った!」
俺は旅支度を整えながら、四人娘に視線を向けた。
「仲間のおかげだ」
スヴィーナの猫耳が、朝風に揺れる。パティの犬耳が、嬉しそうにぴょこんと跳ねた。クラリスは静かに頷いている。
「これからは一緒に戦うのよ」
スヴィーナが、俺の隣に並んだ。青い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめる。
「もう一人で抱え込まないで」
「あたしたちに任せて!」
パティが拳を突き上げた。
「絶対、守るから!」
「……ああ」
俺は頷いた。胸の勾玉が、朝日を受けて光る。
「信じてる」
ディアナが微笑んだ。
「次の国でも、きっと」
「ええ。必ず温泉を解放します」
クラリスが答えた。落ち着いた声が、朝の空気に溶ける。
五人は王宮前を後にした。民衆の声援が、背中を押してくる。
街道に出ると、森の匂いが鼻をくすぐった。木漏れ日が、道を照らしている。
「ねえ、マックス」
スヴィーナが俺の隣を歩きながら言った。
「これからは対等よね」
「ああ?」
「だって、あなたは私たちを信じるって言った」
猫耳が、嬉しそうに揺れる。
「私たちも、あなたを信じてる」
「やっと対等になれたのね」
パティが前を歩きながら振り返った。
「あたしたち最強!」
犬耳が、ぴょこぴょこと跳ねる。
「これからどんな魔物が来ても、やっつけてやる!」
「調子に乗りすぎないように」
クラリスが諭した。でも、その口元には小さな笑みが浮かんでいる。
「次の試練に備えましょう」
クラリスの視線が、一瞬北の空へ向いた。温泉神の社がある方角。
眉が、わずかに寄る。
「……」
スヴィーナの猫耳が、クラリスの方を向いた。でも、問いかける前に。
「あ、見て! あれ!」
パティが指差した。街道の先、開けた場所に何かいる。
「魔物……?」
俺は立ち止まった。
狼型の魔物が三体。灰色の毛皮に、赤く光る目。牙を剥いて、こちらを睨んでいる。
「小規模ね」
スヴィーナが前に出た。爪を構える。
「でも、油断はできない」
「マックス、どうする?」
パティが俺を見た。琥珀色の瞳が、期待に輝いている。
俺は深呼吸した。胸の勾玉を握る。
「……お前たちに任せる」
「え?」
三人が振り返った。
「俺は儀式に集中する」
後方に下がりながら言った。
「お前たちを信じる」
スヴィーナの目が、大きく見開かれた。猫耳が、ぴんと立つ。
「……本当に?」
「ああ」
頷いた。
「これが、俺たちの戦い方だ」
「やった!」
パティが叫んだ。
「任せて!」
クラリスが杖を構えた。
「スヴィーナ、前衛を」
「分かってる」
スヴィーナが駆け出した。銀髪が、風になびく。
魔物が飛びかかってきた。
魔力をまとったスヴィーナの爪が、牙を受け止める。
金属音が響いた。
「パティ!」
「了解!」
パティが側面に回り込む。素早い動き。犬耳が風を切る。
魔物の脇腹に、パティの拳が叩き込まれた。
「ガウッ!」
魔物が吹き飛ぶ。
「氷の矢よ、貫け」
クラリスの詠唱が響いた。杖の先に、青白い光が集まる。
氷の矢が放たれた。残りの二体の魔物に、氷が突き刺さる。
「シャアアッ!」
魔物が崩れ落ちた。氷の破片が、朝日に輝く。
三人の息が、揃っている。連携が、完璧だった。
俺は後方で勾玉を握りしめていた。
(これが……仲間との戦い)
スヴィーナが振り返った。額に汗が滲んでいる。でも、笑顔だった。
「どう? 見てた?」
「ああ」
頷いた。
「完璧だった」
「えへへ」
パティが照れくさそうに頭を掻いた。
「あたし、ちょっとだけ強くなったかも」
「少しだけ、ね」
クラリスが微笑んだ。
「でも、確実に成長しています」
三人が、こちらに歩いてくる。息を整えながら。でも、その表情には達成感が満ちていた。
「これが本当の仲間との戦いだ」
俺は呟いた。
スヴィーナの猫耳が、嬉しそうに揺れる。
「そうよ。これからもずっと」
「一緒に戦おう」
「ええ。次の国まで、まだ距離がありますから」
クラリスが街道の先を見た。
「休憩を挟みながら、進みましょう」
五人は再び歩き始めた。木漏れ日の中を。新たな連携を確かめながら。
次の国へ。次の温泉へ。
俺たちの旅は、まだ続く。




